福島県郡山市に本社を置く北斗型枠製作所。コンクリート製品を作るための鉄鋼の枠「型枠」を主に製造している会社だ。従業員数は72人(2024年11月時点)で、郡山市と岡山県長船市の2カ所に工場を構えている。

そんな同社は、数年前からサイボウズが提供するノーコード開発ツール「kintone(キントーン)」を活用して業務効率化を進めている。全社で年間1440時間かかっていた業務時間をkintoneの活用により290時間まで削減し、年間の利益率を25%向上させた実績がある。

「自分だけの知識と経験、アイデアには限界がある」ーー。そう語るのは同社でkintone活用を主導した営業部兼システム部の渡邉克史氏。同氏によると、業務効率化成功の秘訣は、さまざまな立場の社員同士が率直に意見を出し合う“ワイガヤ”と“匠の巻き込み”だという。社員全員の意見を尊重する場を作り続けた結果、チームで決めたプロセスを実行する文化の醸成に成功した。

  • 北斗型枠製作所 営業部兼システム部 渡邉克史氏

    北斗型枠製作所 営業部兼システム部 渡邉克史氏

渡邉氏はサイボウズが2024年11月に開催したイベント「kintone AWARD」に登壇し、kintone導入前に感じていた課題や、kintone活用のポイントなどを紹介した。

非効率な手入力やヒアリング「各現場からため息が……」

北斗型枠製作所の部署は主に、見積もりや発注を行う営業部、設計や加工、組み立てなどを行う製造部、納品書や請求書を発行する総務・経理部の3つに分けられる。kintone導入前は、営業と製造の情報を連携するシステムを導入していたが、総務・経理は全く異なるシステムを使用していたため、結局最後に手間が残るという状態だった。

渡邉氏は「営業部は主に表計算ソフトで資料を作成していたため資料が見つかるまで1回あたり57.3秒、製造部は進捗状況が見えないため現場進捗ヒアリングに1回あたり620秒。そして総務・経理部はシステムが違うため同じ名前を何回も入力する必要があり、入力に1回あたり194秒費やしていました。各現場からため息が聞こえてくる状況でした」と振り返った。

  • kintone導入前に各部門が抱えていた課題

    kintone導入前に各部門が抱えていた課題

「システムを抜本的に変更しよう」という遠藤正成社長からのミッションを受け取った渡邉氏は、システム刷新のプロジェクトを進めることに。遠藤社長からの指示は主に4つあり、「一気通貫できるシステム」、「二重入力禁止」、「迅速な数字の報告」「資料作りに時間をかけない」といった条件を満たさなければならなかった。

社員の平均年齢が若く、全社員にiPadを支給している同社の特徴を考慮して、数多くあるシステムの中からkintoneを選んで導入することを決めた。「iPadは以前から活用しており、全社員が操作には慣れていた」(渡邉氏)という。

  • システム刷新における4つの条件

    システム刷新における4つの条件

「ワイガヤ」と「匠の巻き込み」で業務プロセスを見直し

kintoneでアプリを開発し業務効率化を進めていく上で重要なのは、業務プロセスの見直しだ。同社では、先述した「ワイガヤ」を実践し、業務プロセスの見直しを図った。

ワイガヤとは「ワイワイガヤガヤ」の略で、社員を職種・階級・年齢・性別などの分類に関係なく招集し、気軽に意見を交換する取り組みのこと。合意形成を図るための妥協・調整の場ではなく、本気で本音で徹底的に意見をぶつけ合う。時間は15~30分で、論破は禁止。

以前は問題や悩みが発生すると役職者が集まり打ち合わせをしていたが、ワイガヤ導入後は、まずは現場担当者が集まって議論を交わすようになった。

  • 「ワイガヤ」の導入で議論のプロセスが変わった

    「ワイガヤ」の導入で議論のプロセスが変わった

「『忙しいから話し合いは無駄』の考えは捨てました。各部門の社員が意見を出し合い、これがダメなら次はこれをチャレンジしてみようとする考えを広げていきました。いい戦術を持っていても、戦略が間違ったままだとうまくいきません」(渡邉氏)

ワイガヤの導入により「決められたプロセスをやるのではなく、自分たちで決めたプロセスを実行する文化の醸成ができた」という。

また渡邉氏は、kintoneでアプリ構築を進めていく上で、各部署のキーマン「匠」の巻き込みも重視した。渡邉氏が定義する匠とは「腕や技術に優れ、職人気質が強い社員たち」のこと。さらに言えば、「自分が関わらないと気が済まないほどこだわりが強い一方で、社内ではキーパーソンとして強い影響力を持っている。彼らを味方に引き込めば、非常に頼りになる職人気質の“めんどくさい”おじさんたち」(渡邉氏)だという。

