このものづくりのまとめ

  • 航空機構造の軽量化に向けて、CFRPなどの複合材料をボルトではなく接着剤で接合する接着構造への期待が高まっている
  • 接着剤に添加される改質剤(ゴム粒子)が、接着剤内部の損傷や変形に与える影響を考慮し、CFRP接着構造の強度を予測するマルチスケール解析モデルを、東北大学の研究グループが構築した
  • これまでは実験的な試行錯誤に頼ることが多かった改質剤の添加量設計を、数値解析に基づいて行うための指針になると期待される

航空機構造の軽量化に向け、軽くて強いCFRPなどの複合材料を使った部材を接着剤でつなぎ合わせる手法が注目を集めている。そのCFRP接着構造の強度を数値解析で予測するマルチスケール解析モデルを、東北大学の研究グループが構築。接着剤の開発における試行錯誤の削減や、信頼性の高い接着構造設計への寄与が期待されるとしている。

  • 今回の研究で実施した接着強度試験。破壊後の接着面にはCSR粒子の痕がみられる 出所:東北大ニュースリリース

    今回の研究で実施した接着強度試験。破壊後の接着面にはCSR粒子の痕がみられる 出所:東北大ニュースリリース

研究グループは、樹脂などの材料に添加する改質剤(主にゴム粒子)の周辺で生じる微視的な損傷を表すモデルと、接着剤とCFRPからなる接着構造全体の破壊を表すモデルを連携させたマルチスケール解析モデルを構築。さらに接着剤の強度だけでなく、破壊の進みにくさを示すじん性にも着目し、改質剤添加による接着強度向上メカニズムを、実験と数値解析の両面から明らかにした。

東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センターの干川大和助教らの研究グループによる研究成果で、詳細は固体力学分野の学術誌「International Journal of Solids and Structures」(IJSS)に6月20日付で掲載されている。

研究背景

自動車やスポーツ用品などで用いられる「CFRP」(Carbon Fiber Reinforced Plastic)。炭素繊維を樹脂で固めた複合材料で、軽くて高強度な材料として航空機構造への適用が進んでいる。

航空機の構造部材は、これまでボルトやリベット、ネジなどによる機械的な締結(固定)が行われてきたが、ボルトを用いる場合は部材に穴を開ける必要があり、重量増加や応力集中の原因となる場合がある。このため、次世代航空機では、こうした機械的な締結を減らし、接着剤を使って部材を接合する接着構造への期待が高まっているという。

航空機の接着構造に用いられる接着剤には、高い耐熱性と力学特性を持つエポキシ樹脂が広く用いられている。しかしエポキシ樹脂は一般に硬く、もろい性質があり、破壊に対する抵抗性を高める必要があることから、エポキシ樹脂にゴム粒子などの改質剤を添加して、じん性(材料の割れにくさや、破壊の進みにくさを表す性質)を向上させる工夫が行われてきた。

ただ、こうした改質剤をどの程度添加すれば接着剤の特性や接着構造の強度が最適なのかを事前に予測することは容易ではないという。接着剤そのものの力学特性や接着構造の強度を実験で測定し、その結果に基づいて改質剤の添加量を調整する必要があるが、こうした“試行錯誤型”の開発は、材料開発の時間やコストを増大させる要因ともなる。

今回の取り組みと今後の展開

研究グループは今回、エポキシ樹脂にコアシェルゴム(CSR)粒子(中心部のゴム成分を外側の樹脂成分で覆った粒子)を添加した接着剤を対象とし、接着剤単体の力学特性評価と、CFRPを被着体(接着剤によって接合される材料)とする「Single lap shear」(SLS)試験による接着強度評価を行った。

SLS試験は、2枚の板状材料を一部重ねて接着し、引張荷重を加えることで接着部の強度を評価するというもの。まず、接着剤単体について引張試験と圧縮試験を行い、CSR粒子の添加量が弾性率や強度に与える影響を調べた。さらに、実際の接着構造を模擬したSLS試験も実施し、接着剤の改質が接着構造全体の強度にどのような影響を及ぼすかを評価した。

