お茶に含まれるカテキンと、ビタミンE類似体「トロロックス」を組み合わせた非常に強力な抗酸化物質の合成に、昭和大学などの研究グループが成功した。酸化ストレスはがんや老化、脳疾患などの原因といわれており、実用化すれば酸化ダメージを抑制する安全な薬剤となる可能性がある。

酸化とは、活性酸素などのフリーラジカルが増えてDNAにダメージを与えること。酸化が原因の一つであるがんや動脈硬化、炎症を抗酸化作用の働きで防ぐことができるとされる。昭和大学薬学部の福原潔教授(医薬品化学・毒性化学)らの研究グループは、製薬会社のように複数の工程を経なくても、簡便で安価に作れる抗酸化物質の開発に取り組んできた。

カテキンが天然の抗酸化物質であることと、ビタミンEも抗酸化作用があり、既にサプリメントなどでも使われて安全性が高いことが分かっている。この2つを組み合わせることで相互作用により抗酸化能力を高めた新たな物質が得られないかと実験を始めた。

カテキンの立体構造は、固定された部分と自由に動く部分から成り立つ。まず、自由に動く部分をイソプロピル基で固定した「平面型カテキン」を合成した。平面型カテキンは通常のカテキンよりも抗酸化活性が強力であることが確認されたが、ビタミンEのもつ抗酸化活性には及ばないことが分かった。そこで、相互作用によりさらなる抗酸化活性の向上につながる設計・合成の仕組みを目指すことにした。

一般的に抗酸化物質は、細胞の分子から活性酸素を受け取って電子を失ったあと、再び電子を戻して「再生」する循環を生まなければうまく働かないとされる。ビタミンEは単独でも強い抗酸化活性を示すが、ビタミンCがないと再生が難しいという欠点がある。そこで、ビタミンEの類似構造をもつ水溶性物質である「トロロックス」に平面型カテキンを結合させた化合物を設計・合成し、その抗酸化活性を評価した。

その結果、このハイブリッド化合物は、ビタミンCがなくても高い再生能力を示した。ビタミンE単独と組み合わせた場合よりもフリーラジカルの除去作用などの抗酸化活性能力が優れていることが明らかとなり、強力な抗酸化物質として有望だと判断した。

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    今回の実験の模式図。カテキンとビタミンE類似体からできたハイブリッド化合物は抗酸化活性も再生能力も高くなり、それぞれを単体で用いるよりも効果的であることが分かった(福原潔教授提供)

福原教授は「ヒト由来細胞での抗酸化実験で、持続性があるかどうか確かめているところだ。今後は各疾患のモデルマウスを使って効果を検証し、ヒトに応用したい。低コストなので実用化しやすいのではないか」と話している。

 研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と、文部科学省の共同利用・共同研究システム形成事業(CURE)の助成を受けて、量子科学技術研究開発機構(QST)と共同で行った。成果はスイスの学術誌「アンチオキシダンツ」に1月29日に掲載され、昭和大学が2月12日に発表した。

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