『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 共感とは?

最近、「共感」という言葉を耳にする機会が増えた。企業のパーパスやビジョン、採用サイト、広告コピーにも共感という言葉が並ぶ。顧客との共感、社員との共感、社会との共感。共感は企業経営における重要なキーワードの一つになったように見える。

 しかし、その言葉を目にするたびに、私は少し立ち止まって考えてしまう。果たして、共感とはそんなに簡単に手に入るものなのだろうか。

 以前、『最高のリーダーは何もしない』という本を書いた。そのきっかけは、多くの経営者との対話の中で、一つの共通点を見出したからだった。世間では、優れた経営者というと、強く、豪快で、決断力にあふれた人物として語られることが多い。

 しかし、実際に会った経営者たちは違った。豪快に見える人ほど繊細であり、細やかな心配りができる人が少なくなかった。振り返ると、それは共感力だったのだと思う。

 ただし、ここでいう共感力とは、「共感される力」ではない。まず、自らが相手に共感しようとする力である。

 企業はしばしば「共感を得たい」と考える。感動的な動画をつくり、美しいコピーを発信し、ブランドストーリーを語る。それによって一時的な感動を生むことはできる。しかし感動と共感は同じではない。本当の共感は、相手を理解しようとする姿勢から生まれる。

 顧客は何に悩んでいるのか。社員は何を不安に思っているのか。社会は何を求めているのか。その問いに向き合うことなく、共感だけを得ようとしても長続きはしない。

 私は、企業が共感という言葉を掲げるのであれば、まず経営者自身に共感力が必要だと思う。そして、その周囲を支える幹部たちにも同じ力が求められる。

 トップからの評価ばかりを気にする幹部が増えれば、組織の視線は内向きになる。会議では上司の顔色をうかがい、顧客や現場の声は後回しになる。そのような組織が社会から共感を得られるとは思えない。

 AIが急速に進化する時代だからこそ、このテーマはますます重要になるだろう。情報収集も分析も文章作成もAIが支援してくれる。しかし、人の喜びや不安、期待や迷いを理解しようとする姿勢までは代替できない。

 もっとも、「共感」という言葉は便利であるがゆえに曖昧でもある。顧客への共感なのか、社員への共感なのか、社会への共感なのか。企業ごとに定義は違うはずだ。だからこそ、企業はまず問い直す必要がある。

 私たちは誰に共感したいのかではなく、誰に共感しようとしているのか、と。共感はスローガンではない。経営者自身のあり方そのものなのである。

『財界BEST AI AWARD 2026』を開催 AI活用で最先端を走る起業家を掘り起こす!