リコーは9月26日、AIが創造的な議論を支援するワークショップルームを、価値共創拠点「RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)」に開設し、その内部をメディア向けに公開した。
このワークショップルームでは、AI技術を活用し、空間内の発話内容をもとに画面上へ適切な支援情報を自動的に提示することで、これまでにない新しいユーザー体験を提供することを目指している。
付箋紙を活用した従来のワークショップのように、アナログで多大な時間を要していた事前準備や進行を効率化し、多様なアイデアの創出を促す。
創造性を発揮できるワークショップルームが求められる理由
はたらく人の創造性コンソーシアムが実施した調査(「『創造性』で切り拓く はたらく人の未来」2023年9月29日)によると、「会社や組織が創造性の発揮を推奨・支援している」と感じている人の割合は、日本では45.1%であるのに対し、アメリカでは83.2%と日米間で差が見られた。日本企業は創造性の発揮に対し、積極的な支援を行っていないと考えられる。
また、日本経済新聞社とJob総研が実施した調査(「2025年 職場会議の実態調査」2025年7月14日)では、国内の回答者のうち68.7%が会議の進め方に対する不満があると回答した。創造性を発揮するべき会議において、約7割の人が不満を抱えている結果となった。
具体的には、「議論ではなく共有で終わる」(29.6%)、「発言しづらい空気感がある」(28.4%)、「対面だがPC画面を見ている」(23.5%)などが、その原因として挙げられた。せっかく対面で集まっても、その効果を感じられないことに不満を感じている人が多いことがうかがえる。
パーソルプロセス&テクノロジーの調査(「社内会議や社内ミーティングに関する実態調査」2023年3月29日)では、社内会議・ミーティングに参加する際に「会議関連資料作成」「会議前の根回し」「アジェンダ(会議議題)作成」「発言・アイデア内容を整理する」などが参加者の心理的負担(ストレス)であると指摘されている。
RICOH BIL TOKYOのゼネラルマネージャーを務める菊地英敏氏はこれらの調査結果を踏まえ、「新しい取り組みを始めたい人はいるものの、無駄な時間の塊が存在するために時間が足りていない。せっかく出社して会議に参加しても、その時間が有効に使われていない。また、会議のたびに前後の準備と処理にうんざりしている状況だ。その一方で、チームで創造性を発揮するためには対面が有効」だと、企業内の会議体に関する状況と課題を分析してみせた。
また、リコーデジタルサービスビジネスユニットの従業員1000人が参加したGGプロジェクト(業務量可視化・業務効率化プロジェクト)の結果、ワークショップの設計から社内コミュニケーション、社外事前調整活動、実施後活動を合わせると、半年間で計718時間を使っていることが明らかになったという。
これらワークショップに関する工数をまとめると、予約対応や会議(コア業務の打ち合わせは含まない)に次ぐ第3位のインパクトとなる。ワークショップの事前準備、実行、事後の整理の各段階で多くの工数を要していたとのことだ。
リコーはこうした課題から、ワークショップの前後に必要な工数を削減するとともにワークショップ自体の開催時間を短縮し、対面ならではの本質的で創造的な議論にフォーカスできる会議空間の実現を目指し、AIを活用したワークショップルームの構築に至った。
AIが促進するワークショップを動画で紹介
今回構築したワークショップルームは、音声情報を活用するAIとデジタルヒューマン、人間のファシリテーターが協働することで、これまでにないワークショップや会議を実現することをコンセプトとしている。
具体的には、参加者の発言をマイクで集音し、音声認識エンジンでテキスト化。さらにノーコードでAIエージェントを構築できるツール「Dify(ディフィ)」が議論に適したフレームワークを使用して、デジタルワークスペース「Miro(ミロ)」上に付箋紙として反映する。
簡単に言うと、参加者が発言すればするほど自動で付箋紙が張り出され、AIがこれをテーマごとに分類する。発話内容はAIが自動で議事録作成まで実行し、最終的に解決策を提案書やレポートにまとめる、といった具合だ。
情報収集や議論の支援にAIを活用したい場合は、リコーのデジタルヒューマン「アルフレッド」がサポートする。アルフレッドはマイクを通じて音声で会話が可能だ。
菊地氏によると、リコーは会議中の発話内容をAIが処理し、ディスプレイ上に投影する関連技術で2件の特許を出願しているという。また、会議室のような広い空間での発話内容をテキスト化する解析技術も、同社の強みとのことだ。
リコーがRICOH BIL TOKYOにAIワークショップルームを開設
大手エネルギー関連企業の法務・総務部門が先行トライアルを実施した結果、従来は3時間ほどかかっていたDX(デジタルトランスフォーメーション)構想を決めるワークショップが、約30分で完了した。その日のうちに、解決後の姿を反映した「未来新聞」の発行まで実現したという。
他にも、リコーデジタルサービスビジネスユニットの幹部会議でこのワークショップルームを利用した結果、発散して終わる会議ではなく、ゴールからずれない議論を実現。活発な議論を付箋紙として張り出した後、議論の各パートで投票しながらプロセスを進めることで、会議全体を構造化して参加者全員の認識を統一した。また、その場で次のアクションが明確な議事録を作成し、会議を運営する事務局の事後処理を削減した。
さらには、ZEN大学(日本財団ドワンゴ学園)のインターン生向けのワークショップにも活用した。ここでは、RICOH BIL TOKYOに来場する顧客を想定し、その顧客企業の課題探索を仮説構築、提案テーマ設定を学生が体験した。
学生は対象の企業に関する業界知識を持たないので、情報収集はAIがサポート。普段は知り得ない情報をAIが提供した後に、学生は議論を開始できる。顧客インサイトを起点にアイデアを取得することで、具体的な課題と仮説の設定を促す。
リコー社内でワークショップルームを活用した実践の結果、ファシリテーターの業務は29.9時間から12時間に短縮された。同様に参加者のタスクは7時間から2時間に短縮され、トータルで62.1%の業務効率化につながったとのことだ。
ワークショップルーム内での発言はマイクで集音しAIが可視化するため、参加者の肩書や属性に影響されず、フラットに評価される点もメリットだと感じる。従来のワークショップに必要だった事前準備や議事録の作成だけでなく、ワークショップそのものも効率化されることで、より創造的な議論が期待できる。
なお、リコーはAIを活用したワークショップルームについて、RICOH BIL TOKYOの来客向けに開放するほか、全国のリコージャパンオフィスへの実装も進める。これにより、さらに多くの顧客へAIによるワークショップ体験の機会を提供する。将来的には、顧客オフィスや会議室へのAIエージェントの導入やAIワークショップルーム化なども検討するとのことだ。









