2008年にAmazon傘下となったAudibleは、現在10カ国でサービスを提供、180カ国、47の言語でオーディオコンテンツが楽しまれている。Audible カントリーマネージャーの逢阪志麻氏は、「Audibleの歩みはデジタルトランスフォーメーションそのもの」だと言う。
8月2日から18日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 for Leader DX FRONTLINE ビジョンから逆算する経営戦略」に同氏が登壇。デジタルはあくまで手段に過ぎず、その目的は新しい時間、新しい体験を創出することにあるというAudibleがどのようにそれを実現してきたのか、日本国内での取り組みを中心に説明した。
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本を読む体験を、聴く体験にトランスフォーム
Audibleが創業されたのは1995年。インターネットの黎明期であり、デジタルプレイヤーも存在していなかった時期だ。いつも書籍の朗読を録音したカセットテープを持って外出していたDon Katz氏が、もっと気軽に本を持ち出す方法はないかと考えたことがきっかけだった。Katz氏は、本を「読む」から「聴く」に変えることで、新しい時間を提供しようと考えたという。
「iPodもない時代に、これはイノベーティブなアイデアでした」(逢阪氏)
1997年には「Audibleメディアプレイヤー」というハードウエアを発表し、コンテンツ提供のサイトもスタートした。デジタルデバイスとコンテンツが揃ったことで、外出中でも気軽に本を「聴く」ことができるようになった。
「本を読む体験を、聴く体験にトランスフォームした第一歩でした」(逢阪氏)
その後Audibleは、顧客中心のイノベーションを繰り返してきた。2000年には、当時まだ珍しかったサブスクリプションモデルを発表。2001年には書籍以外のオーディオコンテンツにも着目し、オーディオプログラムを開始した。これはポッドキャストが生まれる前のことである。2003年にはiTunesでダウンロード可能になり、2007年にiPhoneが登場してからは、多くのユーザーがスマホで本を聴くようになった。そして2008年、AudibleはAmazon傘下となり、さらに幅広いユーザーに利用されるようになる。
日本特有の事情に対応したことで会員数が飛躍的に増加
Audibleは2015年、日本に上陸する。ただしコンテンツをそのまま持ってくるわけにはいかない。日本では日本語のコンテンツが必要になるためだ。日本語のコンテンツをできるだけ早く制作して配信するために、国内の出版社やコンテンツプロバイダーにAudibleのサービスを理解してもらい、信頼関係を築けるよう努力したと逢阪氏は当時を振り返る。
日本特有の事情は言語以外にもあった。例えば、アメリカでは紙の書籍が出版されるのに数カ月かかるのが当たり前だが、日本では数週間という短い期間で出版される。そのため、出版社や制作スタジオと協力して、オーディオコンテンツの制作期間をできるだけ短縮するよう努めた。また日本では声優の文化が根付いているため、ライトノベルの朗読には声優を起用した。これは、本を声で聴く体験をより身近に感じてもらえるようにするためだ。
こうした取り組みによって、会員数は着実に成長し続けている。特に2022年12月から2023年6月までの期間には飛躍的な成長を遂げた。これは、2022年1月にビジネスモデルを変えたことがその大きな理由だと逢阪氏は語る。従来は月額1500円で毎月1冊ずつ好きな本を購入できるコイン制だったが、月額制は変えないまま、対象の12万冊の中から好きな本をどれでも聴ける、聴き放題のシステムに変更したのだ。この変更により、会員数は昨年1月から今年5月までの期間に67パーセントも増加している。
ジャンル、量ともにコンテンツを拡充
ユーザー層の拡大に伴って、Audibleはコンテンツへの投資を強化した。幅広いニーズに応えるため、ベストセラー作品をより多く獲得しているほか、オリジナルコンテンツ、出版社やクリエイターとのコラボレーション作品にも投資を拡大している。グローバルでの取り組みも行っており、マーベルとのコラボレーションによるポッドキャスト番組「Marvel's・ウェイストランダーズ」の配信も開始した。
コンテンツを拡充するにあたり重点を置いているのが、オーディオブック、オーディオファースト、ポッドキャスト、グローバルコンテンツというオーディオエンタテイメントの4カテゴリーだ。このうち、オーディオブックではAudibleで独占配信する人気作家の作品を増やしており、今後は村上春樹氏の作品をさらに増やす予定だという。オーディオファーストは、Audibleで配信した後に書籍化する書き下ろしのコンテンツで、出版社や著者とのコラボレーション作品を増やしている。ポッドキャストでは、コンテンツにイノベーションをもたらすことを目指し、アニメやコントなど幅広いジャンルの作品を扱っていく予定である。