
日本の再成長に向けた「令和の殖産興業」に向けて─ 「日本の産業力競争力強化に向けた『コミュニティ』 づくりを進めていく」 「日本には産業を復活させるチャンスが残っている」と三井不動産社長の植田氏は強調する。「失われた30年」の中で低迷してきた日本経済だが、デフレから脱却してインフレに向かう中で、競争力を取り戻す時。その中で三井不動産は単なる不動産業ではなく「産業デベロッパー」を標榜し、産業競争力を高める「コミュニティ」づくりを進めている。日本が復活するために必要なことは何か、その中で三井不動産はどんな手を打つのか。
今は日本が出直す 非常にいいチャンス
─ 高市早苗政権が発足し、「強い経済」を打ち出しています。日本経済が改めて成長していくために必要なことは何だと考えていますか。
植田 やはり産業を強くしないと駄目だということだと思います。明治の先人たちは「殖産興業」を進めて日本を発展させましたが、令和版の「殖産興業」をやらなければいけないと思っています。
しかも、それを補助金などではなく、国が成長産業、「人」に対して戦略的に投資していくことが必要です。
日本は今でも先進国にいるという気持ちでいるかもしれませんが、1人当たりの名目GDP(国内総生産)で日本は世界38位というのが現状です。今は、もう一度改めて出直す非常にいいチャンスだと思います。
─ 今は米国が「アメリカ・ファースト」、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの紛争など地政学リスクが高まっています。
植田 東西冷戦に続いて、今また新たな分断が世界で起きていますが、逆に言うと、日本は分断のある時の方が世界の中の立ち位置がはっきりしてきます。
バブル崩壊以降の30年は「失われた30年」と言われ、日本経済は低迷してきましたが、この時代はグローバリゼーションの時代でもありました。この時の日本の立ち位置は、世界の国々からパスされる状態でした。
パスした国々は安い労働力を持つ中国に向かっていました。日本はそこで焦ってしまい、人件費等の徹底的なコスト削減をしてきました。それが結果的に30年間のデフレをもたらしてしまったということだと思います。
今は、世界の中で日本の立ち位置がはっきりしてきていると同時に、非常にいい位置にいると思いますから、このチャンスを生かさない手はありません。
例えば産業振興に向けて、半導体分野を強化しようとしていますが、台湾のTSMCの誘致、最先端半導体の国産化を目指すラピダスの設立など、積極的な手を打っています。
産業興しに貢献するコミュニティづくり
─ 植田さんは社長就任以来、三井不動産の事業のあり方として、イノベーションや産業競争力を高める「産業デベロッパー」を標榜していますね。改めて思いを聞かせて下さい。
植田 元々、当社は過去の高度成長期には、日本になかなか土地がない中で埋め立てを進めて土地を創り出してきました。そこで産業が育ち、ホワイトカラーが増えてくると、オフィス環境を整備しなければならないと、超高層ビルの先駆け「霞が関ビル」を開発しました。
また、そこで働くホワイトカラーの「クオリティ・オブ・ライフ」を高めるために良質な商業施設を開発し、良質な住宅を提供するといったことを進めてきたのです。
最近ではスポーツ・エンターテインメントにも取り組んでいますが、Z世代などより幅広いターゲットと接点を持つことができるようになってきました。その中で、さらに今取り組みを強めているのが、産業のコミュニティをつくるということです。
─ 不動産の提供にとどまらない「場づくり」をしていくということですね。
植田 そうです。それぞれの業界ごとに、様々な関係者同士が関わりを持っていますし、産官学の連携というのは言葉としてはありますが、実は実効性のある形で、そのつながりを生かせていないのではないかという問題意識がありました。
我々のオフィス賃貸業、商業施設、個人への住宅供給も、全て日本の産業競争力に密接につながっていると考えています。
その中で、今までは日本の産業競争力を高めるということに対して、我々はどうしても受け身で、指をくわえて見ているという立場でした。しかし、今はそれを待っていられないということで、我々もできることをやろうと、場の提供だけでなくコミュニティの提供をし始めたのです。
─ 最初に取り組んだのはどの分野でしたか。
植田 まず始めたのが「ライフサイエンス」です。歴史的に日本橋が薬の街だったことを生かして「LINK―J」を設立しました。2016年にスタートして、来春で丸10年になりますが、年内には1000社を超える会員組織になる見通しです。
国内外の産官学、スタートアップ、様々な高度人材が集まる、実効性のあるコミュニティとなっています。
そして、このLINK-JにはJAXA(宇宙航空研究開発機構)が参加しています。これは無重力や低重力の中での物質、薬の作り方などを研究したいということで加入されました。
薬は様々な要素の総合力の中からできてきますから、LINK-Jのようなコミュニティは「非常にいい」ということでご評価いただけました。
JAXAが取り組む宇宙事業も、総合力です。ロケットのエンジンや機体、さらに言うと宇宙食まで、非常に裾野が広い。これを1つの産業として活性化させていくためには、この分野でもコミュニティが必要だということで22年に設立したのが「crossU」です。3年で300社以上の会員数となっています。
─ 産業の中の組織や「人」をつなぐ存在になっていると。
