
2月28日、米国とイスラエルがイランに対する大規模な軍事作戦を開始した。イランの核兵器保有を絶対に容認しないという点を、戦争目的として米国のトランプ大統領は強調。一方、イスラエルは、同国の存在を長年脅かしてきたイランのイスラム共和制を終わらせるという体制転換を、この戦争の目的として前面に出した。
原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖するとイラン革命防衛隊がアナウンスし、実際にペルシャ湾内の船舶に対する攻撃が行われたことから、米原油先物相場は急騰し、1バレル=119ドルを一時上回った。初期反応が「リスクオフ」の株安・債券高(長期金利低下)だった金融市場はその後、原油高とそれに伴うインフレ懸念を軸にした値動きになり、株安・債券安(長期金利上昇)が進んだ。
原油価格が100ドルなら経済成長率がどの程度押し下げられるかといった各調査機関の試算は、そうした価格水準が短期間にとどまる場合には妥当しにくい。高水準の原油価格が長く続き、他の条件が一定であれば、経済モデルで推計するとそうなるという話である。したがって、原油価格が以前の水準まで戻る「正常化」がいつ実現するのか、あるいはいっこうにしないのかが、大きな注視対象になる。
そうしたことよりもはるかに重要だと筆者が考えるのは、民主主義陣営の旗頭であるはずの米国が、1月初めの対ベネズエラ軍事作戦に続き、今回の対イラン軍事作戦で、「力の行使」による国際秩序の変更を是とする側に立ったという事実である。
2022年にロシアがウクライナに侵攻したことは、既存の国際秩序を軍事力行使によって強引に変更しようとする国際法違反の暴挙だと、欧州諸国や米国(バイデン前政権)は強く批判した。ところがその米国が、トランプ政権になると、ロシアに宥和姿勢を示すなど態度を大きく変えている。ベネズエラ、イランへの軍事作戦に加え、同盟国デンマークの自治領グリーンランドの領有意欲をあからさまに示すという出来事もあった。ありていに言えば、トランプ大統領とプーチン・ロシア大統領は、同じ穴のムジナである。
むろん、米国では国論が二分しており、29年1月にトランプ大統領の2期目が終わった後には、民主党が政権を奪還する可能性もある。だが、「トランプのアメリカ」的な要素は彼の後継者によって受け継がれ、今後の米国政治における大きな勢力であり続けるだろうと、筆者はみている。
2026年は、「力の行使」による国際秩序の変更が、民主主義国か権威主義国かを問わず、もはや珍しいことではなくなったという意味で、歴史上の大きな転換点である。企業の経済活動においても安全保障の視点が、以前よりも格段に重要になっている。