EPCがルネサスに低電圧パワーGaN技術を供与

GaNパワー半導体サプライヤの米Efficient Power Conversion(EPC)が2月10日、ルネサス エレクトロニクスと包括的なライセンス契約を締結したことを発表した。

この契約に基づき、ルネサスはEPCの低電圧エンハンスメント・モードGaN(eGaN)技術と同社のサプライチェーン・エコシステムを活用できるようになるほか、両社は今後1年にわたって、これらの製品のウェハ製造を自社で行う体制構築に向けた協業を行っていくという。また、ルネサスは、すでに量産中のEPCの主要なGaN製品についてのセカンドソース供給を行うことで、EPCのサプライ・チェーン体制の強化にも協力するとしている。

EPCは、International Rectifier(IR、2014年にInfineon Technologiesが買収)のCEOを務めていたアレックス・リドウ(Alex Lidow。ちなみに同氏の兄のDerek Lidow氏はIRに勤務後、市場調査会社iSuppliを設立したことで知られる。iSuppliは2010年にIHS(IHS Markit)に買収された)氏が2007年に設立したGaNデバイス専業ファブレスメーカー。同氏は、GaNデバイスがほとんど認知されていなかった時代からGaN技術の普及に努めており、同業界の教科書とも言える「Gan Transistors for Efficient Power Conversion(初版および改訂版)」の著者の1人でもある。

一方のルネサスは2024年、高電圧GaNポートフォリオの強化を目的に米Transphormの買収を完了するなど、方針を見直したSiCパワー半導体とは逆にGaNに注力する姿勢を見せている。

TransphormのSuperGaN技術は、ノーマリーオンのDモードを中心としたもので、今回、EPCのEモード(ノーマリーオフ特性)に関する技術が加わることで、ルネサスは低電圧から高電圧まで幅広い包括的なGaNパワー半導体ポートフォリオを提供できるようになるという。実際に、ルネサスのGaN事業部バイス・プレジデントであるRohan Samsi氏は、「EPCとの今回の契約は、ルネサスの既存の650V以上の高電圧ポートフォリオを補完するものであり、48Vから12V、さらには1Vへ広がるAI電源アーキテクチャをはじめ、クライアント・コンピューティング、バッテリー駆動アプリケーションなどの大規模市場への展開を可能にしてくれる」と述べている。

TSMCがGaNから撤退も、関連会社のVISに技術を供与

大手ファウンドリのTSMCが、先端プロセスへのリソース集中を目的に、2027年7月までに段階的にGaNパワー半導体の受託製造からの撤退を決めた。

この決定を受けて、GaNパワー半導体業界では新たな提携や協業といったさまざまな動きが出てきた。TSMCは2014年に6インチウェハでのGaN技術の提供を開始、2021年に8インチウェハでの製造にも対応。その間、スマートフォン(スマホ)の充電器やデータセンター電源向けに650VクラスのGaN-on-Si技術を開発し、80V製品とともにファウンドリサービスを提供してきた。しかし、中国勢からの価格圧力によるGaNパワー半導体市場の成長が想定より鈍化してきたことに加え、AI需要の高止まりを踏まえた300mmウェハによる先端プロセスの生産能力拡充や先端パッケージ(CoWoS)に対するニーズの充足を優先する方針を打ち出し、GaNの受託製造からは撤退する方針を打ち出していた。

ただ、TSMCそのものでの8インチでのGaNパワー半導体受託製造は撤退するが、同社が筆頭株主である台湾の8インチウェハのファウンドリであるVanguard International Semiconductor(VIS、台湾名は世界先進半導体)が2026年1月にTSMCと650Vおよび80VのGaN技術に関するライセンス契約を締結。TSMCに代わってVISがGaNパワー半導体提供と、データセンター、車載、産業用、電源管理など、高効率な電力変換が求められる主要分野に向けた次世代GaNパワー技術の開発と拡大を目指す方向性が示された。

この提携は成熟プロセスにおける高付加価値化を目指すVISの戦略の一環であるとされるが、もともとVISも熱膨張係数がGaNに近く、反りが少ないQST(Qromis Substrate Technology) 基板を採用したGaNプロセスを2018年から開発し、2022年には650V GaN-on-QSTの量産を正式に発表していた。

今回の契約により、TSMCのGaN-on-Siプラットフォームを従来のGaN-on-QSTプラットフォームと組み合わせることができるようになり、シリコン基板とQST基板の両方で顧客にGaNパワー半導体を提供できるようになる唯一のファウンドリとなるとVISでは説明しているほか、低耐圧(200V未満)、高耐圧(650V)、超高耐圧(1200V)をカバーする製品ソリューションの提供が可能となるとする。

