Splunk Services Japanは11月12日、「2024年のオブザーバビリティの現状」に関するレポートを発表し、都内で説明会を開催した。レポートはグローバルで金融サービスや製造、通信、公共機関などのIT運用部門またはエンジニアリング部門に所属する幹部、意思決定者1850人を対象に実施。

86%の組織が今後オブザーバビリティへの投資を増額

冒頭、Splunk Services Japan オブザーバビリティ・ストラテジストの松本浩彰氏は「管理している対象のシステムをどれほど深く理解し、説明できるかという能力の高さを示すものがオブザーバビリティ(可観測性)。オブザーバビリティを高めるためには、集めなければならない莫大なデータがある。常に動くシステム全体からデータを取り続け、異常を判断するということがオブザーバビリティのアプローチだ」と説明した。

  • Splunk Services Japan オブザーバビリティ・ストラテジストの松本浩彰氏

    Splunk Services Japan オブザーバビリティ・ストラテジストの松本浩彰氏

調査はオブザーバビリティの実践レベルを「包括的な可視化」「インサイトの活用」「プロアクティブな対応」「ワークフローの統合」の4段階のフレームワークで分類。このフレームワークにもとづき、回答した組織のオブザーバビリティ成熟度を「ビギナー」「成熟度が中程度」「成熟度が高い」「リーダー」に分類した。内訳は、ビギナーが45%、成熟度が中程度が27%、成熟度が高い組織が17%、リーダー組織が11%となった。

また「アプリケーションの障害発生から数分または数秒以内に問題を特定できる」と回答したリーダー組織は68%で、そのスピードはビギナー組織の2.8倍だという。リーダー組織が推定するアラートの真陽性率は平均で80%以上にのぼり、ビギナー組織の54%を大きく上回り、アラートの精度が高ければ、確信を持って対応を進めることができ、誤検知の対応に時間を無駄にすることもなくなるとのこと。

常にシームレスでセキュリティの高いデジタルエクスペリエンスが期待されるなか、問題の検出精度と対応スピードは大きな差を生み、別の調査ではダウンタイムが発生すると顧客ロイヤルティが低下し、一般的な企業イメージが低下することが判明している。

リーダー組織のスピード優位性は、ソフトウェア開発の速度にも及び、リーダー組織の76%がアプリケーションコードの大半をオンデマンドでプッシュしており、ビギナー組織の30%を上回った。

さらに、開発者がイノベーションに費やす時間の割合は、リーダー組織がビギナー組織より38%上回り、リーダー組織の開発者はトラブルシューティングやインシデントのトリアージなど、手間のかかる作業に費やす時間が少なくなっている。

こうしたメリットから、リーダー組織は投資に対して2.6倍の価値を実現していることに加え、86%の組織が今後1年間でオブザーバビリティへの投資の増額を予定しているという。

  • オブザーバビリティの実践は競争力を高めるという

    オブザーバビリティの実践は競争力を高めるという

プラットフォームエンジニアリングは競争上の差別化要因

オブザーバビリティを高めるためにOSSのOpenTelemetryを導入する組織が増加しており、58%の組織が使用しているオブザーバビリティソリューションでOpenTelemetryが使われていると回答。

OpenTelemetryを導入しているリーダー組織は78%にのぼり、57%がオブザーバビリティのコストを削減できたと回答し、全体の72%の組織が広範なテクノロジーエコシステムを活用できる点、65%がデータに対する主導権と所有権を向上させることができる点をそれぞれ挙げている。一方で、OpenTelemetryの課題として55%のリーダー組織が習得の難しさを挙げており、Open Telemetryに精通した人材不足が懸念されている。

  • OpenTelemetryの導入が進んでいるが、人材育成が急務となっている

    OpenTelemetryの導入が進んでいるが、人材育成が急務となっている

現在、オブザーバビリティツールでAIと機械学習の活用は当たり前になっており、調査では大半の組織(97%)が、オブザーバビリティの運用を強化するためにAIや機械学習を組み込んだシステムを利用し、その割合は昨年の66%から増加。

