2026年4月2日(JST)、月を目指す超大型ロケットが、4名の宇宙飛行士を乗せてアメリカ・フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターから打ち上げられました。

 2026年4月2日午前7時35分ごろ(JST)、SLSの打ち上げのようす。NASAの公式YouTubeライブの同時視聴数はなんと276万!(©NASA)

この打ち上げは、60か国以上が協力して、人類が月での長期滞在をすることを目指す国際的なミッション「アルテミス計画」の第2弾。ちなみに第1弾(「アルテミスⅠ」)が行われたのは2022年で、無人の宇宙船が月を周回しました。今回はいよいよ宇宙船に4人の宇宙飛行士が乗り込み、月の裏側をまわるという有人ミッション! 1972年のアポロ17号を最後に、約半世紀のあいだ途絶えていた人類の月への歩みが、ふたたび始動したんです。

ミッション期間は約10日間。宇宙飛行士たちは、世界中の人たちに見守られながら地球から最も遠い距離で月の裏側をまわり、4月11日(JST)、無事に地球へと帰還を果たしました。

2026年4月11日午前9時07分(JST)カリフォルニア沖に着水。4人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船オリオンが、無事帰還しました。(NASAの公式YouTubeより)

ところで、アポロ計画の月面着陸から約50年がたった今、なぜ、人はまた月を目指すのでしょうか?

月の探査をするため? 実はそれだけではありません。大きな理由は、将来、人が月という天体を利用するためなんです。

このアルテミス計画は、人類が月で持続的に活動できる基盤を築き、さらには月を、火星有人探査を実現するための「足掛かり」とすることを目標に掲げています。

つまり、月、そして火星へ!

2026年は、人類が “より遠く” の宇宙へ、新たな一歩を踏み出すための特別な年なんです。

 

これから人類は、どのように宇宙で活動しようとしているのでしょうか?

そんな未来に、私たちは、どんなかかわり方ができるのでしょうか?

このブログでは、現在の未来館での活動にひもづけながら、「月や火星のモノ」をキーワードに紹介します。

 

■科学コミュニケータートーク「火星のモノは、だれのもの?」

さて、未来館では2025年1月から、「火星のモノは、だれのもの?」というタイトルの科学コミュニケータートークを行っています。科学コミュニケータートークとは、未来館の科学コミュニケーターが日々、展示フロア内で行っている約15分間のトークプログラムです。

 

20XX年、月や火星が、「これからの人類が活動する場所」になるとしたら?

このトークでは「アルテミス計画」を中心に、最新の有人宇宙探査とその展望をのぞき見しながら、「月や火星のモノ」を利用して人類の活動を広げていくという現実味を帯びてきた研究者たちの発想に注目します。そしてトークの最後には、参加者のみなさんに「宇宙のモノを利用する」ことに対する直感的な気持ちや考えを質問しています。

私たちの身近な生活とは少し距離を感じる問いかもしれませんが、このトークの意味を探りながら、宇宙の使い方を一緒に考えてみましょう。

このプログラムでは、火星儀や実際に研究で使われていた火星の模擬土壌などを見ることができます。日によっては、トーク中に登場するオリジナルキャラクター「かせまる」がお出迎えすることも…?(画像はイメージです)

■「月のモノ」、「火星のモノ」って何?

そもそも天体の「モノ」とは、砂や大気、氷など、その天体に広く存在する物質のことです。これらは「資源」と呼ばれることもあります。

 

冒頭に紹介した、月探査プログラム「アルテミス計画」の目標は、有人火星探査を見すえて、まずは人類が月で持続的な活動を実現することでしたね。でも、地球から月や火星へ、必要なすべての物資を運ぶには、相当なコストがかかってしまいます。

そこで期待されているのが、月や火星にある「モノ」を使って、たとえばロケットの燃料や、人が生きるための酸素などをつくりだすこと。言い換えれば、地球外での「地産地消」です。

