回収までの道のり

藍箭航天は、前述した朱雀二号の開発や打ち上げと並行し、回収・再使用に向けた取り組みを続けてきた。2024年1月、大型の垂直離着陸試験機「VTVL-1」を高度約350mまで飛ばし、軟着陸させた。さらに同年9月には、同じ試験機を再び使用し、高度約10kmまで上昇させたうえで、空中でエンジンを再点火し、発射地点から約3.2km離れた場所へ着陸させる試験にも成功した。

朱雀三号の初飛行は2025年12月3日に行われた。第2段は予定の軌道に到達した一方、第1段の回収には失敗した。第1段は分離後、予定どおり帰還飛行を続けたものの、高度約3.3kmで着陸用エンジンに点火したあと、異常燃焼が発生した。軟着陸には至らず、残骸は着陸場付近に落下した。ただ、超音速での再突入や空力滑空、着陸地点へ向けた誘導など、帰還飛行の多くの段階は実証でき、2号機の改良につながるデータが得られた。

藍箭航天は、そのデータと経験をもとに2号機を改良した。着陸時に点火するエンジンの数を減らしてシステムを簡素化したほか、予測した落下地点に基づく自律安全機能を追加し、帰還時の制御方法も見直した。さらに、第1段尾部の熱防護構造やエンジン接続部を強化し、構造強度や密封性も高めた。

そして日本時間8月19日7時35分(北京時間8時35分)、朱雀三号2号機は東風商業航天創新試験区を離昇した。打ち上げから約137秒後に第1段と第2段が分離し、第2段は飛行を続け、搭載していた衛星を予定の軌道へ投入した。

一方の第1段は、分離後に帰還飛行へ移った。高高度で帰還に向けて姿勢を変え、再突入時にエンジンを点火して減速した。その後はグリッド・フィンなどを使って空力滑空しながら飛行経路を制御し、着陸直前に再びエンジンを点火して速度を落とした。そして着陸脚を展開し、8時41分、着陸場へ軟着陸した。

  • 朱雀三号2号機の打ち上げ (C)LandSpace

    朱雀三号2号機の打ち上げ (C)LandSpace

  • 着陸した朱雀三号の第1段機体 (C)LandSpace

    着陸した朱雀三号の第1段機体 (C)LandSpace

中国の再使用ロケット開発競争

中国では近年、国有企業と民間企業の双方で、再使用ロケットの開発が活発に進められている。今回の朱雀三号の成功も、その大きな潮流の中にある。

朱雀三号の成功に先立つ7月10日には、国有の中国航天科技集団傘下の中国運載火箭技術研究院が開発した「長征十号乙」も、第1段の回収に成功した。 長征十号乙は、海上のプラットフォームに張ったワイヤーで第1段を受け止める独自の方式を採用している。こうした海上ネット方式によるロケット第1段の回収は、世界で初めて実現したものだ。

こうした成果は、中国の再使用ロケット開発が複数の技術路線で進んでいることを示している。なかでも朱雀三号は、国有の巨大宇宙企業ではなく、2015年に設立された民間企業が、大型液体ロケットを軌道へ送り届けたうえで、第1段の垂直着陸まで実現したという点でも特筆に値する。さらに、天兵科技や中科宇航といった他の民間企業もまた、独自に再使用ロケットの開発を進めている。

もっとも、朱雀三号も長征十号乙も、まだ回収した第1段の再使用には至っていない。両者にとって次の課題は、回収した機体を調べて必要な整備を施し、同じ第1段を実際の打ち上げに再び使えることを実証することである。

一度宇宙へ向けて飛んだ第1段は、上昇時の振動や荷重、再突入時の加熱、エンジンの再点火、着陸時の衝撃などを受けているため、次の飛行に使うには、機体やエンジンをどこまで点検するのか、どの部品を何回ごとに交換するのか、疲労や劣化をどのように評価するのかといった、点検や整備の方法や基準を確立する必要がある。

再使用には、避けられない代償もある。第1段を地上に戻すには、減速や着陸に使う推進薬を残しておかなければならず、グリッド・フィンや着陸脚などの装置も搭載する必要がある。その分、使い捨てで飛ばす場合に比べて打ち上げ能力は低下する。

さらに、回収した機体の点検、部品交換、回収設備の整備などには費用を要する。再使用を実用化するには、こうした費用を含めても、機体を毎回新造するより安く飛ばせることが求められる。

  • 打ち上げ前夜の朱雀三号2号機 (C)LandSpace

    打ち上げ前夜の朱雀三号2号機 (C)LandSpace

朱雀三号の総指揮を務める戴政氏は、まず2~3回の再使用から始め、データを積み重ねながら5~6回、10回へと伸ばし、最終的には20回を目指すと説明している。また、第1段はロケット全体のコストのおよそ70%を占める一方、液体酸素とメタンの推進薬費は打ち上げコストの1~3%程度にすぎないため、高価な第1段を何回も使えれば、1回の打ち上げあたりの機体コストを引き下げられるとしている。今後は、こうした再使用回数とコスト低減を実際の運用で実現できるかどうかが問われる。

そして、再使用の利点を十分に引き出すには、同じ機体を何度も、しかも高い頻度で飛ばせるだけの打ち上げ需要が欠かせない。機体を繰り返し使えば製造費を複数回の打ち上げに分散でき、高頻度で運用すれば、回収や整備に必要な設備、人員などの固定費も、1回の打ち上げあたりの負担を抑えられるからである。逆に、打ち上げ回数が少なく、飛行間隔も長ければ、再使用のために追加した開発費や設備費を回収しにくい。再使用技術と高頻度の打ち上げ需要は、いわば車の両輪といえる。

その好例がスペースXだ。同社はファルコン9について、着陸させる技術だけでなく、回収、点検、整備、再飛行を低コストかつ高頻度で繰り返せる運用システムを築いている。その一方で、自社で運用する1万機を超える衛星インターネット・コンステレーション「スターリンク」という巨大な打ち上げ需要を抱え、その構築と維持のためにファルコン9を高頻度で飛ばしている。再使用する能力と、それを使い続けるだけの需要の双方を自ら持っていることが、スペースXの大きな強みである。

朱雀三号も、こうした低軌道衛星コンステレーションの打ち上げ需要を主な市場のひとつに見据えている。再使用技術を確立するだけでなく、それを高頻度で使い続けられるだけの需要を確保できるかどうかも、今後の成否を左右することになる。

中国の再使用ロケット開発は、ついに「帰ってこられるか」を問う段階から、「何回使え、どれだけ安く、確実に飛ばせるか」を問う段階へ足を踏み入れた。長征十号乙と朱雀三号がその答えを示せるかどうかは、中国が宇宙輸送のコストと頻度をめぐる競争で、世界の先頭を走るスペースXにどこまで迫れるかを占う試金石にもなるだろう。

参考文献