ガートナージャパンは10月5日、フィジカルAIに関して企業や組織が陥りやすい「10の誤解」を発表した。「フィジカルAI=ロボット」「日本企業は製造データや現場の暗黙知を持つため有利」といった認識について、同社は注意を促している。

フィジカルAIとは? 「ロボットそのもの」ではない

GartnerはフィジカルAIについて、AIの判断をロボットや設備の動作に変え、品質・稼働・安全といった現場成果を直接押し上げる「実世界で動くAI」と定義している。

フィジカルAIという言葉から、AIを搭載したロボットやヒューマノイドを思い浮かべる人も多いかもしれない。しかし、Gartnerは「フィジカルAI=ロボット」と捉えるのは誤解だと指摘する。

フィジカルAIは、AIやセンサー、制御技術などを組み合わせ、現実世界の状況を認識し、判断した結果を機械や設備などの動作につなげる仕組みを指す。その対象もロボットだけに限らず、製造設備や車両、ドローンなど幅広い。

そのため、フィジカルAIの導入は、単に既存のロボットや設備にAIを追加すれば完了するものではない。Gartnerは、フィジカルAIを巡って企業や組織が陥りやすい10の誤解を挙げている

「既存設備にAIを追加すればよい」ではない、Gartnerが挙げる10の誤解

Gartnerは、フィジカルAIへの関心が急速に高まる一方、その意味や適用範囲には多くの誤解があるとしている。Gartnerが挙げる代表的な10の誤解を整理すると、以下のようになる。

  • 既存の工場やインフラ、業務にAIやロボットを追加すればフィジカルAIになる
  • フィジカルAIとはヒューマノイドやロボットそのものを指す
  • フィジカルAIの中核モデルはドメイン特化型言語モデル(DSLM)である
  • 日本企業は製造データや現場の暗黙知があるため、自然と競争優位性を持つ
  • フィジカルAIは自動車や製造、ロボットなど物理製品を扱う企業だけのテーマである
  • AIモデルやロボット、センサー、データなど、構成技術の1つで強みを持てば十分である
  • 日本の競争力や主権の確保には、AIモデルからGPU、クラウド、ロボティクス・ソフトウェアまで国産化する必要がある
  • 高性能なフィジカルAIやデータ・フライホイールを一度構築すれば継続的に利用できる
  • フィジカルAIはオンプレミスやエッジだけで構築する必要がある
  • フィジカルAIの高度化による完全無人化が最終形である

特に企業が注意すべきが、既存の設備やロボットにAIを組み込めばフィジカルAIを実現できる、という考え方だ。Gartnerは、フィジカルAIではAIモデルだけでなく、センサーや制御、データ、シミュレーションなどを含めたシステム全体を設計する必要があると説明している。

また、生成AIで使われる大規模言語モデル(LLM)をそのまま現実世界の制御に利用できるわけではない。フィジカルAIでは、現実世界の状態や物理法則を扱うWorld Modelや、視覚情報と言語、行動を結び付けるVLA(Vision-Language-Action)モデルなども重要になる。

さらに、フィジカルAIは製造業だけを対象とした技術ではない。物流やモビリティ、建設、インフラなど、現実世界で機械や設備が動作する幅広い領域で活用が想定される。

こうした技術を導入すれば直ちに成果が得られるわけでもない。Gartnerは、技術だけでなく、安全性やガバナンス、人とAIの役割分担なども含めてフィジカルAIを捉える必要があると指摘している。

「日本企業は有利」とは限らない、競争力を左右するものは?

10の誤解の中でも、日本企業にとって特に注目したいのが、「日本企業は長年の製造データや現場の暗黙知があるため、自然と競争優位性を持つ」という考え方だ。

Gartnerは、データや暗黙知を保有しているだけでは競争力にはならないと指摘。それらをAIが学習・推論できる形に変換し、継続的に活用できる仕組みを構築することが重要だという。

また、フィジカルAIでは、AIモデルやロボット、センサーといった個々の技術だけでなく、データやシミュレーション、計算基盤などを含めたシステム全体を設計し、現実世界から得られた結果を再び学習や改善につなげていくことが求められる。

Gartnerは、フィジカルAIを2030年代の企業競争力を左右する重要な領域と位置付けている。日本企業にとっても、既存の技術やデータを持っていることに安心するのではなく、それらをフィジカルAIの競争力へどう転換するかが問われることになりそうだ。