現地資源利用 (ISRU)と呼ばれる研究。月資源利用技術は、日本の宇宙技術戦略(令和7年度改訂)にも挙げられています。

近年、月面の南極域をはじめとする月表面には、水氷(H₂O)が何らかの状態で存在していることがわかってきました。H₂Oを分解できれば酸素と水素が生成されるので、将来、月でロケットの燃料や人の呼吸に利用できる可能性があります。さらに、重力の小さい月で生成できるようになれば、地球よりも簡単に宇宙空間へ、燃料などの物資を打ち上げることができるので、いわば火星行きの “サービスエリア” として月を利用できる日が来るかもしれません。

 

さらに、その先の火星でもこの「地産地消」を行えないか、研究が進んでいます。

2021年には、火星で活動中のNASAの探査車パーシヴィアランスが、火星の大気(主には二酸化炭素)から、酸素を取り出すことに成功しました。将来人類が火星に到達したとき、現地の大気から酸素を生み出すことができれば、膨大な酸素を地球圏から運ぶ必要がなくなるかもしれません。

そのほかにも、月や火星の砂に似せた砂を使って頑丈な建材を生み出す方法が、地球上で研究されています。

 

今はまだ、地球上で進められている研究がほとんどではありますが、技術的には「地球から全部を持っていかなくても、ほかの天体にあるモノを使って、必要な物資をつくりだす」未来が、すでに見え始めているんです。将来には、火星でつくった酸素で呼吸をする宇宙飛行士もいるかもしれませんね。

■天体の環境に関する宇宙のルールは、どこまで決まっている?

でも、そもそも天体にある資源ってだれのものなんでしょうか?

現在、国際的な宇宙のルールとして知られているものの一つに「宇宙条約」があります。ここでは、宇宙や天体そのものは、いずれの国も領有できないと定められています。ところが、天体にある資源、つまり「宇宙のモノ」を利用することについては、国際的に広く合意されたルールはいまだ存在しません。

日本では2021年に宇宙資源法が成立し、民間企業は国の許可のもと資源の取得や利用が認められましたが、国によっては「月やその他の天体の資源は人類全体のものだ」と位置づけている考え方もあります。

したがって、宇宙はみんなのもの。でも、そこにある「モノ」の使い方のルールはまだ国際合意がとれていない、というわけです。

 

宇宙条約とは別に、国際的な探査において、すでに浸透している考え方もあります。COSPAR(国際宇宙空間研究委員会)が定める「惑星保護方針」です。その中には、他の天体に地球の微生物を持ち込むことをできる限り防ぎましょう、という国際的な方針があります。

その理由は、将来の探査のため。もしも将来、他の天体で生命が見つかったときに、それが実は地球由来の生命なのか、本当に地球外生命なのかがわからなくなってしまう事態を防ぐという意味が大きいようです。

とりわけ水が存在しているとされる火星においては、地球上の微生物が繁殖できる可能性を秘めているため、月やその他の惑星よりも高いレベルでその天体の環境を保護することが必要とされています。もっと詳しくいえば、地上での宇宙機の組み立ての際、そのミッションが火星着陸探査の場合は、月面探査の場合以上に、滅菌処理や微生物数の測定などの厳しい審査をクリアしないと、そもそも送り込むことは認められないというわけです。

■まずは自分の価値観で、月や火星の将来を考えてみよう

さて、話は逸れてしまいましたが、科学コミュニケータートーク「火星のモノは、だれのもの?」では、そんな「月や火星のモノ」を利用することが技術的には可能になっていく将来の宇宙の姿を想像したあと、このようなスライドを参加者の皆さんにお見せしています。

宇宙のモノを利用する未来に、あなたの心はどんなことを思いますか?

月や火星のモノを利用することで、人類の宇宙への歩みは今後大きく広がるといわれています。一方で、地球や月、火星を含む太陽系が誕生したのは、はるか昔の46億年前。これから人類が、月や火星のモノを利用していけば、46億年にわたり手つかずの状態が保たれていた他の天体の環境に、わずかではあるものの、人為的な変化を加えることは避けられません。

両者を天秤にかけたとき、みなさんはどんなことを思うでしょうか。

 

