三菱電機、NTTコミュニケーションズ、SK Inc. C&Cは5月19日、サプライチェーンのカーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)の可視化に向けた実証実験を6月1日より開始することを発表した。
この実証実験では企業間で安心・安全・円滑に情報を交換できるデータスペース技術を活用して、サプライチェーン全体で発生する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出量を把握するシステムの確立を目指す。
実証実施の背景
製造業ではこれまで、生産性向上や品質改善を進めると同時に、多様化するニーズにも対応するため多品種生産を行ってきた。近年では各国や企業がSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みを進め、社会全体で地球環境の保全に向けた取り組みが加速する中、製造業各社は自社のGHG排出量を把握しエネルギー使用量の削減に取り組むことで脱炭素化を推進している。
一方、昨今は個別企業だけではなくサプライチェーン全体での脱炭素化がさらに求められており、サプライヤー各社が品種や納入先ごとに算定したCFPの情報をデータ主権を確保した上で取引先企業と共有し、サプライチェーン全体のCFPの可視化を進める必要性が高まっている。
サプライチェーン全体のCFP可視化を実現するため、異なる企業間でセキュリティを確保しつつ効率的に情報を交換できるよう、データを第三者に預けることなく自社の管理下に置いたまま取引先に開示できる「データスペース」と呼ばれる分散型データ連携基盤が構築されている。特に、欧州自動車産業を中心に「Catena-X」データエコシステムを活用した企業間データ共有への対応が始まっている。
今回の実証では、3社が共同で「Catena-X」データエコシステムを活用し、CFPを自動算出および可視化するシステムの確立に向けた取り組みを進める。
実証実験の概要
サプライチェーン全体にわたるCFPを可視化するためには、世界中にある製造現場からCFP算出に必要なデータを収集するべく、国際標準に準拠した企業間データ連携が不可欠となる。
そこで今回の実証実験では、シーケンサー(産業用機械やプロセスの自動制御を行うための専用コントローラ)を活用して製造現場の装置から収集された各種データを基に、CFPの算出および可視化を行う。
さらに、自動車産業の国際的な企業間データ共有に使われている「Catena-X」データエコシステムの国際標準(以下、Catena-X標準)に沿ったシステム間データ通信機能を備えた実験環境を構築し、運用も行う。これは、サプライチェーン全体にわたるCFPの可視化を効率的に実現する仕組みのプロトタイプとなる。
実証期間は2025年6月1日から10月下旬までの予定。製造現場の装置からCFP算出に必要となる電力 / エア / 生産データなどの情報収集による装置単位のCFP自動算出、および可視化までのシステム化の確立を目指す。さらには、CFP算出結果をCatena-X標準と安全・円滑に連携できる方式の確立も目指す。
対象製造工程は、電気自動車の主要部材となるリチウムイオン電池の製造工程。完成車メーカーと、完成車メーカーにリチウムイオン電池を供給するサプライヤーを想定し、実証実験イメージを模擬したシステムを構築する。
リチウムイオン電池サプライヤー側は、製造工程のうちの「積層工程」を担う装置からシーケンサーを活用して電力 / エア / 生産実績などのデータを取得し、自社側のCFP算出 / モニタソフトへ送信しCFPを計算。また、CFP算出結果をCatena-X標準データ形式に変換し、自社側のストレージへ自動格納。
完成車メーカー側では、リチウムイオン電池サプライヤーへCFP算出結果のリクエストを実行する。データ受け取り後は自社側のCFP算出 / モニターソフトへ取り込みCFPを確認し、完成車としてのCFPを算出する。
なお、両者はCatena-X標準の通信手順およびデータ形式に対応するシステム間データ通信機能を使ってデータをやり取りする。これにより、Catena-X標準の通信動作制御が実現され、データ主権を保ちながらデータ連携が可能になる。