VAIOは、法人向けのLCM(Life Cycle Management)サービスの強化に乗り出している。現在、VAIOのPC事業は約9割が法人向けPCビジネスであり、長野県安曇野市の本社工場における国内生産の強みを生かして、キッティングサービスや修理サービス、廃棄時のデータ消去サービスなど、導入から運用、リプレース/リサイクルに至るまでのPCライフサイクル全体を網羅するサービスを提供している。

特にLCMサービスは、運用フェーズを対象にしたメニューを揃えており、VAIO 法人営業本部技術営業部 部長の西澤良太郎氏は「ユーザーとの接点は、導入時や廃棄時よりも、運用フェーズが最も長い。お客さまとのつながりを、より強固にするために、LCMサービスの強化を進めていく」と語る。VAIOでは、新たにソフトウェアLCMサービスを追加することで、法人ユーザーとの接点をさらに強化する考えだ。

  • VAIO 法人営業本部技術営業部 部長の西澤良太郎氏

    VAIO 法人営業本部技術営業部 部長の西澤良太郎氏

キッティングサービスで導入を効率化

VAIOでは「導入」「運用」「リプレース/リサイクル」の3つのフェーズにわけて、法人向けサービスを提供している。西澤氏は「各フェーズのメニューを組み合わせ、法人ごとに最適なサービスを選択することができる」と語る。

  • VAIOの法人向けビジネス

    VAIOの法人向けビジネス

導入フェーズでは、キッティングサービスを中心に、マスターイメージ作成サービス、導入支援サービスなどを提供している。キッティングサービスは、100台以上の同一機種を導入する法人向けに提供しているもので、OSやネットワークの設定、企業固有で利用するアプリなどをあらかじめセットアップした状態で出荷する。

キッティングの作業は「開梱/専用OSインストール」「個別設定」「BIOS(UEFI)設定/梱包」の3つに分類されるが、これらの作業は各作業に精通した専任技術者が行い、作業の安定性と効率化、高品質を実現している。工場の生産品質を維持した形でキッティング作業を行っているのが特徴だ。

安曇野工場には専用のキッティングルームが設けられており、限られた社員だけが入室できるように徹底したセキュリティ管理を実施。さらに、法人ユーザーの要望にあわせて、より管理体制を強化した「お客さま専用ルーム」も用意している。ここでは、VPN回線を利用し、隔離されたネットワーク環境でキッティング作業を実施できるようにしている。

  • 安曇野工場内にある専用キッティングルーム。限られた社員だけが入室できる

    安曇野工場内にある専用キッティングルーム。限られた社員だけが入室できる

VAIO 法人営業本部技術営業部 LCM課の奥原直樹氏は「安曇野工場が持つ生産、修理などのノウハウを活用しながら、キッティングを実現している点がVAIOの特徴。VAIOの法人向けPC事業の拡大にあわせて、お客さま専用ルームの拡張のほか、専用キッティングルームのセキュリティ環境をさらに強化している。お客さま専用ルームを使用しなくても、高いセキュリティ環境で作業が行えるようにしている」と自負する。

  • VAIO 法人営業本部技術営業部 LCM課の奥原直樹氏

    VAIO 法人営業本部技術営業部 LCM課の奥原直樹氏

キッティングサービスの利用は、毎年2倍規模で増加しており、直販案件の約4割がキッティングサービスを利用している。VAIOの法人向けPCビジネス拡大においても、重要な役割を担っている。

ハードウェアにサービスを組み合わせて運用を支援

運用フェーズでは、LCMサービス、リファービッシュサービス、PC延長保証サポートなどを提供している。特に同社が力を入れているのが、LCMサービスだ。法人ユーザーは、VAIOにPCを預けておき、増員や人事異動などによってPCが必要になった時に、安曇野工場内で個別にキッティングを行い、納品するという仕組みを「お預かりサービス」として提供。

  • 運用サービスの概要

    運用サービスの概要

また、社員が退社や異動、転勤などによって、PCが不要になった場合にはVAIOに送ると、点検とクリーニングを行って整備し、必要になるまで保管してくれる。もちろん、再整備したPCも納品する際には、再度キッティング作業を行い、最適な環境で、必要な場所に送ってくれる。

さらに、管理状況共有サービスでは、これらのPCの管理状況を報告するほか、修理交換サービスでは、修理が必要なPCを工場のノウハウを活用して迅速に修理するだけでなく、業務が止まらないように代替機を先行して納品するといったことも行っている。

  • LCMサービスの概要

    LCMサービスの概要

西澤氏は「一部の法人ユーザーに対しては、保守定例と呼ぶ会議を通じて、修理件数の推移や特定の修理頻度を報告し、それをもとに使い方の提案を行い、トラブルを事前に防いだり、困りごとを聞きながら、ハードウェアだけでなく、サービスを組み合わせて解決したりといったことも可能になっている」と話す。

ある法人ユーザーでは、液晶が破損する修理が多いことから、使い方を調べたところ、ノートPCを閉める際に、紙のカタログなどを挟む社員が多いことがわかり、利用方法の改善を提案したという。

一方、LCMサービスで提供するリファービッシュサービスは、PCの購入時に限り、法人ユーザーが契約できるサービスだ。

バッテリーの駆動時間が短くなってきた際に、新品バッテリーパックに交換する「バッテリー交換サービス」、汚れやテカリが出たり、打鍵感の劣化したキーボードを新品のキーボードに交換する「キーボード交換サービス」、天板やパームレストなどの汚れやテカリ、キズ、日焼けで劣化した外装パーツを新品に交換する「外装交換サービス」を用意。長期間PCを使ってもらう環境を提供するほか、別の社員が新たに利用する際にも、新品パーツへの交換で快適な利用環境を提供している。