こうした、宇宙での活動に伴う倫理的・社会的課題を考える学問に「宇宙倫理学」があります。

数十年から数百年先の将来を見すえたとき、そもそも、天体の固有の価値をはかり、その価値を守るために、今の私たちはどんなことをどこまで考える必要があるのでしょうか? 途方もない時間がかけられて存在している天体そのものの価値を、わたしたちがどのように捉えていけばよいのでしょうか? まだ見ぬ地球外生命体の可能性や、天体の景色・地形、未来の人類の利益… こうした論点になりうる対象は、「道徳的配慮の対象」とも呼ばれます。人類の活動範囲が宇宙へと拡大する中で、空間・時間・対象を大きく広げながら、これまで顕在化してこなかった価値や責任を議論することが、今まさに求められています。

宇宙倫理学は、「応用倫理学」の学問領域のひとつとされています。

応用倫理学とは、科学技術の発展によって生まれる新しい問題に、従来のルールだけでは対応しきれず、「指針の空白」が生まれているという問題意識を背景に発展してきました。

ただし「宇宙」は、多くの人にとって、現在や近い将来に直接的な影響を及ぼさない場合も多いため、宇宙倫理学に関しては、まずは「どんな倫理的な問題が考えられるのか」を探るところから議論が進められています。

では、他の天体のありのままの自然の風景は、どの程度の価値があるといえるのでしょうか?

私たちは地球の自然に対して、「守りたい」「ありのままで残したい」と感じることがあります。生態系の保護といった地球環境保全としての理由もありますが、人の手が及んでいない存在そのものに価値を見出す考え方もあります。

まずは身近なところから考えてみましょう。たとえば足跡ひとつない雪原。

未来館があるお台場には、あまり雪は降りませんが…足跡のない景色と、足跡がある景色。

一晩の雪でうまれた雪原の風景にすら、心惹かれたことがある方はいるかもしれません。逆に、少しでも誰かの足跡がついていると、その景色はまた違った印象になることも。とはいえ、まっさらな雪原にこそ自分の足跡を残してみたくなる気持ちはありますし、雪原に限らず、自然の景色に変化を加えることで新たな価値を生み出すことを、わたしたちは当然のように受け入れています。

「ありのままの風景」でも、それに対するかかわり方は、一様ではありません。

 

では、スケールを広げて、月や火星の風景ではどうでしょうか。

探査機で撮影された、月(左)と、火星(右)の景色

そこに手を加えたとしても、地球上の生活に直接支障が生じるわけではありませんし、今のところ月や火星に生命は見つかっていません。1969年に人類初の月面着陸を果たした宇宙飛行士が月面に残した足跡は、米国の法律で「人類の遺産」とされています。しかし、将来想定しうる足跡以上の影響は、社会にどのように受け入れられていくのでしょうか。

ある人にとっては、月や火星は未来の活動拠点であり、その天体のモノを積極的に利用して活動していくべきと思うかもしれません。別の人にとっては、太陽系が生まれてから46億年間手つかずの天体環境そのものを、これからもずっと残しておきたいと思うかもしれません。

冒頭にご紹介した科学コミュニケータートークの中で、実際に、こうした「宇宙のモノを利用する」ことに対する直感的な気持ちや考えを参加者にうかがってみると、たとえ親子や夫婦でも、まったく異なる価値観があることに気づかされます。

■私たちは、なぜ宇宙開発を考える必要があるのか

未来館では、そんな「宇宙のモノ」の利用をテーマにしたトークをお届けしているわけですが、わたしたちの身近な生活とは、少し距離を感じる方も多いかもしれません。そもそも地球の外の環境について、私たち市民が考えることにどんな意味があるのでしょうか。

 

それは、さまざまな立場や文化的背景をもつ人々の考えや価値観が、宇宙のルールづくりのために必要だからです。

これまでの宇宙開発は、天体の探査を中心に、技術者や研究者や宇宙飛行士、ときには宇宙ファンといった限られた人々によって発展してきました。そこには「宇宙開発を進めることはよいことだ」という前提があったようです。しかし現在は、冒頭でも触れたように、特に地球の衛星である月は単なる「科学探査を行う場所」ではなく、「人が活動のために使う場所」へと捉え方が変わりつつあります。その先にある火星も、遠い未来には同じような段階に進む可能性があるかもしれません。