VISでは、自社の8インチ製造ラインでTSMCのGaN技術の検証を進めており、統合プラットフォームの開発に向けた取り組みを2026年初頭から開始し、2028年前半からの生産開始を目指すとしている。

GFもTSMCからGaN技術のライセンスを取得

TSMCのGaN撤退を受ける形でGlobalFoundries(GF)も2025年11月に、データセンター、産業、自動車などの電源アプリケーション向けGaNパワー技術に関する提携をTSMCと行ったことを明らかにしている。

具体的には、650Vおよび80V技術に関する技術ライセンス契約を締結しており、これによりデータセンターなどの産業用途のみならず、自動車やスマートモバイルなどの民生用途においても、次世代GaN製品の開発と製品化を加速することが可能になるとする。2026年初頭よりGFの米国工場に技術導入を開始し、同年後半には生産を開始する予定で、GFでは世界中の顧客からのGaNパワー半導体に対する受託生産に応じるとしている。

またGaNではないがGFは2月17日に、ルネサス エレクトロニクスと数十億ドル規模の製造パートナーシップを締結し、戦略的協業の拡大を図ることを発表している。

この製造パートナーシップはGFの有するFD-SOI技術に加え、BCD技術、組み込みフラッシュ技術などをルネサスが活用できるようになるもので、それらの技術を活用した製品のテープアウトは2026年半ばから開始される予定で、GFの米国工場での生産を中心に、GFの独工場やシンガポール工場の活用などに加え、将来的にはGFのプロセス技術の一部をルネサスの国内工場に移植することも検討するという。この技術連携が深化していけば、ルネサスがGFがTSMCからのライセンスをベースとしたGaN技術にもアクセスできるようになる可能性もある。

TSMCに製造委託していたロームは自社生産にシフト

これまで150V耐圧GaNパワー半導体のみ自社生産で対応し、TSMCに650V耐圧パワー半導体の生産委託を行っていたロームは、2025年11月の決算説明会ではTSMCのGaNからの撤退について痛手と表現しつつ、VISへの移管の可能性を踏まえた協議を進めていることに触れつつ、自社での製造にも含みを持たせていたが、2026年2月4日開催の決算説明会では、TSMCと一緒に立ち上げてきたこともあり、TSMCからライセンス供与を受ける形で自社生産の方向に舵を切ったことを述べていた。

具体的には、同社の生産子会社であるローム浜松に8インチラインを立ち上げて生産を行っていく予定で、需要次第ではVISへの一部生産委託も行う可能性についても可能性を示している。

PSMCへの生産委託に切り替えるNavitas

自社生産に舵を切ったロームとは対照的に、TSMCのGaNファウンドリ事業の有力顧客である米Navitas Semiconductorは、Powerchip Semiconductor Manufacturing(PSMC、力晶積成電子製造)との戦略的提携を2025年7月に発表している。

PSMCの8インチラインを活用する形で、2025年第4四半期に初期デバイスの認定を行い、100V品の生産を2026年上半期より開始するほか、650V品についても2026年~2027年にかけてTSMCから移行する予定だとしているが、PSMC以外の複数サプライヤとも連携することで、供給の安定化を図るとしている。

onsemiが中Innoscienceと協業を推進

このほか、TSMCのGaN撤退とは直接関係ないがonsemiが2025年12月に中国のGaNパワー半導体大手Innoscienceと協業に関する覚書(MOU)を締結したことを発表している。

Yole Groupの調査によると、2024年の世界のGaNパワー半導体サプライヤランキングのトップがInnoscienceでシェア30%、2位であるNavitasの17%の倍近いシェアを有している。以降は3位がPower Integrationsの15%、4位がEPCの13.5%、5位がInfineon Technologiesで11%と続いているが、IDMのInnoscienceが生産能力などを武器にシェアを伸ばす勢いを見せているという。中国では同社に続けとばかりに多数のGaNパワー半導体関連メーカーが誕生しており、中国外のGaNウェハやGaNパワー半導体メーカーに価格圧力をかけており、TSMCのGaNパワー半導体受託製造撤退の要因の1つとなったことが指摘されている。

onsemiのInnoscienceとの提携は、InnoscienceのGaNウェハおよび製造能力とonsemiのシステム統合、ドライバおよびパッケージ技術を組み合わせ、40~200VのGaNパワー半導体の市場展開加速を狙おうというもので、onsemiは2026年上期に、協業成果による製品サンプルを出荷開始する予定としている。

スマホの急速充電器としての爆発的普及に加え、データセンターや自動車での活用も進みつつあり、市場の成長が期待できるGaNパワー半導体市場だが、価格圧力をはじめとする厳しい競争が続いており、将来的な勝ち残りをかけた提携や協業は今後も続くと思われるほか、M&Aによる企業統合によるシェアの拡大へと発展する可能性もあるだろう。