  • 渡邉氏が定義する「匠」。匠を巻き込むことが重要だったという

    渡邉氏が定義する「匠」。匠を巻き込むことが重要だったという

なぜ、各部署のキーマンである匠を巻き込むことが重要だったのか。渡邉氏は「匠は長い経験と幅広い知識から、頭の中では常に改良と改善をしています。そんな匠と手を組んで、業務の自分事化と再定義が必要だったのです」と説明した。

年間作業が1440時間→290時間に 「社内のルール決めに注力を」

こうした取り組みを通じて、同社ではkintoneでアプリ構築を進めていった。

製造部が進捗状況を可視化できるようにしたのが、タスク管理プラグインの「KANBAN」(アーセス提供)を活用したアプリだ。同アプリはかんばん方式でタスクを見える化し、ドラッグ&ドロップのシンプルな操作で整理できるのが特徴だ。

  • 「製造管理」アプリの構築で進捗状況を可視化

    「製造管理」アプリの構築で進捗状況を可視化

同アプリの運用においては、さまざまな工夫が凝らされている。「自分の部署のタスクが終了したらステータスを移す運用が一般的ですが、当社では次の部署が着手できるようになればステータスを移す運用に。また、大切な進捗率ゲージは設計進捗率を優先して表示し、組み立て工程の進捗率もタイトル部に表示させる仕様にしました」と、渡邉氏が現場から拾い上げた声をアプリに反映させた。

「取り扱う情報の意味付けと運用方法を徹底して協議しました」と渡邉氏は強調した。同アプリにより、営業と製造の連携は成功した。

  • 独自の運用ルールで効率化

    独自の運用ルールで効率化

また、総務・経理部とのシステム連携もkintoneアプリで実現。製造から経理への業務は、製造管理→納品登録→請求書発行→売掛金処理という流れだが、まずは納品登録の業務効率化に取り掛かった。

以前の納品登録作業では、月に300行をすべて一字一句販売管理ソフトに手入力し、納品が集中する日は必ず残業する必要があった。しかし、今では「製造管理」というアプリを通じて、製造工程で運用してきたデータをもとにワンクリックで納品書を作成できるようになった。「このアプリが完成した時、総務・経理担当者は全員泣いていました」(渡邉氏)

  • kintone導入後の納品登録

    kintone導入後の納品登録

請求書の発行に関しても、kintoneアプリ間のデータをノンプログラミングで集計できるプラグイン「krewData」(メシウス提供)を活用することで、ワンクリックで実現。また、kintoneのデータを自由なフォーマットで帳票出力できるプラグイン「レポトン」(ソウルウェア提供)の活用で請求書のフォーマットも変更。「売掛金情報や前月入金情報などの入力と押印の手間が省けるようになった」(渡邉氏)という。

  • 請求書の発行もワンクリックで実行可能に。無駄な作業も削減

    請求書の発行もワンクリックで実行可能に。無駄な作業も削減

最後の売掛金処理に関しても、請求情報をkintoneから「MoneyForward クラウド請求書」、「V-ONEクラウド」へとバトンを渡し、最終的には「MoneyForward クラウド会計」に会計データとして収めることに成功した。

  • kintone導入後のシステム概要

    kintone導入後のシステム概要

各部門の成果は著しい。営業部では年間228時間かかっていた報告資料の作成が約92%削減の年間18時間になり、製造部でのヒアリングや確認にかけていた業務時間も年間816時間が約78%削減の176時間まで削減された。

総務経理の入力時間も、年間396時間が約75%減の96時間になった。全社で1440時間かかっていた業務時間が、290.4時間まで短縮された。業務短縮時間により年間の利益率は25%向上したという。

  • 全社では1440時間かかっていた業務時間が、290.4時間まで短縮された

    全社では1440時間かかっていた業務時間が、290.4時間まで短縮された

渡邉氏は「kintoneプロジェクトでさまざまな気づきがありました。孤軍奮闘ではなく人を巻き込みながらアプリを作ることが重要で、衆知を集結すれば人もアプリもつながり、業務改善は加速します。そして、プラグインを駆使すれば一気通貫したソフトを作れるということです」

渡邉氏は最後に「私自身はアプリの構築が得意なわけではありません。どちらか言えば、社外にほぼお願いしている状態です。その代わり、私は社内の定義やルール決めに注力しています。kintoneは『作る』のが目的ではなく、あくまで『運用する』のが目的だと思っています」と語り、講演を締めくくった。