「宿題」という言葉を聞いてどのようなイメージを持つだろうか。
正直、筆者を含めほとんどの人があまり楽しい印象を受けないと思う。特に小・中学生の頃を振り返ると、夏休みの終了間近に慌てて終わらせていた苦い思い出を持つ人も少なくないだろう。
しかし、もし「宿題が習慣化できる文房具」が存在するとしたらどうだろうか。それを実現してくれるのが、コクヨの「しゅくだいやる気ペン」だ。
今回は、2022年11月に大型アップデートを発表した「しゅくだいやる気ペン」の大型アップデートの裏側と、同製品の担当者の描く教育の未来について迫る。
しゅくだいやる気ペンに開発当初から携わっているやる気ペングループのグループリーダーを務める中井信彦氏に話を聞いた。
大型アップデートの裏にはユーザーである子どもの一言があった?
「しゅくだいやる気ペン」とは、主に小学校低学年~中学年の生徒をターゲットにした商品で、いつもの鉛筆に装着して勉強するだけで、アプリで日々の努力を見える化し、「やる気の習慣化」をサポートするIoT文具となっている。
子どもが「書く」、保護者が「褒める」というやる気を増幅させるサイクルを習慣化させることで、子どもの「勉強する」という行動が自然に強化されていくように設計されているのだという。
同商品は、2019年7月に試験的に発売を開始し、2021年の春からフルチャネルでの販売をスタート。そして、発売から約3年が経った2022年11月、コクヨはしゅくだいやる気ペンの大型アップデートを発表した。
「2019年に発売を開始してから3年、累計で3万人ものユーザーの方に利用していただけるサービスに成長してきました。当初のコンセプトだった『書く⇔褒める』のサイクルは受け入れられたので、ここで大きく商品として進化する時だと感じていました」(中井氏)
このような想いから大型アップデートが決まったしゅくだいやる気ペンだったが、アップデートのコンセプトを「日々のしゅくだいが、冒険になる」に決定するまでに大きな困難があったという。
「アップデートの内容を考えている時、大人としてかなり視野が狭くなってしまっていたと今では反省しています。保護者の方のインサイト分析から『外発的から内発的な動機付けへ』という大きなテーマは決まっていたのですが、そこから今一歩、納得できるコンセプトや内容を考え出せずにいました」(中井氏)
そんな時、中井氏の悩みを打ち砕いたのは、実際にしゅくだいやる気ペンを活用している子どもからの一言だったという。
「友達にしゅくだいやる気ペンを紹介するとしたら『自分のためになるゲームと言う!』とヘビーユーザーのお子さんに言われ、自分の中で何かが吹っ切れるのを感じました。それまでは、『学習用具だからその枠を出ないようにしなくては』『保護者の人にも安心してもらえるようにゲーム性は排除した方が良いのでは』と思考が大人目線になってしまっており、本当の意味で子どもに寄り添えていなかったのだと感じさせられました。そこから『宿題が冒険になる』というコンセプトを設定し、子どもを主人公とした冒険とデジタル図鑑収集という方向性がすんなり決まりました」(中井氏)
最終的なリニューアル内容もかなり「ゲーム性」が意識された内容になっている。動物・恐竜・海・宇宙など各ステージのテーマにちなんだデジタル図鑑カードを収集し、探検記として繰り返し眺めたり、お気に入りを並べ替えたりしながら、自分の興味を発見し知識を広げることができるようになっている。それに加え、JAMSTEC(海洋研究開発機構)や国立極地研究所とコラボレーションしたスペシャルステージなど、知的好奇心を刺激するコンテンツが用意されているという。
「コロナ禍やデジタル進化により、近年、さまざまなことの常識が変化しました。いわば、世界がこれからの学びを模索している段階なのです。子どもたちにはその中で『自分は何が好きなのか』を見つけ、確立していってほしいとグループメンバー一同願っています」(中井氏)
家庭学習にデジタルが浸透するのはいつになる?
しゅくだいやる気ペンなどのIoT文具がここまで受け入れられ、公教育でもGIGAスクール構想が進んでいる現代の子供たちの環境はどのように変化しているのだろうか。
「GIGAスクール構想で子どもたちの学習環境が変化し、ICT機器や通信環境の整備はほぼ完了しました。しかし、教科書などの学習コンテンツの電子化や、先生方の指導方法の変化はそれに追いつけておらず、デジタルとアナログが入り混じっているのが現状です」(中井氏)
中井氏が語ったのは、教育DXの裏側だった。筆者は取材などで時代の先端を体験することが多いため、教育関係も成功している事例や時代を先駆ける事例ばかりに目が行ってしまいがちだ。しかし、中井氏の言葉によって改めてまだ教育現場にITが浸透しきっていないことを痛感した。
「短期的な面だけで見ると、『机上スペースの不足』や『荷物の多さ・重さ』など、ICT機器を学校教育に取り入れることのデメリットの方が続くことも考えられます。コクヨとして、今は直接デジタル化にアプローチするのではなく、こういった課題を解決するためにプリントの整理グッズや省スペースサポートグッズを開発することで、教育のデジタル化を支えています」(中井氏)
実際にコクヨでは、「ネオクリッツ」 という横ではなく縦に置けるペンケースや、ハーフサイズのノート、PCタブレットケースなど、アナログな面から子どもの教育ITを支えているそうだ。
またその一方で、コクヨはCCC2030という長期ビジョンを発表し、「自立協働社会」の実現に取り組んでいる。中井氏の言葉にもあった通り、自分の「好き」や「得意」を発見し、WILLを醸成することを会社としても重要視しており、自分の興味関心が学びの軸として探究型の学びへの移行を進めていきたい考えだという。
「家庭学習の面においては、まだ大きく変化は起きていないと思われます。先生方の指導方法が確立してくるのに合わせて、家庭でそろえる文具類や学習方法が変わってくるのではないでしょうか?その少し先の、しかし確実に訪れるであろう未来に備えて、しゅくだいやる気ペンとしてもウォッチを続けていきます」(中井氏)