昨今は、マーケティングチャネルが多様化したことにより、ビジネスパーソン一人一人がオールラウンダーとして活躍することが求められようになりました。人材不足も相まって、いかに業務の効率を上げるかという視点も盛んに議論されています。

こうした“効率のよい働き方”というのは、テクノロジーの進歩と切っても切り離せない関係にあります。例えば、まだパソコンが無かった時代の仕事のスキルと、パソコンが普及した1990年代後半以降の業務スキルは、多くの業界で一変しました。もはやオフィスソフトのないデスクワークは現代では考えられませんよね。また、スマートフォンがなかった時代の働き方から見ると、誰もが当たり前にスマートフォンを持つようになった2010年以降の働き方も着実に変化しました。

そして、「生成AI」を使うことが当たり前になった昨今、ビジネスパーソンに求められるスキルは、改めて大きく変化を遂げつつあります。きっと5年後・10年後には、生成AIを使いこなせる人材と、あまり使ってこなかった方に、差がついていることでしょう。

特に注目すべきは、生成AI搭載のツールの活用は、業務が効率化できるだけでなく、自身の専門ではなかった領域の業務にも携わるうえで大きな力になるという点です。例えば、クリエイティブなスキルが求められる「デザイン」における生成AIの活用が挙げられます。

今回はデザインに自信がない方でも簡単にデザインができる「Adobe Express」を使って、クリエイティブ制作に関連する業務プロセスを内製化しつつ、効率の改善も果たした企業様の事例をもとに、ビジネスを加速させるヒントをお届けします。

なお、本ツールは、無料のアドビアカウントさえあれば、ブラウザ上やモバイルアプリなどから利用できますので、ぜひ個人やチーム単位で手を動かしながら試してみてください。

生成AIでデザインスキルを底上げして、業務の効率化を図ろう

そもそも、生成AIを使うメリットの一つに、「自分の専門ではない苦手ジャンルのスキルを底上げできる」ことがあります。

例えば、「デザイン」は多くのビジネスシーンにおいてパワーを発揮しますが、もしビジネスパーソンの方が、専門外のデザインの基礎知識やクリエイティブツールのノウハウをイチから習得しようとしたらば、かなりの時間と労力を必要とします。しかし、生成AIの力を借りて“ちょっとした操作手順”を覚えるだけで、ある程度のクオリティのアウトプットを出せるようになるわけです。

  • 「Adobe Express」は基本無料で使えます

Adobe Expressは、単なる画像を生成するのではなく、「デザインテンプレート」などの形でアウトプットできる点を特長としています。単純な画像を生成するよりも、ビジネスシーンで求められるニーズをカバーしやすいと言えるでしょう。

もちろん、企画の趣旨によっては、こうした生成AIを利用したアウトプットを、そのままクリエイティブとして使えるとは限りません。しかし、クリエイティブを制作する準備として、企画のイメージを具体化して提案する過程では役立ちます。

ポスターのラフ案作成に挑戦

そこで、PCのブラウザから「Adobe Express」を使ってポスターのラフ案を整えてみます。Webサービスにアクセスしてアドビアカウントにてログインし、「AIで生成」を選択しました。

次画面で表示される候補から、今回は「テンプレートを生成」を選択しました。

ここでは「生成AIの使い方についてのワークショップを開催するチラシ」と日本語で入力して「生成」をクリックします。

生成されたテンプレートを選択します。

細部の要素を微調整することで、チラシのラフ案がすぐに整いました。配置した要素はもともとAdobe Expressに用意されている素材を駆使しており、メインの写真は画像生成をしなおすことで、イラスト調に変えています。

クリエイティブの制作にかかる時間を半減

Adobe Expressを試験的に取り入れた企業様の事例では、意思決定者に対して、具体的なイメージを確認したうえで、広告代理店やクリエーターに具体的な発注を行うことで、無駄があった業務プロセスが劇的に改善されました。

具体的には、従来はクリエイティブの制作に10日間かかっていたところが、Adobe Expressの導入後には5日間に短縮されました。要するに、生成したアウトプットを設計図として使ったことで、コミュニケーションの齟齬が起こりづらくなり、差し戻しの回数が減ったのです。制作チームの負担を下げつつ、コストダウンにもつながっており、「たかがコミュニケーションの工夫」と侮ることはできません。

なお、この企業様が90日間の試用期間を経て、ツールを試用したチームにアンケートをとったところ、61%のメンバーが継続利用を希望し、92%のメンバーが効率や品質の向上を実感したことが分かっています。

本業のデザイナー視点では、内製のガイドライン統一なども容易に

ここまでは非デザイナーの方がAdobe Expressによって効率化を図れるという文脈を紹介してきました。もし、インハウスのデザイナーを抱える組織ならば、一歩進んだ応用的な使い方にもチャレンジできるでしょう。ここでは一例を紹介しておきます。

実は、先の事例に挙げた企業様では、Creative Cloudライブラリに保存しておいたアセットを、Adobe Expressを介して組織内で共有しておき、ブランドの一貫性を保った状態で、非デザイナー部門でクリエイティブを内製できる体制を構築されていました。

例えば、SNSへの投稿やメールヘッダーなどを整える作業は、デザイナーの手を離れ、非デザイナーのチームに任せることができます。そして、デザイナーの手から離れた状態でも、デザインチームが用意したブランドロゴやアセットをあしらい、使って良いフォントやカラーなど、デザインのガイドラインを維持しながらの制作を促しやすいことがポイントです。

Adobe Expressの「プレミアムメンバー」の画面の「Features」タブから「ブランドを作成」を選ぶと、ブランドについて、ロゴや素材、カラー、フォントなど、使って良い要素を指定することができます。

また、ツールの基本的な使い方さえ理解いただければ、非デザイナーでもオブジェクトの切り抜きや、画像のリサイズ、テキストの差し替えなどは内製で簡単に行えます。簡単な講習を経ることで、細かい修正作業なども、デザイナーの手から離れます。

こうした工夫により、デザイナーは多くのクリエイティブに関して、最終段階のチェックだけを行えば良くなり、重要度の低い単純作業から解放されます。結果として、本業のデザイナーは、より重要度の高い業務にフォーカスできるようになるでしょう。

「Adobe Express」は無料で使えるツールゆえに、すでにAdobe Creative Cloudを使いこなしている方からすると見逃している部分があるかもしれません。しかし、チームの運営を見直す立場にある方や、組織のなかでデザイン業務を担っている方にこそ、そのポテンシャルを認識しておいてもらいたいツールでもあるのです。

著者プロフィール

岩本 崇

アドビ株式会社 / Creative Cloud セグメントマーケティング部 マーケティングマネージャー
2004年にアドビに入社。Illustrator、Photoshop、InDesignなどのデザインツールを担当。一貫して広くデザイン、印刷市場へ最新製品を訴求。担当製品も多く、Adobe FontsやAdobe Fresco、Creative Cloudで新たに追加されたサービスやツール、モバイルアプリにも注力をしている。