
先行する「オリーブ」との違いをどう打ち出すか?
「『エムット』は多くのお客様にご支持をいただいており、MUFGのリテールビジネス戦略の成長に大きく貢献し始めている」─こう話すのは、三菱UFJ銀行頭取(2026年4月1日付で三菱UFJフィナンシャル・グループ=MUFG社長)の半沢淳一氏。
2026年3月24日、MUFGは、25年6月からスタートした個人向け金融サービス「エムット」に関する新たな戦略を打ち出した。
「エムット」ではこれまで、三菱UFJ銀行のアプリを刷新するとともに、新たなポイントプログラムを導入、グループのサービスを一元的に使える形にした。さらに三菱UFJカードの還元率を向上させ、利用のメリットを高めている。
結果、前年同期比で三菱UFJ銀行の口座開設数が47%増、三菱UFJカード発券数が1・8倍、ネット証券の三菱UFJeスマート証券の仲介口座開設数が16倍といった成果につながった。「これらの成果はエムットの展開による大きな前進であり、今後のエムットの進化に向けた強力な基盤」と半沢氏。
今後は、26年度中にもグループ共通ポイント「エムットポイント」をつくる他、「デジタルバンク」を開業することで、顧客の利便性をさらに高める計画となっている。
今回の新戦略では、MUFGの子会社であるネット証券の三菱UFJeスマート証券と、同じく子会社で、全自動の資産運用「ロボアドバイザー」を手掛けるウェルスナビを27年度中に経営統合し、新会社を設立。
CEO(最高経営責任者)にはウェルスナビCEOの柴山和久氏、会長には三菱UFJeスマート証券社長の飛松一樹氏が就任する。
この新会社は、前述の「デジタルバンク」と対になる、「エムット経済圏の中核」(半沢氏)と位置づけられ、新たなデジタル資産形成サービスを展開する。
新会社のサービスはデジタルバンクアプリと一体で、AI(人工知能)、スマートフォンに最適化したUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)によって「銀行、証券の垣根のない、シームレスな顧客体験を提供する」(半沢氏)。
AIの活用で資産形成だけでなく、日々の家計の改善などのアドバイスを受けることも可能。MUFGとウェルスナビが共同開発した総合アドバイザリー・プラットフォーム「MAP AI」(Money Advisory Platform AI)で、1人ひとりの生活、ライフステージに合わせたアドバイスを提供する。
顧客をサービスに惹き付けるために、わかりやすい「お得さ」も用意。「デジタルバンク」では魅力的な水準で手数料と預金金利を提供する。さらに投資信託をクレジットカードで積み立てるとポイントが貯まりやすくなる。さらに本格投資時には国内株式取引手数料は無料。
「こうしたお得さを提供し続けられる背景には、MUFGが主要なリテール金融サービスをグループ内に100%で保有、内製していることが挙げられる。これにより各サービスから生まれる収益をお客様に還元できることがエムットならではの強みになる」(MUFG執行役専務リテール・デジタル事業本部長・山本忠司氏)
この言葉は、リテールのデジタル化で先行する三井住友フィナンシャルグループの「オリーブ」を意識したものと捉えることができる。オリーブは自社の決済やカードの他、SBI証券やライフネット生命保険、さらにはソフトバンクのスマホ決済「PayPay」など有力な他社サービスとも連携している。
MUFGがグループ内でのサービス提供にこだわるのは、MUFG会長・亀澤宏規氏の「自社のサービスでなければマネタイズが難しい」という考え方に基づいている。オリーブとエムットは常に比較されることになるが、他社連携か、グループ内製かというサービス哲学の戦いでもある。
カギを握るデジタルバンク開業
この後は26年5月中旬には三菱UFJeスマート証券が国内株式取引手数料を無料化、6月にはクレカ積立のポイント還元を業界最高水準とする。26年度第1四半期中には、三菱UFJeスマート証券とウェルスナビの統合に向けた中間持ち株会社を設立し、合併に向けて経営の意思決定を一本化する。新社名やサービス名は中間持ち株会社で検討していく。
カギを握るのは、26年度下期の開業を目指しているデジタルバンク。日本ではまだ、デジタルバンクの成功事例といえる存在は生まれていない。
今回のデジタルバンクでは、システムを1から開発するのではなく、他行で稼働実績のあるシステムを活用することで開発期間を短縮する他、開業後のトラブルも最小限に抑えることが期待される。
今回の新たなデジタル資産形成サービスは、デジタルバンクの口座を持っていない人でも利用が可能で、三菱UFJeスマート証券やウェルスナビの顧客も使うことができる。
銀行と証券を一体化させ、スマホで完結するデジタル資産形成サービス。今後に向けては利便性はもちろんのこと、ポイントや特典など、利用者が他社サービスよりも「お得だ」と実感できるかが重要になる。決めるのは顧客、市場である。