富士通とインド理科大学院(以下、IISc)は10月16日、反応拡散系のシミュレーションを高速化するソフトウェア技術開発の共同研究を10月1日に開始したことを発表した。反応拡散系とは、化学反応と物質の拡散からなる2つのプロセスによって、空間の物質が変化する様子を数理モデル化したもの。

この共同研究では、化学反応シミュレーションやスマートグリッドにおける電力需要シミュレーションなど、自然科学・工学の幅広い分野において活用されている反応拡散系モデルをグラフネットワーク上に実装することで、現実世界のより複雑な問題を実用的な時間で処理できるようにする新たなアルゴリズムを考案し検証する。

また、富士通が開発しているArmベースのCPU「FUJITSU-MONAKA」シリーズの特長を生かし、2030年度までに反応拡散系のシミュレーションを省電力で高速化するソフトウェアの実現を目指すとのことだ。

共同研究の背景

2027年にリリースが予定されている「FUJITSU-MONAKA」は、独自技術と最先端2ナノメートルプロセスを用いており、AIやHPC、データ解析など多様なニーズに対応しながら、性能の高さと電力効率で次世代データセンターの課題を解決し、導入から運用までの総費用(TCO)を削減すると考えられる。

一方のIIScはインドを代表する研究機関として研究成果を挙げており、両者の連携は持続可能な社会の実現に大きく貢献すると期待される。この共同研究は両機関の強みを生かし、革新的なソフトウェア技術開発を目指すものだという。

共同研究の概要

反応拡散系は局所的な化学反応と空間全体への拡散を数理モデル化したもので、物理学・化学・生物学など自然界の幅広い分野で活用されている。反応拡散モデルは連続媒体の偏微分方程式によって記述される。

その一方で、多くの実世界のシステムはネットワークによってより良くモデル化されるのだが、実世界のモデルは相互依存関係が複雑であるため、偏微分方程式では解くことが困難となる。

そこで共同研究では、現実社会のさまざまな事象を扱うグラフネットワークというモデル上で、反応拡散系を扱えるアルゴリズムの開発を目的とする。この新しいアルゴリズムにより、例えばスマートグリッドにおいては、需要予測を素早く行えるようになり、再生可能エネルギーを最大限活用でき、二酸化炭素排出量の削減に貢献できると考えられる。

さらに、この新アルゴリズムをArm CPU上で高速に処理するためのソフトウェアを開発し、省電力・高性能なArmベースのCPU「FUJITSU-MONAKA」シリーズで実行するための研究開発も進められる。

グラフネットワークによる解法はCPUに適したワークロードであり、「FUJITSU-MONAKA」を活用することで需要予測自体の電力削減やリアルタイム化を実現できるとのことだ。