日々の保守点検にAIやドローンを活用して、業務を効率化する動きが企業で広がっている。NTT東日本もその一社だ。同社は、10年ほど前から、自動車に搭載したカメラによって撮影した画像を分析することで、電柱などの点検を行っているほか、4年ほど前からドローンを使って鉄塔や橋梁の点検を行い、保守作業の効率化を図っている。今回、その様子を取材したので、ふんだんに写真を交えてお届けしよう。

車で走行しながら電柱などを点検して効率化

NTT東日本は2018年4月、MMS(Mobile Mapping System)と呼ばれるレーザースキャナやカメラを搭載したスマートメンテナンスカーと呼ばれる車両により、所有する電柱などの点検を実施していることを発表した。それ以前からトライアルも実施しており、すでに10年ほどの実績があるという。

  • NTT東日本が点検で利用しているスマートメンテナンスカー

MMSは、自動車で走行しながら、道路周辺の設備の情報を高精度で効率的に取得する車両搭載型計測システム。カメラで静止画撮影を行う「画像MMS」と、レーザースキャナで3次元情報を取得する「レーザーMMS」の2種類がある。これらは、別々の車両となっており、用途によって使い分けているという。

「画像MMS」は車両に4Kの高解像度カメラを8台搭載し、走行しながら道路脇にある電柱などを撮影する。その画像を解析することひびや破損、サビなどを発見する。

  • MMSの操作画面

一方のレーザーMMSは、走行しながらレーザースキャナで道路周辺の3次元位置情報を高精度で取得する。取得した点群データから電柱などをモデリングし、画像では確認できない電柱の傾斜やたわみなどを計測する。

  • レーサーMMSの車両と3D化されたデータ 出典:NTT東日本

これらのデータは、NTT東日本の専門部署に集められ解析し、異常が見つかった場合は各支店に連絡し、現地作業員が再び現地に向かい詳細に点検する。

画像チェックは当初、担当者が目視で行っていたが、最近はAIを活用して怪しい箇所をピックアップ。最終的に人間が目視で確認することによって、チェック作業を効率化している。検査すべき電柱はNTT東日本全体で565万本ほどあるという。

4Kカメラを8台搭載するスマートメンテナンスカー

同社は画像MMSとレーザーMMSを合わせて、現在22台のスマートメンテナンスカーを保有しており、北海道から関東までのNTT東日本の管轄内で、ローテーションしながら使っている。

画像MMSの車両には、4Kカメラが8台搭載され、時速40km以下で走行しながら、2mごとに画像を撮影していく。カメラは車両の左側の設備を撮影するようにセッティングされている。

搭載されたカメラにはそれぞれ役割があり、正面の2台はステレオカメラというもので、幅広く広角で撮影できるカメラになっている。このカメラは、電柱の傾きの確認や、電柱・ケーブル類の設置状況確認に使用している。

左前方には、上向き、下向きのカメラがあり、それぞれ電柱の上部、下部のサビ、不良をチェック。車両左側中央の魚眼レンズは、広域で撮影し、電柱番号札および電柱全体を確認するカメラになっている。

左後方のカメラは、前方同様に上向き、下向きのカメラがあり、前方のカメラに追加する形で、電柱の上部、下部のサビ、不良をチェックする。そして、車両右側のカメラは広角で撮影するもので、電柱と電柱の間を支える吊り線というワイヤー線のサビや劣化などを見分けるカメラとなる。

MMSでの点検は定められた周期で定期的に実施しており、膨大な設備リストから毎年対象設備を抽出し点検ルートを作成している。およそ、1日あたり800設備を確認することを想定しており、画像データは1日あたりで数百GB~数TB程度になるという。

スマートメンテナンスカーを導入する前は、現場まで目利きができる作業員が行き、双眼鏡などを使いながら目視でチェックしていたため、MMSの活用は保守点検の大幅なコスト低減と有スキル保守作業員の有効活用につながっているとのことだ。

