ただし、BNNTは互いに凝集する性質が強く、テンプレートとして利用しにくい課題があった。それに対し今回、界面活性剤を用いた超音波処理によって、BNNTの束をほぐす技術が開発され、これにより分散液を孔の空いた基板に塗布することにより、1~数本単位で高度に分散したBNNTのネットワークを簡便に作製できるようになったという。また、BNNTに付着した界面活性剤は、真空熱処理によって除去することが可能なため、テンプレート合成に適した清浄かつ高結晶な表面を持つBNNTが得られるとする。

  • 界面活性剤を用いたBNナノチューブの分散

    (a)界面活性剤を用いたBNナノチューブの分散。(b)左はBNナノチューブの固体、右は分散液。(c)分散したBNナノチューブのネットワーク (出所:プレスリリースPDF)

また、分散過程で比較的細い二層のBNNTが濃縮されることも明らかにされた。テンプレートが細くなるほど得られる無機NTも細くなり、一次元電子系の特徴を顕著に反映した物理現象を観測できる可能性があるという。そして、このネットワークをテンプレートに用いて気相成長を行うことにより、BNNT表面での炭素やMoS2のNT合成に成功。透過電子顕微鏡による観察で、得られた複合NTが同心構造を持つことが確認されたとする。

  • BNナノチューブの側面に成長した単層MoS2ナノチューブの電子顕微鏡画像

    BNナノチューブの側面に成長した単層MoS2ナノチューブの電子顕微鏡画像 (出所:プレスリリースPDF)

さらに今回の手法では、成長温度によって得られるNTの層数を制御できることから、単層NTを高い収率で得ることも可能となった。そこで、元素分析や結晶構造解析が行われたところ、窒素とホウ素で構成された芯の外側に、高い結晶性を持つ炭素やMoS2のNTが成長していることが確認されたほか、原子分解能の透過電子顕微鏡を用いた直接観察により、MoS2単層NTのキラリティを同定することにも成功したという。

今回の手法は、原理上、多様な無機NTの合成に適用可能であり、この手法により、長年理論研究に留まっていた、さまざまなNTの実現が期待されると研究チームでは説明する。また、BNNT自体の影響が小さいため、得られたNTを1本ずつ詳細に分析することにより、長年判然としていなかったキラリティと物性の相関関係を統一的に理解することも期待されるともしているほか、今回の手法で合成した単層NTの構造分布を研究することによって、成長機構の解明や構造制御合成、そして多量合成法の開発に結びつくことも期待されるとしている。