
国産SAF製造工場第1号を立ち上げて
「お金、ビジネスだけを強調してしまうと、この取り組みは成り立たない。価値観を共有してやっていくことが大事」と話すのは、日揮ホールディングスSAF事業チームプログラムマネージャーの西村勇毅氏。
今、日揮HDは「SAF」に注力している。SAFは「Sustainable Aviation Fuel」の頭文字を取った略称で、日本語で「持続可能な航空燃料」と呼ばれる。廃食油、微細藻類、木くず、サトウキビ、古紙などのバイオマス、廃プラスチックなどの都市ごみが原料となる。
従来のジェット燃料に比べて、CO2排出量を最大約8割削減できるなど、航空業界の脱炭素に向けた有力な手段と目されている。
日揮HDは、2025年4月、コスモエネルギーホールディングスなどとの合弁会社「サファイア スカイ エナジー」で日本初の国産SAF製造工場を、大阪府堺市で立ち上げた。
だが今、世界ではSAFにどう向き合うか、各社の対応が分かれている。例えば、SAFの世界最大手であるフィンランドのネステは増産投資を進めているが、英シェルは計画を中止、英BPは一時中止といった形で、SAFへの取り組みを見直す動きも出ている。
その背景には、世界的なインフレ傾向によって資材価格が高騰していること、どれだけ航空会社が受け入れてくれるか、需要が読みにくいといったことがある。航空会社としても、従来のジェット燃料よりも製造コストが高いSAFを導入することでコストアップにつながるが、それをどこまで運賃に反映させられるかわからないといった事情もある。
日揮HDは、そうした状況下、国内で先陣を切って投資に踏み切ったわけだが、西村氏は今の世界の状況をどう見ているか。
「1つは原料不足で需給ギャップが開き、原料価格が高騰している。それによって価格が上がったSAFを航空会社が買うかというと買っていただけない。投資をやめる判断をする企業がいることは理解できるが、本当にそれでいいのか。どこかでバランスさせられるところがあるのではないか」と西村氏。
では日揮HDは、どういうアプローチでSAFの普及を進めようとしているのか。
日揮HDがSAFに着目したきっかけは2020年に日本政府が出した「脱炭素宣言」だった。この宣言によって、日揮HDが主力とし、化石燃料などのプラントを建設するEPC(設計・調達・工事)プロジェクトが一時止まった。「その時に、『このままではいけない』と新規事業の可能性を探った」(西村氏)
その時に辿り着いた1つがSAFだった。生産には日揮HDが得意とする石油精製の技術を活用するため、非常にシナジーが高かったのだ。
ただ、それまでのEPCプロジェクトとは違う投資判断が求められたが、経済的価値だけでなく、定量化しにくい「環境価値」が社内でも認められ、投資に至った。
取り組みを始めると、海外の事業者からの声もかかるようになった。「これは今までになかった反応だった」。従来は、すでに事業があって、EPCプロジェクトの依頼が来る形だったが、SAFについてはゼロからの立ち上げ。これを「一緒にやりたい」という海外企業が続々名乗りを上げた。
「ゼロからイチを作り出したという実績が大きかった。今後、SAFに限らず、『ややこしいこと』に取り組む。ややこしいことほど、我々が活躍できる」。世の中の課題を解決するために、自らの技術を生かしていくというのが、1つの方向性。
SAFの普及に向けても工夫を凝らす。それが「Fry to Fly Project」。家庭や飲食店で使用した食用油(廃食用油)を回収、それを原料にSAFを生産しようという取り組み。23年から開始し、現時点で271の企業、自治体、団体が参加している。
このプロジェクトには国や東京都、航空会社など、多くの関係者が参画。国土交通省航空局カーボンニュートラル推進室室長の山下泰史氏は「国産SAFはエネルギー安全保障の観点でも重要。日本でSAFがつくることができる環境が整うのは航空会社にとっても大きい。前向きに捉えている」と話す。
日揮HDは、「Fry to Fly Project」の前段階として、22年に国産SAFの商用化を目指す有志団体「ACT FOR SKY」を立ち上げた。航空会社、重工メーカーなどが名を連ね、SAFの需要動向を探る貴重な場となった。
だが、前述のように原材料をいかに集めるかが大きな課題だった。そこで、一般の人たち、飲食店などが、こうした取り組みに参加するためのハードルを大きく下げるために立ち上げたのが「Fry to Fly Project」。飲食店や家庭での廃食用油回収を日常的な習慣にするといった「行動変容」を促す。
今後、さらにSAFを普及させるために、日揮HDとしては「連携者をさらに増やしていきたい。航空セクターであるかどうかに関係なく、みんなで取り組むべきものだと思う」(西村氏)という考え。
当面の利益確保で環境問題に目をつぶるのではなく、中長期で地球に必要な手立てを打っていく。その考えを持つ企業、経済リーダーは多い。人々の意識に訴えかけるための地道な取り組みが続く。