【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「トランプ・スタイル:緻密な思索に弱さ」

トランプ大統領個人の性癖・スタイルについては既に多くの情報がある。

①たまたま2回彼と会話したこと②米国で見聞した彼の諸印象、等を踏まえ、私自身としては特に気になる彼の特性が2点ある。本コラム2回に亘ってご紹介したい。

 1987年、ニューヨークへ赴任すると、彼は昇竜の勢いの不動産・新人スターだった。

 同年11月にはトニー・シュウォーツとの共著で自伝を発刊。ニューヨークタイムズのベストセラーリストで13週1位を獲得した。立志伝らしく、夢とか挑戦とか前向き語彙がテンコ盛りだったが、読後、小さな箇所だったが個人的に最も気になったのは「鞄を持たない主義」だった。

 私は過去に何人か、鞄を持たない主義の人々に遭遇した。私の独断と偏見だが、こういう人に共通の特徴がある。

 寸暇を惜しむ勉強家ではない、情報をもっぱら耳から得る、文字を緻密に読み、自身で文章を書き、深く考える思索型ではない、従って自身の意思決定や戦略が大雑把で、アバウトになる傾向が強い、等だ。

 読書家で、自身で原稿を書いた戦略的ニクソン型とは実はかなり異なる型の人ではないか、との印象を持った。

 1回目の彼との面会は89年、五番街に屹立するトランプタワーの応接間だった。彼に関心があったので、不動産融資責任者だった寺中義郎先輩(当時、興銀信託副社長)の紹介で表敬訪問したのだ。

 質問をした。

『トランプさん、不動産投資を猛スピードで推進中だが、業界はバブル状況だ、という人もいる。どうお考えか?』。

 彼は答える。

 『長門さん、不動産には2級、3級の物もあれば、私が買ったプラザホテルのような超一級資産もある。超一級品だけならば嵐も全く無縁だ』。

 こう強気に言い切ったトランプだが、その後、プラザホテルやアトランティックシティのカジノホテル等、彼は5、6回民事再生法による倒産に追い込まれている。夢も大きいし、動きも速いが、彼のビジネス戦略と管理手法がアバウトで大雑把だったことを露呈した形だ。

 

 耳からの情報で組み立てるアバウトなトランプの構想。この弱点は克服されたのだろうか。彼に適切な諫言を出来る人はいるのだろうか。天下に鳴り響いたトランプの関税政策。

 この政策は縦・横、十分に吟味検証されたのか。現実的に国際政治上も十分受容可能な政策なのか。政策実施後に発生するであろう諸結果事象にもキチンと対応策も準備済みなのか。鞄を持たない主義の人のアバウトな分析と行動を懸念している。

 

 2つ目の会話&問題点については、また次回に。