東京都立大学(都立大)、東京大学(東大)、大阪大学(阪大)の3者は10月5日、絶縁体のテンプレートを用いた結晶成長により、円筒構造物質ナノチューブ(NT)の汎用的な合成法を開発し、絶縁体である「窒化ホウ素(BN)」を用いたNTをテンプレートに用いた化学気相成長法によって、BNNTの表面に異種のNTを同心状に成長させることに成功したと発表した。

同成果は、都立大大学院 理学研究科 物理学専攻の古澤慎平大学院生、同・中西勇介助教、同・蓬田陽平助教、同・田中拓光学部生、同・柳和宏教授、同・宮田耕充准教授、産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門の佐藤雄太主任研究員、東大大学院 工学系研究科 機械工学専攻の鄭永嘉博士研究員(日本学術振興会 外国人特別研究員)、同・項栄客員研究員、同・丸山茂夫教授、阪大 産業科学研究所の末永和知教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

無機NTへの関心は年々高まっているものの、電流の流れやすさや光との相互作用などの基本的な性質の理解ですら、実験的にはほとんど進んでいないという。その最大の原因は、現在主流の合成法では異なる巻き方のNTが複数重なった多層NTしか得られないことにあるとされており、そのため精密な結晶構造の同定が難しく、理論計算と実験結果を精密に比較できる状況に至っていなかったという。

理論予想を実験的に検証するには、結晶構造の同定が容易な単層NTの実現が不可欠とされる。単層の無機NTを合成する手段としては、研究チームの丸山教授(東大)らによって2020年に発表された、カーボンナノチューブ(CNT)をテンプレートとし、化学気相成長法によってその表面で結晶成長を行うことにより、高品質な無機NTを合成するというものがあるが、金属や半導体の性質を持つCNTは高い電気伝導度や強い光吸収を示し、その上に得られたNTとの相互作用も強いため、無機NT本来の特性を調べることが容易ではなかったという。

そこで研究チームは今回、CNTに代わるテンプレートとして、BNNTに着目することにしたという。BNNTはCNTと同じく直径1~数nmの円筒状のナノ物質であるものの、CNTと違って電気伝導度が低く、光学的にも不活性な絶縁体であるため、表面上に得られた無機NTの光学・電気特性を評価するのに適した、ナノサイズの試験管としての大きな利点を持つという。

  • カーボンナノチューブとBNナノチューブ

    カーボンナノチューブとBNナノチューブ (出所:プレスリリースPDF)