『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 M&Aの目的が すべてを決める

先日、あるイベントで、「M&Aとロールアップ戦略」をテーマに、三人の経営者をパネリストに迎え、ファシリテーターとしてパネルディスカッションを行った。同じM&Aという手法であっても、その狙いや思想はここまで異なるのかと、改めて考えさせられる機会となった。

 登壇いただいたのは、医療や建設業などを手がけるコングロマリット型のファミリー企業の経営者、世界各地のマイクロファイナンス企業を買収しグローバルに展開する創業者、そして複数の上場企業の統合によって誕生した半導体企業の経営者である。

 まず、ファミリー企業の経営者は、地域に根ざした売上数百億規模の中堅企業を対象にM&Aを行っているが、その目的はシナジーの創出ではない。それぞれの企業が自立的に正しく経営され、親会社に安定した配当をもたらすことを重視している。

 買収後の経営にはほとんど口を出さない一方で、買収前の調査には多大な時間と労力をかける。つまり、地域を担う企業の存在価値を尊重し、経営に関与しない代わりに、入口での見極めを徹底する戦略である。

 一方、マイクロファイナンスの創業者は対照的だ。グローバルで事業を展開するために、買収後の統合とシナジー創出を最大化する。経営者の配置にも深く関与し、場合によっては送り込む。

 そもそも、金融業は、資金の総量が事業の効率性を左右するため、個別企業の独立性よりも、全体としての成長を優先するモデルである。

 

 さらに半導体企業は、M&Aによって生まれた企業でありながら、コングロマリットディスカウントを避けるために、非中核事業を売却するという選択をした。十八の事業を手放し、半導体に集中することで、企業としてのパーセプションを明確にし、バリュエーションの向上と株価の上昇を狙ったのである。

 この三者に共通するのは、M&Aを手段として捉えている点だ。しかし、その目的はまったく異なる。安定収益の確保なのか、グローバル展開の加速なのか、あるいは資本市場での評価向上なのか。同じロールアップであっても、企業ごとに描く姿はまったく違う。

 M&Aは企業の新陳代謝を促す重要な仕組みである。しかし、その成否を分けるのは、買い手側の明確な目的である。目的が曖昧なままでは、統合も機能せず、価値も生まれない。

 同時に、売り手にとっても見極めは重要だ。どのような目的で買収されるのかによって、自社の未来は大きく変わる。M&Aとは単なる取引ではなく、企業の行き先を決める意思決定なのである。

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