JR東日本は先般、生成AIを活用した新たなきっぷ購入チャネルである「みどりの窓口 AI対応サービス(仮称)」の実現に向けた実証実験を実施することを発表した。
今回、乗客が参加する実証実験に先立ち、報道関係者向けの公開が行われた。本稿では、実証実験の概要と「みどりの窓口 AI対応サービス(仮称)」体験の様子を紹介する。
AIが利用者との会話から購入条件を整理
「みどりの窓口 AI対応サービス」は、生成AIとの音声対話を通じて利用者の希望を整理し、窓口係員へ引き継ぐ仕組みである。
新幹線や特急券を購入する際は、利用日や利用区間だけでなく、人数や座席種別、指定席・自由席、乗り継ぎ、各種割引など確認事項が多い。慣れている利用者であれば問題なく伝えられる内容でも、普段鉄道を利用しない人や訪日外国人にとっては、自分が何を伝えればよいのか分からないケースも少なくないという。
そこで実証実験では、利用者がAIと会話しながら希望するきっぷの条件を整理し、その内容を窓口係員へ引き継ぐことで、購入手続きを円滑にできるかを検証する。
AIとの対話で条件を整理、駅員へ引き継ぐ
20日から順に始まる実証実験では、立川駅はNEC、大宮駅はソフトバンク子会社のGen-AXが開発したシステムを採用する。今回の報道公開では、特別に大宮駅で両社のシステムを体験できた。
どちらのシステムも、マイクに向かって話しかけるとAIとの会話が始まり、「どちらまで行きますか」「何日に利用しますか」といった質問を順番に行いながら、きっぷの購入条件を整理していく。利用者は一度にすべての条件を伝える必要はなく、AIとの対話を続けるだけで条件が整理される仕組みだ。
両社の違いは操作方法にある。Gen-AXはすべて音声で操作できるのに対し、NECはAIが聞き間違えやすい内容や、画面で選択した方が分かりやすい項目ではタッチ操作を組み合わせている。
AIが整理した利用条件は画面に表示され、係員はその内容を確認しながら通常どおりきっぷを発券する。最終的な内容確認や発券は係員が担当するため、利用者と係員の会話が不要になるわけではない。しかし、希望条件があらかじめ整理されていることで、一から説明する手間が省け、窓口でのやり取りの効率化が期待される。
駅特有の騒音環境でも認識精度を検証
加えて、実証実験では駅特有の騒音環境でもAIとの会話が成立するかを重点的に検証する。
駅構内には列車の走行音や発車ベル、構内放送、利用客同士の会話など、一般的な音声AIよりも音声の聞き取りが難しい環境が存在している。このような状況でも利用者の発話を正確に認識し、自然な対話を続けられるかが重要な検証項目となっているという。
JR東日本は、音声認識の精度や対話の自然さだけでなく、「AIに話しかけることへの心理的な抵抗感」や「画面表示の分かりやすさ」など、利用者体験全体を検証する方針だ。実証実験は立川駅で7月20~22日、大宮駅で23~25日に実施される。
AIは「駅員の代わり」ではなく「支援役」
今回の実証実験で印象的だったのは「顧客体験価値の向上をAIが支える」という考え方である。
鉄道のきっぷには、多数のルールや例外が存在する。利用者の事情によって最適なきっぷも変わるため、最終的な判断には駅係員の知識や経験が欠かせない。しかし一方で、利用者が希望条件を整理する工程は、生成AIが得意とする領域でもある。
AIが利用者との会話から必要な情報を引き出すことで、駅係員はより複雑な相談や判断を要する業務へ集中できるようになる。人とAIが役割を分担する新しい窓口サービスを目指していることが、今回の体験から伝わってきた。



