業務支援サービスと顧客の事業支援の両輪で成長中

スモールビジネス向けの会計ソフトを筆頭に弥生シリーズなどを手掛ける弥生は、本年3月より株主がオリックスからKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ・アンド・カンパニー・エルピー、関係会社およびその他の関連事業体を含めた総称)へと変更となることを発表していた。

同社はその後、KKRジャパンから2名の社外取締役を迎えたほか、元日本マイクロソフト代表取締役社長である平野拓也氏も同職として招くなど、取締役会を強化している。

そうした中で、弥生は11月1日に事業概況説明会を記者向けに開催した。代表取締役社長の岡本浩一郎氏が会見に登場し、上記の通り大きな変化を迎えた2022年を振り返りながらも「はっきりと申し上げるが、弥生が目指す方向性は全く変わらない」と力強く語った。

  • 弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎氏

    弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎氏

過去5年間の同社の売り上げの推移を見ると、これまで通り堅調な成長を遂げているようだ。9月末に決算を迎えた2022年度の報告(速報値)によると、222.1憶円の売り上げを記録している。

また、弥生シリーズはデスクトップアプリとクラウドアプリの両方が会計ソフト市場の過半数を占めるほどに成長し、登録ユーザー数も増加の一途をたどっているという。ユーザー数の増加を後押ししている最大の要因とも言えるのが、会計事務所向けのパートナープログラムである弥生PAP(Professional Advisor Program)の存在だ。弥生PAP会員数は現在1万1896となっている。

  • 弥生の売り上げの推移

    弥生の売り上げの推移

弥生シリーズはメジャーアップデートを施したデスクトップアプリの新版を10月に発表した。主な強化点は2023年10月施行の「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」を含む令和4年度の法令対応だ。

一方クラウドアプリでは「やよいの白色申告 オンライン」「やよいの青色申告 オンライン」「弥生会計 オンライン」「やよいの給与明細 オンライン」「Misoca」の5サービスを提供している。クラウドアプリは日々アップデートが施されるため常に最新の状態で利用可能だ。

  • 弥生シリーズのラインアップ

    弥生シリーズのラインアップ

2020年にサービスを開始した記帳代行支援サービスは、会計事務所の記帳代行業務の効率化を目的とするもので、顧問先へのより高い付加価値の提供を促す。取引データが存在するものはそのまま自動仕訳を可能とし、紙の証憑については弥生がデータ化して仕訳まで実施する。

記帳代行支援サービスは2022年9月末時点で951事務所が導入し、計2万1089の顧問先に利用されているとのこと。

  • 記帳代行支援サービスの概要

    記帳代行支援サービスの概要

このように、弥生といえば弥生シリーズを中心とする「業務支援サービス」のイメージが強いかもしれない。しかし、近年はそれに加えて事業の立ち上げと発展の各段階に必要な支援を届ける「事業支援サービス」にも注力している。

岡本浩一郎氏は「私たちは業務の支援がしたいのではなく、あくまでも事業を支援したい」と強調した。過去2年間のうちに、「起業・開業ナビ」「資金調達ナビ」「税理士紹介ナビ」「事業承継ナビ」をそれぞれ開始している。

  • 弥生の事業支援サービスのラインアップ

    弥生の事業支援サービスのラインアップ

インボイス制度の開始まで1年を切り、いよいよデジタル化は進むのか

ところで、政府は2023年10月1日から「インボイス制度」の導入を決定しているのはすでにご存知の方も多いだろう(インボイス制度対応に必要な準備についてはこちら)。弥生は代表幹事として電子インボイス推進協議会(現:デジタルインボイス推進協議会)を発足し、単に制度の導入を進めるだけではなく、政府との対話を繰り返しながら、未来に向けた適切な業務のデジタル化について発信してきた。

その中で岡本氏が繰り返し述べているのが、「電子化(Digitization)ではなくデジタル化(Digitalization)に取り組むべき」ということだ。つまり、従来は紙で処理されていた業務をただ単に電子化して置き換えるのではなく、業務のあり方から根本的にデジタル技術を前提として組み替える必要性を訴えている。

これまでに行われてきた電子化は、おおむね行政担当者にメリットがある一方で、事業者側はむしろ手間が増えるなど効果を実感できなかった例が多いのだという。事業者の業務を効率化して業務負担軽減などの効果を感じるためにも、中長期的な視点でのデジタル化が求められる。

  • 電子化ではなくデジタル化を進めるべきだという

    電子化ではなくデジタル化を進めるべきだという

目前に迫るインボイス制度への対応に加えて、中長期的な未来のデジタル化を実現するために、弥生は「証憑管理サービス」のベータ版を5月にリリースした。同サービスの機能をさらに拡充した「スマート証憑管理」を年内にリリースする予定であることも、説明会の中で発表された。

スマート証憑管理は仕入れ先から紙やPDFで受け取った請求書、納品書、領収書などを、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を搭載したOCR(Optical Character Recognition/Reader:光学文字認識)機能で読み取り、デジタルデータを抽出する仕組み。データを読み取るだけではなく、支払いや入金消込、経費精算、会計仕訳など後続の業務まで一元的に管理できる点が特徴だ。

スマート証憑管理では自社が発行する請求書や納品書も管理可能であり、事業者が受け取る、または発行する全ての証憑を一元的に管理できるシステムである。

  • スマート証憑管理のシステム概要図

    スマート証憑管理のシステム概要図

スマート証憑管理が抽出するのは、証憑番号や発行日、取引日、登録番号など、適格請求書(インボイス)に求められている事項だ。加えて、登録番号の実在性や有効性を検証して確認する機能も有する。その他、税率ごとの対価の額と税率ごとの消費税額の整合性などを検算によって確認もできるようだ。

  • スマート証憑管理の機能

    スマート証憑管理の機能

AI-OCRを搭載したスマート証憑管理によって、紙で受け取った証憑の確認や仕訳などが大きく効率化できるようになると期待できる。ここで、注意が必要なのだが、AIは完璧ではない。AI技術によって従来と比較してOCRの精度は向上しているものの、やはり手書き文字などを含めると100%の精度は難しい。紙を用いた証憑の取り扱いにはやはり一定の限界があるとのことだ。弥生が目指すのは、情報の発生源から事業者間も含め業務プロセスの全体にわたって、一貫してデジタルデータとして処理可能な姿だ。

国際規格であるPeppol(Pan European Public Procurement Online)をベースとした日本版の標準仕様の策定がデジタル庁によって進められ、「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」が公表されている。また、アクセスポイントの認定手続きも同時に進められている。Peppolをベースとした標準仕様が公表されるとともにアクセスポイントの認定も進んだことで、ベンダーからサービスの提供が始まっている。

  • 日本版Peppolの最近の状況

    日本版Peppolの最新動向

弥生としても翌春にはスマート証憑管理がPeppolへ対応する予定だという。同サービスからデジタルインボイスを送受信できるようになり、受け取った証憑は自動で仕訳まで完了できるようになるとのこと。

デジタルインボイスは紙やPDFのインボイスとは異なり、適格請求書の適正判定の完全自動化が可能だ。将来的には、デジタルインボイスが持つ利点を最大限享受するために、支払処理や入金消込業務の効率化まで対応するとしている。

  • 弥生はデジタルインボイスへの対応を進める

    弥生はデジタルインボイスへの対応を進める