慶應義塾大学(慶大)は6月23日、アルマ望遠鏡が取得した、天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の電波強度データを解析した結果、2016年8月31日の観測データから約30分および約50分の時間スケールを持つ光度変動構造を検出し、いて座A*の周囲を加熱されたガスの塊である「2つのホットスポット」が公転しながら徐々にエネルギーを失うことで同変動が生じている可能性があることを突き止めたと発表した。
同成果は、慶大大学院 理工学研究科の柳澤一輝大学院生(研究当時)、同・大学 理工学部 物理学科の岡朋治教授、慶大大学院 理工学研究科の小谷竜也大学院生、同・有山諒大学院生(研究当時)、同・栁原一輝大学院生(研究当時)、国立天文台 水沢VLBI観測所の岩田悠平助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
断続的な周期変動から見えた新しい描像
2000年代初頭に、フレアに伴ういて座A*の「準周期的変動」が初めて報告された。同変動は、一般的にX線連星などで検出され、ほぼ周期的だが一定ではなく、やや変化しながら繰り返される変動のことを指す。その発生メカニズムとして、ホットスポットをはじめとするさまざまなモデルが提唱されていた。
今回の研究では、アルマ望遠鏡が公開しているいて座A*の電波強度データの詳細な解析が行われた。その結果、約30分および約50分という特徴的な時間スケールを持つ光度変動構造が検出され、いて座A*の周囲を2つのホットスポットがエネルギーを徐々に失いながら公転していることで生じている可能性が示された。一方で、こうした特徴的な変動が確認されたのは一部の観測データに限られており、常に現れるわけではないことも突き止められた。
-

(上)回転する2つのホットスポットの概略図。最初に1つのホットスポットがいて座A*の周囲を公転し出し、t=t0において2つ目が出現し、両者はエネルギーを失いながら公転を続けていく。(下)ホットスポットモデルによって再現された光度曲線。青点はアルマ望遠鏡の公開データから得られた明るさ、赤線はホットスポットモデルによって再現された全体の光度変動を示す。橙線と緑線は、両ホットスポットに対応する光度変動成分を表している。(出所:慶大プレスリリースPDF)
これらの結果は、いて座A*の光度変動が、複数のホットスポットの回転と、それらの発生・減衰・消滅の一連のプロセスによって引き起こされている可能性を示唆している。従来、ブラックホールの光度変動については、周期的変動と不規則的変動とで、それぞれ異なる原因があると考えられてきた。
しかし、今回の成果により、両方の結果を1つのホットスポットモデルによって統一的に解釈できる可能性が、初めて観測データによって示された形だ。今回の成果は、いて座A*近傍の物理環境を理解するための重要な手がかりであり、将来のさらなる高精度観測と組み合わせることで、いて座A*周囲の構造をより詳しく解明できることが期待されている。
なお、ホットスポットがどのように生まれ、進化し、消滅していくのかという詳細なメカニズムについては未解明の点が多く残されている。今後は、アルマ望遠鏡による長時間かつ高頻度モニタリング観測に加え、X線や近赤外線といった異なる波長での同時観測を組み合わせることで、いて座A*近傍で起きている短時間変動の物理的起源をより詳しく解明できることが期待されるとした。
また、偏光変動を同時に解析すれば、ホットスポットが公転する動きと、その状態変化を区別して捉えられる可能性があるという。これらの観測がさらに進展すれば、いて座A*における周期的に見える変動と不規則な変動を統一的に理解できるだけでなく、いて座A*以外の超大質量ブラックホールも含めたその近傍の磁場構造やガス運動などの物理環境の解明につながることが期待されるとしている。