植田 ええ。さらに25年に「半導体」の産業創造に向けて、設計・製造を担う企業だけでなく、活用するユーザー企業や官や学、支援する人たちによって「エコシステム」を構築することを目指したコミュニティ「RISE-A」を設立しました。
─ ライフサイエンス、宇宙、半導体の3つのコミュニティがあるということですね。
植田 そうです。その根底にあるのは「メイク・ジャパン・グレート・アゲイン」というような思いです。かつて日本の産業は世界を席巻してきました。私もその時代を生きてきましたが、今や1人当たりGDPで38位という立ち位置です。
これをもう一度、復活させるチャンスが、日本には残っているはずです。一時は、先程お話したデフレの時代に、それまでの「垂直統合」の産業モデルが否定されて浮足立つ場面もありましたが、今は気を取り直して取り組む、非常にいい機会が巡ってきているということです。
地方創生は東京との対立軸で語るべきでない
─ こうした産業連携の取り組みは地方創生にもつながってきますね。
植田 そう思っています。しかも、地方創生で大事なのは、各地に東京のコピーをつくっていくのではなく、産業を戦略的につくっていくことです。我々がそのお手伝いをすることによって、結果的にそこに街が生まれればいいですし、街が強くなっていけばいいと考えています。
その中で我々は今、東北大学とのパートナーシップの中で「東北大学サイエンスパ―ク構想」実現に向けた検討を始めているところです。
地方都市については、道州制のような形で、各エリアをコンパクトにしていく中で、大きな戦略を立てて進めていく必要があるのではないかと思います。その意味でも、地方創生では東京と地方を対立軸で語るべきではないと考えています。
─ 東京が強くなれば地方も強くなり、地方が強くなければ東京も弱くなるという形で両者は一体ですね。
植田 そうです。東京は世界と都市間競争をしている最前線にいます。特に日本には集積の強みがありますから、東京には集積させていく必要があります。そして、東京と地方がそれぞれの特徴を生かして、どうコラボレーションをしながら共創していくかという考えに立たなければいけないと思います。
─ 日本はこれまで「いいものを安く」という考え方で、付加価値に見合った価格を付けられずに来ました。この問題をどう考えますか。
植田 やはり、自分が一生懸命付加価値を付けても、結局は安いものが勝つわけですから、それでは報われません。そうした中でイノベーションが大事と言っても、イノベーションが起きる環境になかったということです。
しかし、今後はこれが変わってくる可能性があります。まさしくデフレから脱却して、インフレになると、付加価値を付けたものが正当に評価される時代に変わってくるということだと思います。
ただ、それは同時に、付加価値を付けられるところと、付けられないところとでは差が出てくることは否めないということだと思います。
そういう中で、我々はどういう戦略を立てていくか。その意味でやはり付加価値を付けることが大事になります。我々も今まで、街づくりを通じて、様々な付加価値を付けてきましたが、それが十分な価格面での評価を受けてきたかというと、そうではない面もあったと思います。
それがいよいよ、皆さんに付加価値をご理解いただくことで、それが収益という形で跳ね返ってくる時代になってきたと考えています。
「いいものを安く」というのは道徳的な面も含めて日本の素晴らしい文化だったと思いますが、付加価値に対応した価格が付くのだという形でつくる側も、消費者側もマインドチェンジをしなければならない時代になっていると思います。
─ まさに今は転換期に来ていると言えますね。
植田 そう思います。そのベースの中で、「成長と分配の好循環」ができてくるかどうか。まさしく今、賃金は継続的に上がってきています。分配は一朝一夕ではありませんが、みんなが努力をしているところです。
そこは、あまり急がずに、しっかりじっくりやっていかなければいけないと思います。方向性としては間違っていないと思います。
マンション価格が 高騰する背景
─ マンションなど住宅価格は特に首都圏で高騰しています。この問題をどう考えますか。
植田 1990年代の半ばから2000年代の半ばくらいまで、首都圏では年間8万戸以上の新築マンションの供給がありました。
この背景には日本の金融危機で企業がリストラをする中で、社宅やグラウンドを売却し、それがマンション用地に転換されたということが1つです。そうした土地は今は少なくなっています。
もう1つは建築費です。建物代が上がってしまうと、売れる価格で収支が組めず、土地が買いづらくなるという状況が起きています。
この建築費の高騰に加えて、マーケットにおいて、物件の供給が少ないということも要因となっています。新築は今年約2万3000戸、中古は昨年の数字で約3万7000戸と、合計で6万戸ほどしか流通していないんです。
─ マンションが希少なものになっている。
植田 そうです。お客様の中には共働きでペアローンを組んで取得するお客様も増えていて、現時点では実需が追い付いている状況ですが、建築費の悪影響は非常に危惧しており、市場動向を注視しています。
マンションの需要には実需、投資、投機とありますが、短期での転売は投機です。この投機が実需の人たちに悪い影響を与えている懸念があり、我々も対応をしていかなければいけないと思います。
我々はお客様にお引渡しをした後は、お客様と管理組合の関係になってしまいます。ですから、お客様のお引渡しをするまでの間に、購入戸数の制限をしたり、転売する際の規制を加えるといったことは考えていかなければならない問題です。
問題をきちんと整理して、やるべきだと思われることについては実行に移していきたいと思っています。