車内には、各設備に電源を供給するインバータや画像を保存するためのNASがあるスマートメンテナンスカーには、運転者とオペレーターの2人が乗り込む。オペレーターは、順光で電柱がうまく撮影できる設備をマップ上に反映する「スマート走行ツール」を用いて最適な走行ルートを選定し運転者に指示する。

  • 車内のディスプレイに映し出されたカメラ映像

  • スマートメンテナンスカーに搭載されたカメラで撮影された映像を解析する様子

  • 点検する電柱は地図上にマーキングされている

外部での活用が進むMMSの技術

NTT東日本は、MMSの技術を外部で利用する取り組みも行っており、福島県の「浜通り復興リビングラボ」の実証事業の一環として、福島県富岡町における3D都市モデルおよびデータ連携基盤(デジタルプラットフォーム)構築のため、MMSのデータで町並みを点群データ・画像データ化し、3D都市モデルの構築を行った。

  • 点群データを基にした3D都市モデルイメージ 出典:NTT東日本

また、植木組では、NTT東日本が自社設備の点検業務で取得したデータに含まれている舗装面データの有用性に着目し、路面切削工の起工測量データとして利活用することで、工事受注後に起工測量を実施するというプロセスの削減に取り組んだ。

その結果、施工準備にかかる工数を大幅に削減することに成功し、生産性の向上につながったという。なお、この取り組みは国土交通省の「令和5年度インフラDX大賞 優秀賞」を受賞している。

  • 植木組とNTT東日本のMMSデータの活用 出典:国土交通省

  • 今回、スマートメンテナンスカーの取材に対応いただいたNTT東日本 神奈川ブロック統括本部 サービス運営部門の方々

ドローンで鉄塔や橋梁を撮影し、点検工数やコストを大幅に削減

NTT東日本では、災害や倒木などよりケーブルが切断されたようなケースで現地確認用としてドローンを利用していたが、2021年ごろから通常の点検業務にもドローンを活用しているという。

同社がドローンを使って点検するのは、主に鉄塔や橋梁の下のケーブルだ。鉄塔の塗装が剥げていないか、ひびやサビがないか、橋梁の下の通信ケーブルを通している管路の亀裂傷などをチェックする。

  • 鉄塔をドローンで撮影する様子

また、最近は社外利用もあり、災害時の建物の半壊や全壊の判定を自治体の要請のもとにドローンで確認することや、企業のPR動画の撮影などにも利用されているという。

  • ドローンで撮影された全景 提供:NTT東日本

  • ドローンで撮影された鉄塔の写真。塗装がはげているのがわかる

  • ドローンで撮影された鉄塔を支えるブロックの写真。こちらも経年劣化の様子がわかる

NTT東日本は複数のドローンを利用しているが、鉄塔や橋梁の点検では、「Skydio2+」という小型のドローンを利用している。このドローンには、障害物回避技術が搭載され、万が一パイロットが操作ミスしても、構造物に機体がぶつかりそうになれば事前にストップし、操縦不能になったとしても離陸したポイントに自分で戻ってくる機能を備えている。

  • 点検で利用しているドローン「Skydio2+」

ドローンが導入される前は、鉄塔のはしごで上まで登って点検していた。橋梁の場合は、船を手配して下からチェックすることもあったという。こういった点検作業をドローンで行うことで、社員の安全性を担保した上での点検やコスト削減を実現できている。

例えば、これまで3人で行っていた点検が2人で行えたり、船の手配が不要になったりしたことで、1件当たり30万円ほどのコスト削減につながることもあるという。

  • ドローンを操作するタブレット

同社は、ドローンにより、年間約100箇所の橋梁と300箇所ほどの鉄塔を点検している。課題は、撮った映像を人の目でチェックする部分だ。現在、AIを活用すべくデータを学習させている最中で、今後、AIが活用できるようになれば、チェックの70%~80%の作業工数の削減が期待できるという。

  • 今回、ドローン点の取材に対応いただいたNTT東日本 神奈川ブロック統括本部サービス運営部門の方々