この半導体ニュースのまとめ
・ams OSRAMがAIサーバ向けMicroLED光伝送のシミュレーションモデルを開発
・銅配線の高周波化に伴う消費電力、発熱、複雑化の課題に対応
・多数のMicroLEDを並列動作させるslow-and-wide型で高帯域・高効率化を狙う
ams OSRAMは、AIサーバ向けのデータ伝送技術として、MicroLEDを用いた光データリンクの性能を評価するシミュレーションモデルを開発したことを明らかにした。AIデータセンターでは、基盤モデルの学習やChatGPT、ClaudeのようなAIエージェントによる推論処理を支えるため、プロセッサやメモリ間のデータ通信量が急増している。
銅配線の高周波化に限界、消費電力と発熱が課題に
現在のAIデータセンターでは、サーバ内外の計算システムをつなぐリンクの多くに、バックプレーンやケーブルとして銅配線が使われている。ただし、サーバ内およびサーバ間で必要とされるネットワーク帯域は急速に拡大しており、銅ベースのネットワークで対応するには、信号の動作周波数を引き上げる必要がある。
しかし、動作周波数を高めるほど、1ビット当たりのエネルギー消費、発熱、システム複雑性が増す。ams OSRAMは、こうした課題を背景に、AIデータセンター向けの高帯域データ転送技術として、MicroLEDを使った光伝送方式の開発を進めている。
単一レーザーではなく、多数のMicroLEDを並列動作
従来の光ネットワークでは、1本のケーブルに対して高周波でデータを流す「fast-and-narrow」型のアプローチが一般的だった。これに対し、ams OSRAMが提案するのは、数百から数千個のMicroLED発光素子を並列に動作させる「slow-and-wide」型のアーキテクチャである。
この方式では、単一の高速・高出力レーザー送信器を多数のMicroLED発光素子で置き換える。個々の発光素子を極端に高周波で動作させるのではなく、多数の素子を並列に使うことで、システム全体として高いデータ帯域を得る考え方となる。AIサーバ向けでは、リンク当たりの帯域だけでなく、消費電力、発熱、実装密度、拡張性が重要となるため、MicroLEDの並列化は新たな選択肢になり得る。
ams OSRAMはすでに、自動車照明向けの「EVIYOS」プラットフォームで、MicroLEDアレイとその駆動・制御技術を商用利用している。同社では、この実績により、強力なMicroLED発光素子とデジタル制御回路の製造および共同パッケージングに関する課題を克服してきたとしている。
実AIデータフローを用いてリンク性能を推定
一方で、データ通信に用いるMicroLEDと自動車照明で用いるMicroLEDでは、求められる特性や実装方法が異なる。ネットワーク機器メーカーがMicroLEDを使った新しいデータリンクを開発しようとしても、通常のデータセンター環境でどの程度の性能を実現できるかを示す情報は限られていた。
そこでams OSRAMは、実際のAIデータフローを用いて、MicroLEDベースの通信リンク性能を推定できるシミュレーションモデルを構築した。同モデルは、時間領域および周波数領域のシミュレーションに加え、ビットエラーレートのシミュレーションにも対応するという。
モデル化の対象は、MicroLED、フォトダイオード、レンズ、光ファイバだけではない。送信イコライザ、ドライバ、受信イコライザ、アンプなど、AIサーバの光データリンクにおける電気光学フロントエンドの主要要素も含まれる。
BER、エネルギー効率、S/N比を評価
コンポーネントレベルのモデルでは、実測されたMicroLED特性と、その他の部品に関する物理ベースの挙動モデルを組み合わせる。これにより、MicroLEDの放射プロファイル、フォトダイオードの応答性、光ファイバの波長分散やモード分散といった電気的・光学的パラメータを考慮できる。
シミュレーションモデルは、ビットエラーレート(BER:ビット誤り率)、1ビット当たりのエネルギー、信号対雑音比(S/N比)といった主要性能指標(KPI)を出力する。利用者は光ファイバの長さや種類、部品構成などを指定し、それに応じてKPIがどう変化するかを確認できる。さらに、特定のビットエラーレート要件に合わせてモデルを最適化した場合に、性能や消費電力がどう変わるかも評価できるという。
逆に、システム要件を満たすリンクを設計するために、必要な部品仕様を導き出す用途にも使える。これにより、ネットワーク機器メーカーは、MicroLEDベースのデータインターコネクトを実際に設計・試作する前に、システム構成や部品仕様の実現可能性を検証できるようになる。
クロストークや熱挙動もモデル化へ
ams OSRAMは、同モデルをさらに拡張し、高密度に配置されたMicroLEDおよびフォトダイオード間の電気的・光学的クロストークや、パッケージ化されたデバイスの熱挙動も取り込む計画だとしている。
AIサーバ向けの光インターコネクトでは、光素子単体の性能だけでなく、パッケージ内での熱管理、隣接素子間の干渉、ドライバや受信回路を含めた実装全体の最適化が重要になる。MicroLEDを多数並べるslow-and-wide型では、発光素子の高密度実装が前提となるため、クロストークや熱の影響を早期に把握できることは、システム設計の精度向上につながる。
同社では、潜在的な顧客やパートナーが、ハードウェア実装に投資する前に、MicroLEDデータリンクの構成をモデル上で評価できる点を強調している。通信リンクを構成する個別部品の要件を定義し、必要な部品の提供可能性やシステム設計の成立性を検討できるため、AIサーバー向け次世代インターコネクトの検討を前倒しできる可能性がある。
AIデータセンターでは、GPUやAIアクセラレータ、HBM、ネットワーク機器をつなぐデータ移動の効率が、システム全体の性能や電力効率を左右する要素になっている。ams OSRAMのMicroLEDベース光伝送は、銅配線の高周波化に伴う限界を補う技術として、AIサーバ内外の高密度・高帯域インターコネクトの選択肢の1つとなる可能性がある。

