日本の温室効果ガス排出源を上空と地上の両方から観測する「Tokyo-Field Campaign」(TOKYO-FC)が、国立環境研究所やNASAなどでつくる日米の研究チームによって実施中だ。得られた観測データは、地球観測衛星「いぶきGW」のデータ精度を評価するために使われる。

  • 「Tokyo-Field Campaign」(TOKYO-FC)と温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)の同期観測のスケジュール (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    「Tokyo-Field Campaign」(TOKYO-FC)と温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)の同期観測のスケジュール (出所:環境省 報道発表資料PDF)

  • いぶきGWに搭載されている「TANSO-3」センサによる地球観測イメージ (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    いぶきGWに搭載されている「TANSO-3」センサによる地球観測イメージ (出所:環境省 報道発表資料PDF)

国立環境研究所(NIES)、環境省、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、米国航空宇宙局(NASA)の日米4者でつくる研究チームによる取り組み。温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)から得られた観測データが必要な精度を満たしているかどうかの確認を目的とする、国際的な航空機観測キャンペーンとして実施され、NIESとNASAがリードする。実施期間は3月7日から同月31日まで。

TOKYO-FC期間中は、東京や大阪をはじめとする都市など、日本各地の温室効果ガス大規模排出源の詳細な観測を、いぶきGWに搭載されている「TANSO-3」というセンサを使い、精密観測モードで実施。そして日本と米国の2機の航空機が、TANSO-3を使った観測が行われる地域まで共に移動し、水平・鉛直方向の観測を行う。

なお、今回のTOKYO-FCと、いぶきGWとの同期観測は3日周期で行われるが、航空機による観測は基本的に晴天時に行われることから、衛星軌道と天候を加味してフライト日程を判断。飛行観測は、前出期間のうち10日間となる予定だ。

使用する機体は、日本側のNIESと海洋研究開発機構(JAMSTEC)がダイヤモンドエアサービスの「King Air 200T」、NASAは「Langley Gulfstream III」(G-III)。いずれも富士山静岡空港を拠点として活動する。

  • TOKYO-FCの実施概要 (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    TOKYO-FCの実施概要 (出所:環境省 報道発表資料PDF)

いぶきGW(GOSAT-GW)はどんな人工衛星なのか

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と環境省、NIESが共同開発した「いぶきGW」は、温室効果ガス観測技術衛星・GOSATシリーズの3号機にあたり、2025年にH-IIAロケット最終50号機によって打ち上げられた。地球の温室効果ガスと水循環を宇宙から観測できるようにふたつのミッション機器を積んでおり、今回の取り組みではこのうち「温室効果ガス観測センサ3型」(TANSO-3:Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3)を活用した観測が行われる。

いぶきGW/H-IIAロケット最終50号機関連記事

  • いぶきGWの模型(「国際航空宇宙展2024」三菱電機ブースにて編集部撮影)

    いぶきGWの模型(「国際航空宇宙展2024」三菱電機ブースにて編集部撮影)

いぶきGWは地上約666kmの高度を飛行し、3日間で全球を観測可能。いぶきGWに搭載されているTANSO-3では、主要な温室効果ガスである「二酸化炭素」(CO2)と「メタン」(CH4)に加え、大気汚染物質である「二酸化窒素」(NO2)の観測が行え、以下の2つの観測モードが備わっている。

  • 広域観測モード:全球を900km以上の幅、10kmの分解能で面的に観測。3日間の広域観測で、全球をくまなく観測できる
  • 精密観測モード:都市域などを90km以上の幅、1~3kmの分解能で観測。面的に約1,000地点を観測できる
  • TANSO-3のレベル2(L2)データのイメージ (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    TANSO-3のレベル2(L2)データのイメージ (出所:環境省 報道発表資料PDF)

  • いぶきGW向けにキヤノンが開発した天文用分光素子。「Canon EXPO 2023」にて編集部撮影)

    いぶきGW向けにキヤノンが開発した天文用分光素子。「Canon EXPO 2023」にて編集部撮影)

いぶきGWのTANSO-3観測データをTOKYO-FCで検証

衛星観測で得られたデータを科学的に利用するためには、その不確かさ(ばらつきやバイアス)を明らかにする検証が欠かせない。そのためには、地上観測や航空機観測などによって独立で得られた、より高い精度のデータを使うことになる。

今回のTOKYO-FCは「日・米宇宙協力に関する枠組み協定」に基づくもので、TANSO-3プロダクトを検証・評価し、全球大気組成のモニタリングや、排出量の算出に必要な精度を満たしていることを確認することを目的としている。

TOKYO-FCで使われる、前出の航空機2機の観測手法は以下の通り。

ダイヤモンドエアサービス「King Air」(NIES・JAMSTEC)

King Airに設置された吸入口から機外の大気を直接採集。温室効果ガスなどが固有の波長の光を吸収する性質を利用し、温室効果ガスの濃度やカラム量を算出する分光計を搭載してCO2、CH4、NO2などを測定する。大規模排出源から排出された温室効果ガスが拡散する様子を、詳細な水平・鉛直分布として取得することをめざす。

NASA「G-III」

G-IIIには分光計が2台搭載されており、CO2、CH4、NO2を測定する。

  • King Airを用いた観測の概要 (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    King Airを用いた観測の概要 (出所:環境省 報道発表資料PDF)

  • 日本の主要都市観測の飛行計画(例) (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    日本の主要都市観測の飛行計画(例) (出所:環境省 報道発表資料PDF)

  • 東京上空の観測飛行計画(例) (出所:環境省 報道発表資料PDF)

    東京上空の観測飛行計画(例) (出所:環境省 報道発表資料PDF)

TOKYO-FCで得られたデータは、TANSO-3のレベル2(L2)プロダクトの精度を評価するために用いられる。レベル2(L2)プロダクトには、以下のデータが含まれる。

  1. カラム量:気体の総量を単位面積当たりの地上から大気上端までの柱(カラム)の中にある気体分子の数で表した数値
  2. カラム平均濃度:乾燥空気のカラム量に含まれる温室効果ガスのカラム量の割合

レベル2プロダクトは2027年春に一般公開される予定。CO2の全大気月別平均濃度の監視や、国別の人為起源による温室効果ガス排出量の検証、温室効果ガスの大規模排出源のモニタリングといったミッションで使われることになる。

なお、いぶきGWの観測データ検証に使われる地上観測ネットワークとしては、以下の3つが挙げられている。

  • 全量炭素カラム観測ネットワーク「TCCON」(Total Carbon Column Observing Network):共通の装置・条件で観測し、共通の解析手法を用いて温室効果ガスデータを推定。航空機観測による高度分布データを用いて校正された、高精度なデータとして一般公開されている
  • 共同炭素カラム観測ネットワーク「COCCON」(Collaborative Carbon Column Observing Network):TCCONの観測地点を容易に設置できない地点を補完するために設立された観測ネットワーク
  • Pandonia Global Network(PGN):NASAとESA(欧州宇宙機関)が共同運営する、大気微量ガスを観測する世界的な地上観測ネットワーク