このように科学技術の進歩によって人類の活動の幅が広がる一方で、将来起こりうる問題を見すえ、ときには立ち止まって宇宙との関わり方を問い直し、ルールを整備していく必要性が、国際的にも少しずつ高まっています。ちなみにルールと聞くと、行動を制限するものというイメージがありますが、ここで必要とされているのはこれから遠くまで走り続けるためのいわば「ガードレール」。国際的な宇宙のルールがつくられることで、人類は新たな宇宙活動へと、安心して一歩を踏み出すことができるとも考えられているようです。

 

でも、宇宙を舞台にしたルールは、地球の前提が必ずしも通用するわけではありません。しかも宇宙開発は、十年、数十年、ときに百年単位といった非常に長い時間スケールで進みます。だからこそ、現在直接的に宇宙と関わりのある宇宙大国や研究者だけでなく、対話を通してさまざまな立場や文化的背景をもつ人々の考えや価値の共存を模索することが、求められているのです。

だから、みなさんが「宇宙のモノ」の利用や天体固有の環境に対する考えをもつことも、宇宙開発へのかかわり方のひとつ。未来館で行われている科学コミュニケータートーク「火星のモノは、だれのもの?」が、その最初の小さな入り口になれればと考えています。

 

 

人類が、ふたたび月を目指し、新たな目標へと挑む「アルテミス計画」は、まだ始まったばかりです。

「アルテミスⅡ」を終え、来年以降も「アルテミスⅢ」、「アルテミスⅣ」とステップアップしていくこの挑戦は、私たちの宇宙への歩みにどんな問いを投げてくれるのでしょうか? 

次回のブログでは、そんな一人ひとりが望む「宇宙の使い方」について、今年のとある日に来館者のみなさんと一緒に考えたイベントの様子を紹介します。お楽しみに!

アルテミスⅡミッション中に撮影された写真の一枚。 手前に月、遠くに地球が見えます。未来の月面は、どのような景色が広がるのでしょうか。楽しみです。 (©NASA)

関連リンク

  • あなたもチャレンジ! 宇宙開発をめぐる “究極の選択”https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202603204409.html
参考文献

National Aeronautics and Space Administration(NASA)「In-Situ Resource Utilization(ISRU)」 https://www.nasa.gov/overview-in-situ-resource-utilization/ (2026年4月2日閲覧)

Heveran, C. M., et al.(2025) 「Bio‑Manufacturing of Engineered Living Materials for Sustainable Infrastructure」 https://asmedigitalcollection.asme.org/manufacturingscience/article-abstract/147/8/081008/1218408/Bio-Manufacturing-of-Engineered-Living-Materials?redirectedFrom=fulltext (2026年4月2日閲覧)

Hecht, M. H., et al.(2023) 「Production of Oxygen on Mars from Carbon Dioxide: First Results from the MOXIE Experiment」 https://www.science.org/doi/pdf/10.1126/sciadv.abp8636 (2026年4月2日閲覧)

藤田 和央(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所)(2019) 「宇宙探査と惑星保護」 https://www.isas.jaxa.jp/feature/forefront/191025.html (2026年4月2日閲覧)

伊勢田 哲治(2018)『宇宙倫理学』昭和堂 (2026年4月2日閲覧)

呉羽 真(2017)「宇宙倫理学プロジェクト ~惑星科学との対話に開かれた探求として~」 https://www.wakusei.jp/book/pp/2017/2017-4/2017-4-174.pdf (2026年4月2日閲覧)



Author
執筆: 清水 菜々子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。学校団体を対象とした企画やコンテンツの開発も担当。

【プロフィル】
小さなころから惹かれていたのは、とても大きな自然の世界。惑星が公転していること、噴火が起きること、大陸が動くこと...全てが不思議でした。中学生の時に、地元の御岳山の噴火に衝撃を受け、地球科学やその教育について学びたいと強く決心。それでも他の惑星のことも知りたくて、大学時代は金星の気象学の研究をしていました。その後小学校教諭を経て、未来館へ。科学の面白さを楽しく伝えられる人になるために、現在奮闘中です。

【分野・キーワード】
理科教育/地球科学/気象学/惑星科学