AIと機械学習を利用することで、大量のデータを分析・処理して異常を検出し、根本原因を特定できるほか、解決策を提案、タスクを自動化して必要なインサイトを素早く取得できるという。

57%の組織が「アラートの量が問題になっている」と回答している反面、リーダー組織ではアラートのノイズが少なく、85%が「AIまたは機械学習を組み込んだツールによる解決策の提案機能を使ってアラートの半数以上を解決している」と回答し、ビギナー組織の16%を上回る形となった。また、65%のリーダー組織がAIOpsを活用し、インテリジェンスと自動化を強化しながらインシデントの根本原因の特定や修復を行っている。

ソフトウェアエンジニアのツールチェーンとワークフローを標準化し、セルフサービス型のプラットフォームを構築するためのアプローチである、プラットフォームエンジニアリングは開発者の生産性を向上させており、回答した組織の73%が広範囲に取り入れている。

これによりエンジニアは、ツールの管理に費やす時間を減らして、新たな製品の市場投入に集中することを可能としている。調査では66%が「過去1年間でチームの重要なメンバーが燃え尽き症候群により離職した」と回答していることから、プラットフォームエンジニアリングの専任チームを置いている組織は成果を上げている。

その成果のトップ3は「IT運用の効率向上」が55%、「アプリケーションのパフォーマンス向上」が42%、「開発者の生産性向上」が40%という結果になっている。58%のリーダー組織では、プラットフォームエンジニアリングを競争上の差別化要因と考えているという。

  • プラットフォームエンジニアリングは競争上の差別化要因になりえるという

    プラットフォームエンジニアリングは競争上の差別化要因になりえるという

一連の調査結果からオブザーバビリティにおけるリーダー組織の特徴は、オブザーバビリティのメリットに前向きな解釈がビジネスレベルで行われており、プラットフォーム園児にリングチームが有効に機能している。加えて、テレメトリパイプラインの重要性や有効性を理解して適切に取り組んでおり、観測する対象範囲について意欲的かつ幅広く取り組んでいるようだ。

さらには、組織内でDevOpsやSRE(サイト信頼性エンジニアリング)などがすでに十分に広がり定着しており、クラウドネイティブ、AIといった先進技術の活用進んでいる点を挙げている。

日本の状況は?

他方、日本国内ではオブザーバビリティというキーワードの認知はこの数年で高まってはいるものの、エンタープライズ企業がオブザーバビリティを高めるにはさまざまなチャレンジが必要となっている。

松本氏は「旧来から存在するレガシーシステムと、そこにまつわるさまざまな組織や業務のあり方が問題になる。旧来からあるものに加え、差別化を求めてシステムをモダナイズする企業が多くなっている」と指摘する。

同氏が指摘するように多様なシステムのアーキテクチャや技術スタック、システムの使われ方などに応じて運用のあるべき姿も多様性が求められるものの、サイロ化の進行は望ましくないという。

そのため、変化に柔軟に対応できるクラウドネイティブな運用スタイルがフィットする領域、安定性を重視したレガシーシステムの運用スタイル、管理責任が限定的なSaaS(Software as a Service)/PaaS(Platform as a Service)などの運用スタイルを適切に配置し、組織間の連携に配慮しながら品質、効率性、コストのすべてにおいて合理的なシステム運用を発想していく必要があるとのことだ。

  • プラットフォームエンジニアリングは競争上の差別化要因になりえるという

    プラットフォームエンジニアリングは競争上の差別化要因になりえるという

最後に松本氏は「日本は昨年よりも改善しているが、グローバルと比較すると相対的にオブザーバビリティに関しては後進国。日本のIT運用のあり方が今後も遅れていいわけではなく、そのような中で成長するために明確な回答が必要になる。そのため、日本企業はレガシーシステムを捨てきれない状態から段階的に脱皮しなければならない。脱皮した暁にはオブザーバビリティを獲得するため、今の段階からオブザーバビリティの歩みを一歩ずつ進めながらあるべき姿に到達し、始めた当初と最後でまったく異なる仕組みや組織を持たないで済むような基盤、プラットフォームを当社で提供していく」と力を込めていた。