NTT東日本とNTT西日本は9月18日、東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で「ネットワーク品質向上に向けたシンポジウム」を開催した。
2023年4月の大規模通信障害を契機に、両社は通信機器メーカー5社(シスコシステムズ、ジュニパーネットワークス、NEC、富士通、Nokia)とMOU(Memorandum of Understanding:了解覚書)を締結し、2年間にわたり共同検証や情報連携の仕組みを整えてきた。
今回のシンポジウムは、その取り組みの成果を報告するとともに、品質向上への挑戦と具体的な施策、そして今後の展望を広く共有する場となった。
シンポジウム開催の狙い
今回のシンポジウムは、NTT東日本とNTT西日本が共同で企画した初の取り組みである。通信機器メーカー5社を含む計7社が登壇し、各社が品質向上に向けた取り組みを発表した。
開会にあたりNTT東日本 先端テクノロジー部 桑子純一 部長は「品質向上は非常に一丁目一番地である」と強調し、ネットワークが電話だけでなくインターネットや光ファイバーを含む産業の基盤として機能していることを踏まえ、関係各社と連携し継続的に品質改善を進めていく方針を示した。
さらに「今回のシンポジウムを通じて、皆さまのお力をいただきながら日本のネットワークの品質向上に向けた取り組みを広げていきたい」と呼びかけ、共同の取り組みを一層推進していく姿勢を明らかにした。
年間1000万人が影響 障害の実態と教訓
最初に登壇したのは、NTT東日本 先端テクノロジー部 ネットワーク技術部門の太田憲行 部門長だ。太田氏は冒頭で「過去5年間の平均で、年間約1,000万人が重大事故に該当する通信障害の影響を受けている」と述べ、改善の必要性をデータで示した。
具体例として取り上げられたのが、2023年4月3日に発生した大規模通信障害である。フレッツ光などのサービスが停止し、16都道府県において最大で44.6万回線に影響が及んだ。
さらに新年度最初の営業日の朝というタイミングだったことから、インパクトは大きく、テレビや新聞、Webで広く報道され、当時の総務大臣からもコメントが出る事態となった。
障害の原因は、加入者収容装置(各家庭やオフィスからの回線を集約し、上位ネットワークやインターネットに接続するための中継装置)の内部処理にソフトウェアを要因とする不具合が内在し、一定の条件が重なった場合に機器がリブート(再起動)を繰り返すことにあった。
正常系から予備系に切り替えても同じ条件で予備系もリブートし、両系が交互に再起動を繰り返すことで通信が途絶した。二重化構成を前提とした設計であっても、同一条件が両系に作用すれば機能しないという課題が浮き彫りになった。
通信機器メーカーとの連携強化と品質強化の取り組み
こうした障害を受け、NTT東西は2023年6月に通信機器メーカー5社とMOUを締結し、連携を公式に位置づけた。
以降、NTT東西の具体的な構成や運用条件を踏まえた共同検討、メーカーの検証環境を用いた共同検証、装置仕様の共同レビュー、さらには開発エンジニアを交えた技術的な議論など、多岐にわたる取り組みを進めている。
太田氏は「品質向上への連携は、どこかで終わるものではない。継続し発展させていくべきもの」と強調。短期的な是正策にとどまらず、長期的なフレームワークとして事業者とメーカーが協働して進めていく姿勢を示した。今回のシンポジウムもその一環であり、各社が成果と課題を共有し合う場として位置づけられた。
NTT東西による品質向上に向けた取り組み
NTT東西はメーカーが検証した製品であっても、そのまま商用投入するのではなく、自社の環境に合わせた導入前検証を行っている。
複数装置やシステムを組み合わせた際に期待通り動作するか、新規開通や増設・減設といった環境変更、また異常が発生した場合に検知・対処できるかを事前に確認することで、商用ネットワークでの不具合発生を防ぐ狙いがある。
加えて、検証のカバレッジを広げる取り組みも進めている。正常系の検証だけでなく異常パケットや標準外プロトコル、最新トラフィックパターンを含めた試験を追加することで、より多様な事象への対応力を高める。
このように試験対象を広げることで、障害発生を未然に防ぐことを目的としている。一方で、試験パターンを増やせば工数や期間は膨らむ。そのため自動化の仕組みを導入し、効率を維持しながら幅を広げている。
検証カバレッジを広げる取り組み
障害をゼロにすることは現実的には難しい。そのため「不具合ゼロ」を前提とせず、障害が起きても影響を局所化する仕組みも取り入れている。
ネットワーク構成をシンプルにし、冗長構成も密結合から粗結合に見直すことで、連鎖的な障害を防ぎ、影響範囲を最小限に抑える設計を進めている。
今回のシンポジウムでは、通信ネットワークを巡る課題と各社の取り組みが共有され、安定したサービス提供に向けた議論が行われた。
障害は避けられない現実である一方、事業者とメーカーが連携し、影響を抑えながら品質向上を継続していく姿勢が示され、今後の取り組みに向けた方向性が改めて確認された