その結果、CSR粒子を添加すると、接着剤単体の弾性率や強度は低下する傾向を示した一方で、SLS強度は向上することを確認。特に、CSR粒子を5wt%添加した場合に、最も高い接着強度が得られたという。なおwt%(重量パーセント)とは、材料全体の重さに対して、ある成分がどの程度含まれているかを示す単位のことをさす。

東北大では、この試験結果について「接着剤単体の強度だけでは、接着構造全体の性能は評価できないことを示している。接着構造の強度発現メカニズムを理解するには、材料内部で生じる変形や損傷の過程を考慮する必要がある」と分析している。

研究グループは次に、材料内部で生じる微視的な現象と、接着構造全体の破壊挙動を結び付けるマルチスケール解析モデルを構築した。マルチスケール解析とは、材料内部の微小な構造で生じる現象と、構造全体の変形や破壊を結び付けて解析する手法のことだ。

今回の研究では、CSR粒子周辺の微視的な変形や損傷を評価し、その結果をCFRP接着構造全体の強度予測に反映。具体的には、CSR粒子周辺のエポキシ樹脂に生じる塑性変形や損傷を表現する微視的構造モデルと、接着剤層および CFRP被着体からなる接着構造全体の破壊を評価する構造モデルを連成した。

微視的構造モデルでは、CSR 粒子が分散したエポキシ樹脂内部を再現し、粒 子周辺で発生する応力集中や塑性変形、微小損傷の進展を解析。その結果、CSR 粒子の添加によって粒子周辺に局所的な塑性変形領域が形成され、外部から加えられたエネルギーが効率的に吸収されることが判明。また、粒子周辺で発生する微小な損傷が破壊エネルギーの増加に寄与し、材料全体としてのじん性向上につながることが示されたという。

一方、構造モデルでは、微視的構造モデルから得られた材料特性を用いて、 SLS試験における応力分布や損傷進展を解析。接着層内で発生する損傷の蓄積や、き裂の進展を考慮することで、接着構造としての最終的な破壊強度を予測した。

  • 接着部の微視的損傷を考慮したマルチスケール解析モデル。エポキシ/CSR粒子からなるナノスケール構造から、CFRPの接着構造の強度を予測するというものだ 出所:東北大ニュースリリースPDF

    接着部の微視的損傷を考慮したマルチスケール解析モデル。エポキシ/CSR粒子からなるナノスケール構造から、CFRPの接着構造の強度を予測するというものだ 出所:東北大ニュースリリースPDF

これまでの研究では、接着剤の強度や弾性率といった材料特性に着目した評価が中心だったが、今回の研究では、破壊の進みにくさを示す「じん性」を定量的に評価し、それを構造強度予測へ反映した点に特徴があるとのこと。

こうして構築したマルチスケール解析モデルを用いて、CSR粒子添加量の影響を評価したところ、接着剤単体の力学特性だけでなく、SLS強度の変化についても実験結果を良好に再現できることを確認。特に、CSR粒子添加によって接着剤の強度は低下するにもかかわらず、じん性の向上でSLS強度は増加するという実験結果を適切に説明できたとする。

さらに、このモデルを用いることで、改質剤の添加量と接着構造強度との関係 を数値的に評価できることも示されたという。従来は、接着剤の配合を変更するたびに材料試験や接着強度試験を繰り返し実施する必要があったが、今回の研究で開発した手法では、設計段階で改質剤の添加量が接着構造に与える影響を事前に予測できる可能性があるという。

  • (a)構築したマルチスケール解析によって予測した接着強度と実験値の比較 (b)接着構造解析と微視的構造解析の連携。CSR 粒子の添加によりせん断変形が発生し、損傷域が拡大している 出所:東北大ニュースリリースPDF

    (a)構築したマルチスケール解析によって予測した接着強度と実験値の比較 (b)接着構造解析と微視的構造解析の連携。CSR 粒子の添加によりせん断変形が発生し、損傷域が拡大している 出所:東北大ニュースリリースPDF

東北大ではこの研究成果について、「接着剤の開発や接着構造の設計における試行錯誤を大幅に削減し、より効率的な材料開発や構造設計につながることが期待される」としている。

今後は、樹脂組成の違いが接着強度に及ぼす影響や、ゴム粒子サイズの効果を体系的に評価するとともに、分子動力学解析との接続を進めることで、より高度な接着構造設計技術の確立をめざすとのこと。