横浜国立大学(横浜国大)は11月22日、3Dプリンタを用いて、導電性を有するフレキシブルな3次元造形物(3次元フレキシブル配線)を作製することに成功したと発表した。
同成果は、横浜国大大学院 工学研究院の向井理特任助教、同・丸尾昭二教授らの研究チームによるもの。詳細は、高分子科学を扱うオープンアクセスジャーナル「Polymers」に掲載された。
現在、IoTの進展に伴い、ウェアラブルデバイスなど、曲面に追従するようなフレキシブルデバイスが求められている。ウェアラブルデバイスを作製する上で、配線を3次元化することができれば、2次元的な配線に比べ素子の高密度化が実現できるため、デバイスの高機能化が期待されている。
導電性高分子の中でも、「3,4-エチレンジオキシチオフェン」(PEDOT)は安定性が優れているなどを理由に、産業的に成功している導電性高分子の1つとして知られているが、その導電性を活かすためのさまざまな加工法が提案されているものの、その多くは3次元的な造形が困難な手法だという。
そうした中で、最近では3Dプリンタの活用が試みられており、材料押出(MEX)法を用いたPEDOTの造形手法が実証されている。しかし、MEX法は造形精度が材料を押し出すノズル径に制限されるため、造形精度に限界があったという。
そこで研究チームは今回、3D構造体の造形が可能な光造形法に着目。柔軟性を有する高分子材料をマトリックスとして、PEDOTがナノレベルで分散した3D構造体を形成できる光造形用樹脂、および処理法を開発することにしたという。
光造形法は、光照射によって硬化する光硬化性樹脂を用いて3D構造体を作製する手法だが、PEDOT単独では青黒い固体であるため、光造形の際に光を減衰させてしまい直接硬化させることは困難だったとする。
この問題を解決するために、ほかの研究チームによる先行研究として、PEDOTの前駆体である無色透明な「3,4-エチレンジオキシチオフェン」(EDOT)を用いた手法がある。これはEDOTと光硬化樹脂を混ぜ合わせ、光造形にて任意の形状を作製した後に、造形物内部のEDOTをPEDOTへと後処理で変換することで、導電性を有する3D構造体を作製するというものだという。また、この先行手法では、光硬化性樹脂の選択により、フレキシブルな造形物を作製できる可能性が示唆されていたという。
しかし、先行手法での導電性は最大でも0.04Scm-1と、配線材料に用いるには低く、加えて導電性を向上させるためにEDOTの量を増やそうとすると、造形物の構造が崩れてしまうという課題も抱えていたとのことで、今回の研究では、先行手法で十分な導電性が得られなかった理由として、後処理の過程に注目することにしたという。