  • リファービッシュサービスの概要

    リファービッシュサービスの概要

加えて、PC延長保証では1年間のメーカー保証の修理規定に準じたサポートを最大5年目まで利用できる長期保証や、オンサイトサポートなどを揃える。あんしんサポートでは、破損や水漏れ、火災などの偶発的な事故にも対応することが可能になっている。

それぞれのサービスはメニュー化しており、ユーザーニーズにあわせた対応できる。西澤氏は「お預かりサービスのために用意している保管スペースは1年を経たずに倍増している。大手企業のなかには、退職した社員が利用していたPCを、新品のようにきれいにして新入社員に使わせたいというニーズがある。お預かりサービスとリファービッシュサービスを組み合わせることで、こうした要望に対応できる。修理・保管し、再キッティングもできる。これも工場内の作業だからこそ実現できるサービス」と胸を張る。

現在、LCMサービスを利用している企業は、金融、商社、小売、製造など、さまざまな業種にわたっており、1000台~5000台以上のPCを利用している企業が中心となっている。

導入コストを抑えることができる「リプレース/リサイクル」フェーズ

リプレース/リサイクルのフェーズは「データ消去サービス」「不用パソコン買取サービス」で構成する。データ消去サービスは、ワンビが開発したOneBe Wipeを提供し、ユーザー自身でデータ消去を行うサービスと、VAIOが不要になったPCを引き取り、ユーザーの要求水準にあわせた消去方式でデータ消去を行う引き取りサービスを用意。「データ消去作業完了報告書」の発行も行う。

不用パソコン買取サービスは、使用済みPCをVAIOが買い取るもので、他社ブランドのPCも買い取りの対象となっている。法人ユーザーにとっては、リプレースの際の導入コストを抑えることができるといったメリットがある。

VAIOでは、LCMサービスの新たな取り組みとして、ソフトウェアLCMを開始する。これまでのLCMサービスでは、保管しているPCのキッティング、PCの回収および配送、故障時における代替機の提供など、ハードウェアを中心としたサービスであったが、新たに提供するサービスは、OSのパッチ配信、ドライバー更新、アプリケーションの更新などを提供するものであり、ソフトウェアを対象にしたサービスとなる。

  • LCMサービスの新たな取り組みとしてソフトウェアLCMを開始

    LCMサービスの新たな取り組みとしてソフトウェアLCMを開始

情報システム部門の作業負担を軽減するほか、必要なパッチだけを配信して、余計な不具合の発生を回避することも可能になる。たとえば、2025年6月にはWindowsのセキュリティ更新プログラムを適用したことで、一部メーカーのPCでは、起動できなくなるという不具合が発生。

こうした際にもVAIOの設計部門と連動したサービスとして、ソフトウェアLCMを提供することで、事前検証した上でパッチを配信することが可能になり、パッチ適用による問題を回避することができるという。すでに、一部の法人ユーザーの要望にあわせて、サービスを開始しており、これをメニュー化することで、より多くの法人ユーザーに提供する考えだ。

個別対応で実績を積み重ね、メニュー化。“見えにくいコスト”にも対応

西澤氏は「現在、提供している各種サービスも、法人ユーザーの要望に応える形で、個別対応で実績を積み重ね、それをもとにメニュー化してきた。ソフトウェアLCMも、同様に一部の法人ユーザーからの要望を受けてスタートしたものである。ハードウェアLCMは、安曇野工場において、修理やキッティングサービスを行っているからこそ実現できたものだが、ソフトウェアLCMは設計チームが持つノウハウを、LCMサービスに生かすものになる。安曇野本社にある設計部門と営業部門が近いからこそできるサービスだ」と語る。

VAIOでは、法人ユーザーに対して、導入から廃棄までのTCOのメリットを訴求する考えを示す。ここに、LCMサービスをはじめとした法人向けサービスが効果を発揮することになる。

西澤氏は「VAIOは価格が高いと言われるが、PC本体の価格やソフトウェアライセンスの費用は『見えるコスト』であり、トータルコストの一部にしか過ぎない。導入時のキッティングや設置に関わるコスト、保管費用や配送費用のほか、壊れることが多いと、それにより修理の手間やダウンタイムが発生したり、代替PCのコストや再キッティングにかかる時間やコストも大きくなったりする」と指摘。

このような状況をふまえ、同氏は「実際にはトラブル対応やアップデートなどによる『見えにくいコスト』の方がはるかに大きい。特に、ダウンタイムが及ぼす影響は大きいと考えている。仕事ができない時間や情報システム部門や総務部門とのやりとり、異なる仕様のPCを代替機として使用することでの負荷などを費用に換算すると、大きな損失が生まれることになる。VAIOが持つ製品の信頼性と、法人向けサービスの利用によって『見えにくいコスト』を極限まで抑制することができる」とする。

  • 見えにくいコストを極限まで抑制するという

    見えにくいコストを極限まで抑制するという

そして、西澤氏は「今後は、LCMサービスの拡張とともに、より多くの法人ユーザーに利用してもらうために、パッケージ化を進めている。工場のなかで実施しているからこそできるLCMサービスの強みを生かして、単にPCを販売するだけでなく、導入から運用、廃棄までをトータルでサポートし、社員の生産性向上と、PCライフサイクル全体のTCO削減に貢献できる」と語る。

これにより「売る前、売る時、売った後」とエンドトゥエンドでVAIOはサポートを強化できるとのことだ。ハードウェアの価値だけでなく、運用や廃棄までを含めたPCライフサイクル全体で価値を提供するのが、VAIOの法人向けビジネスの特徴だろう。