Snowflakeは3月17日、イベント「Snowflake Data for Breakfast」を開催した。同イベントでは、日清食品ホールディングス データサイエンス室長の小郷和希氏が、AIエージェントの業務活用について講演した。
同社はデジタル変革の一環として、2019年に経営トップが全社員に向けて「DIGITALIZE YOUR ARMS」というスローガンを発信し、デジタル技術の活用を促している。近年はこれに加え、「デジタルテクノロジーの進化に乗り遅れるな、自己研鑽なき者に未来はない」とのメッセージも打ち出している。
また、社員向けのデータ活用教育として「日清デジタルアカデミー」を整備し、取り組みを強化している。
データ基盤とAIエージェント導入の進め方
日清食品グループでは、データ利活用の取り組みを加速させるため、データ基盤「全社統合データベース」を構築している。コアプロダクトとしてSnowflakeを採用し、基幹システムであるSAPを中心に多様なデータを蓄積することで全社共通のマスター構築も併せて進めることで、各種ツールでのデータ活用を実現する。
小郷氏は、同社にとってのAIエージェント像について「人間のわずかな指示をもとに社内外情報を収集・分析し、思考・判断・提案、将来的には実行まで自律的に行うもの」を目指すと述べた。販売・物流・生産など、業務ごとに必要データが異なるが、Snowflake中心に社内外データを接続し、AIが横断的に利用できる形を志向している。
必要となるデータが全社統合データベースになければ追加し、AIエージェントのプロトタイプを両輪で回すことにより、現時点での技術で有用性が確認できるのかを確認すると共に、必要なデータや開発ノウハウを蓄積する。そして将来的に運用できる体制整備を進めるという形でエージェント開発を進めている。こうした形で、限定的なユースケースから段階的に導入を進めている点が特徴だ。
営業とR&DにおけるAIエージェント活用
データサイエンス室では、「営業」「マーケティング」「R&D」「サプライチェーン」「経営管理」の5領域に注力しており、本講演では営業とR&Dの取り組みが紹介された。
営業:商談準備の分析・戦術立案を支援
営業はセールスが商談準備の中で洞察・思考力の差が出る戦術立案業務にAIエージェントの適用を進めている。商談準備は洞察と経験が問われる一方、情報収集や分析にj感がかかるのが現状なので、AIエージェントを使うことで担当者の考えを支援する適用を目指している。
現状、実績に基づく振り返りや分析には一定の有用性が確認されている一方、将来の提案については課題が残るという。
背景には、企業ごとのナレッジが暗黙知となっている点がある。これを解消するには、制約や慣習の言語化と蓄積が必要となる。また、提案の精度向上には、市場や競合など外部データとの連携も重要だとしている。
R&D:分散した配合情報の横断活用
R&Dの分野はAIの価値が出やすいが、非構造化データが多く難易度は高い。例えば、「完全メシ」のような栄養とおいしさのバランスを追求した製品を開発するには、従来以上に複雑な研究開発が求められる。
R&D部門では、フューチャーフード研究開発部が次世代フードの研究開発を担当している。同部は基礎研究から特許管理など多岐にわたる業務を担っており、転職者も多い。そこで属人的なノウハウに頼るのではなく、迅速かつ横断的にナレッジへアクセスできる仕組みが重要となっている。
同社は商品開発の「配合情報」にフォーカスして、ナレッジアクセスにAIエージェントを活用している。従来は非構造化データとして分散していた情報をSnowflakeに集約し、AIが必要な情報を抽出して回答する仕組みを構築した。
ここでも2つの課題があった。一つは「○○の味わいが強い」のような人によって解釈が揺らぐ表現をAIにどう理解させるかが課題であった。資材の規格などのデータを組み合わせて表演理解を補強している。
もう一つは非構造化データを正確に認識させるのが困難な点にあり、これはSnowflakeのAI COMPLETEなどの機能を使い、非構造化データを構造化データに変換して回答精度を向上させた。
今後はさらに非構造化データを拡充するという。例えば試作段階の配合情報はトライアンドエラーの履歴であり判断情報の宝庫だ。非構造データの蓄積が増えればAIが背景を理解し、判断能力の向上につながるだろう。
AIエージェント導入で直面した課題
同社の取り組みでは、以下のような課題が明らかになっている。
- 業務ナレッジが暗黙知となっており、AIに反映しにくい
- 外部データとの連携が不足している
- 非構造化データの扱いが難しい
- 表現の揺らぎによる解釈のばらつき
また、IT部門によるAI応答制御と、業務ユーザーによるナレッジ入力の連携も重要であり、組織横断での取り組みが不可欠だという。
AI活用の現実と戦略
小郷氏は「現時点で業務を大きく変革するAIエージェントの構築に至らなくてもよい」とし、まずは現在の技術で何が可能かを見極めることの重要性を強調した。
現状では、分析用途では有用性が確認されている一方で、将来予測など高度な活用には課題が残る段階にある。
AIモデルは急速に進化しており、多大なコストをかけた開発が短期間で陳腐化する可能性もあるためだ。
AI活用においては、モデルの進化に追従する戦略と、企業側でのデータ整備の両輪が重要となる。特に社内データの整備は企業間で差が出るポイントであり、AIの進化に合わせて成果を最大化する基盤となる。
成功のカギは「小さく始める」こと
同社では、データとAIエージェントが成果を創出するために、データ集約、アクセス管理、品質管理、障害対応といった従来のデータ基盤管理のポイントに加えて、「非構造化データの資産化」と「ナレッジベースの整備」の2点を重視しているという。
まず、リソース上すべての非構造データを事前に統合するのではなく、重要な非構造化データに対して構造化し、アプローチを確立することで、必要な際に他の非構造化データを資産化する手段を備えるのが重要だという。
また、業務ナレッジや暗黙知を事細かく言語化してSnowflakeに蓄積することが重要だ。だが、小郷氏はビジネス側と一緒にセマンティックビューなどの活用を行う必要がある一方、成功体験がないとビジネス側と一緒に進めにくいと感じているという。
そのため、まずは具体的なユースケースを1つ決め、検討・試作・検証を段階的に進めることが重要だという。特にユースケースは小さく絞ってもよく、一度実施することでビジネス部門のモチベーション向上につながるとしている。
基盤管理も自動化・省力化し、データドリブン企業を目指す
さらに、従来のデータ基盤管理も管理作業へのAIの適用や、Snowflake等の機能を活用した管理の自動化・省力化を念頭に置くことで、データ専任組織のリソース最適化を図りたいという。
というのもデータサイエンス室はデータ専任組織だが、データ活用側の人的リソースが多く、基盤管理には正直リソースを多く割けないという状況があるためだ。「本日ご参加の皆様も同じ事情をお持ちの会社様が多いのではないかと思います」(小郷氏)
集約ジョブの不具合検知、ユーザーアクセス管理については、運用判断にAIが入る支援余地は大きいと捉えている。障害対応においてはCortex AIを活用することで、管理の簡素化・省力化できる。
基盤管理を自動化・省力化することでリソースをデータ活用や、ナレッジ蓄積に振り向けたい狙いがある。
日清食品グループはデータとAIエージェントが企業競争力に貢献する、データドリブン企業を目指しており、SnowflakeのデータとAIエージェントの業務適用、そして業務適用を進めながらデータ統合を戦略的に進めていくとして、小郷氏は講演を締めくくった。







