コロナ禍に次ぐイラン戦争で苦悩するANAとJAL 『レジリエンスのある事業構造を!』

国際線の中型機にソファのようなシート 

「競争の激しい国際線の(座席数が250席前後の)中型機をトップクラスのクオリティーにし、単価を上げて収益拡大につなげたい」─。こう期待を込めるのは、ANA上席執行役員CX推進室長の大前圭司氏だ。 

 2030年度までに国際線の規模を3割拡大させる計画を打ち出しているANA。来年度から国際線における主力の中型機「ボーイング787」に新しいシートを投入する。約10年ぶりのシートの刷新となる。普通席の「エコノミークラス」に加えて、エコノミークラスと上級席の「ビジネスクラス」の中間に位置づけられる「プレミアムエコノミークラス」のそれぞれに新たなシートを導入していく。 

 中でも同社が力を入れたのがビジネスクラスだ。個室型で中型機としては世界最大クラスとなる。大型機(座席数が500席前後)並みの広さになったとことで、身長194㌢までの乗客は足を伸ばしてゆったりと寝ることができるという。「シートというよりもソファに近い感覚を味わえる」と担当者は話す。 

 これまでANAは大型機を対象に世界トップクラスの居住性を実現したビジネスクラスシート「THE Room」を投入してきたが、それを中型機にも投入する。部品を薄型・軽量化し、限られたスペースで座席空間を広げた。ドア付き個室型シートはリクライニングがなく、自宅のソファのようにくつろげる。

 

ANAが中型機に導入する新ビジネスクラスシート「THE Room」

 大前氏は「国際線はANAグループの成長を支える。座席というハードに加え、おもてなしという人的サービス(ソフト)を融合させて業界の中でも先駆ける存在になっていきたい」と話すが、次のようにも付け加える。「シートの競争はすぐに追いつかれる」。それだけ競争が熾烈化しているのだ。 

 実は今の航空業界ではビジネスクラスの高級化が加速している。コロナ禍で出張需要が消滅したが、再び出張需要が拡大しつつあるからだ。「より高い金額を払ってもいいと考える顧客を取り込もうとサービスを見直している」(アナリスト)のだ。 

 その結果、ファーストクラスを廃止し、ビジネスクラスを増やす動きが増加。米ユナイテッド航空をはじめ、中東のカタール航空や香港のキャセイパシフィック航空などがプライバシーを守れる個室やスライドドア付き座席を導入した。 

 ANAは今後5年間で過去最大の総額2兆7000億円を投じて機材を1割増やし、売上高の4割弱を占める国際線を主に、(国際線・国内線の旅客収入を座席キロで割った)ユニットレベニュー14.1円を15.1円(30年度)に引き上げていく。

 

国内線の小型機に最上級のファーストクラス

 一方のJALは国内線のテコ入れに動く。「メリハリを効かせた投資が求められる中、国内線を尖らせていく」と語るのは執行役員カスタマー・エクスペリエンス本部副本部長の崎原淳子氏である。同社は国内線サービスを順次リニューアルする。 

 アプリや機内食、機内Wi-Fi、ラウンジなどを刷新。注目されるのが27年度の導入予定で座席数が250席前後の小型機「ボーイング737」に最上級席の「ファーストクラス」を設定すること。これまでファーストクラスは羽田―伊丹・那覇・新千歳などの幹線を結ぶ中型機を使った路線しかなかった。 

 小型機を使う路線は主に地方路線となる。そこにファーストクラスを導入する意義とは何か。1つ目にはニーズがあること。JALではファーストクラスと普通席の中間クラスに位置付けられる「クラスJ」という上級の座席があるが、それでも「ファーストクラスを求める声が多く、ニーズに応えきれていなかった」と崎原氏は語る。 

JALが小型機に導入を予定するファーストクラス

 2つ目は地方創生だ。海外からファーストクラスで日本に来たインバウンドを同じファーストクラスで地方にも運ぶことが可能になる。同社関係者は「ファーストクラスを利用する富裕層を青森などの地方への移動で使ってもらいながら、地元の農産物を使った機内食を提供することもできる」と話す。 

 新たな需要の創造を試みる両社だが、足元の市況は厳しい。4200万人を超える旺盛なインバウンド需要の勢いは継続しているが、中東情勢が冷や水になりかねない。ANAは中東への直行便を運航していないが、JALは羽田―ドーハ(カタール)線の運航休止を継続中だ。 

 また、それ以上に両社が懸念するのが「燃油費の高騰」(ANA幹部)。両社の燃油費は19年3月期に比べて約3割上昇している(25年3月期)。自社の収益を圧迫するだけでなく、運賃上昇につながり、旅行需要自体を冷え込ませるリスクもある。 

 コロナ禍前ほど高単価なビジネス需要が戻らず、さらに円安やインフレが続けば外貨建ての整備費や人件費も上昇し、利益を押し下げる。JALは国内線事業の収益改善を図るため、国際線で導入していた燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)を国内線にも導入する意向を示す。 

 国際線では米国や欧州のメガキャリアに加え、アジアの航空会社と鎬を削る情勢が続く一方で、国内線では運行本数や利便性で優位な新幹線との競争も続く。物価高で家計の財布の紐が固くなりつつある中、いかに空の移動に消費者を引き込めるかがANA・JAL共通のテーマ。 

 コロナ禍があけてのイラン戦争の勃発。両社には「数千万人規模の会員を抱えるマイルといった非航空事業も含めて、いかにレジリエンス(耐久力)な経営ができるか」(アナリスト)が問われている。

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