デル・テクノロジーズは8月25日(現地時間)、オーストラリアに拠点を置く環境保護団体「Citizens of The Great Barrier Reef」と共同で新しいディープラーニングモデルを開発したことを発表し、記者会見を開いた。

GRC(Great Reef Census)プロジェクトの次期フェーズでは、このモデルによって、グレートバリアリーフについて収集した調査画像をより短時間で正確に分析できるようになるという。

  • Great Reef Census

    Great Reef Census

グレートバリアリーフは世界最大級のサンゴ礁地帯であり、その広さは日本やイタリアの国土にも相当するようだ。その広大さのため、これまで研究者が定期的にデータを収集できるのは全体のおよそ5~10%ほどにとどまっていた。

近年は海水温の上昇などによりサンゴの死滅が加速しており、過去7年間では4回もの大規模な白化現象が発生しているという。これまでに調査された654のサンゴ礁のうち91%で白化が認められているが、未調査のサンゴ礁はおよそ2350に上る。世界有数のサンゴ礁であるグレートバリアリーフを危機から守るために、未調査のサンゴ礁に関するデータの取得が急務だ。

  • 気候変動によりサンゴの死滅が加速しているという

    気候変動によりサンゴの死滅が加速しているという

Citizens of The Great Barrier Reefは、グレートバリアリーフ保護のためには人類の協力が必要だとして、年に200万人も訪れる観光客をアマチュアの市民科学者として活用し、グレートバリアリーフの大規模調査データを収集するという環境保護プロジェクトとしてGRCを開始した。さらにGRCでは、現地を訪れていない人もアノテーション作業など遠隔地から画像分析に協力可能である。

  • Citizens of The Great Barrier Reef

    Citizens of The Great Barrier Reef

2020年後半に開始したGRCフェーズ1(GRC1)では、観光船やダイビングボート、スーパーヨット、漁船、タグボートなどから構成される地域調査船団がグレートバリアリーフの7100枚超の画像を撮影した。さらにこの画像はオンラインボランティアが、海洋構造、生物、サンゴなどを手作業で分類した。

デル・テクノロジーズとIntelはGRC1において、リアルタイムのデータ取得をサポートするため、組み込み型のエッジインフラストラクチャーソリューションとして、組み込みデバイスを開発した。これにより、ユーザーは海上で撮影した画像をそのままアップロードできるようになり、アップロードされた画像と位置データは、分析のために海岸に近い場所へ自動送信可能になったという。

また、2021年にも同じシステムを使用して1万3000枚の写真を撮影したとのことだ。デル・テクノロジーズのノートパソコン「Dell Latitude Rugged」も導入し、写真撮影の対象となるサンゴ礁をリアルタイムで特定できるようになったとしている。

GRCフェーズ2(GRC2)は現在も進行中で、これまでに収集した約4万2000枚の画像の分析を進めているようだ。

GRCフェーズ3(GRC3)は産後の産卵期である10月ころに開始予定。この時期は、サンゴのポリープのコロニーをはじめさまざまな種が、小さな卵と精子を水中に放出する。岸に近いサンゴ礁は10月の最初の満月の直後に産卵を開始し、沿岸部から始まった産卵は外側のサンゴ礁へと続き最も外側のサンゴ礁の産卵は11月から12月にかけて行われる。

GRC1およびGRC2では、多量の画像データを収集し、大きな成果を得られたとしている。しかし、手作業による多量の画像の分析とラベリングには時間が必要な上、不正確な情報につながる可能性も少なくない。そこでデル・テクノロジーズは、GRC3においてディープラーニングを活用することで不正確な情報を減らしながら、分析のスピードアップを図るとのことだ。過去2年間よりも多くのサンゴ礁を調査し、研究者が意思決定を行うためのより質の高いデータを迅速に提供することを目的にするとのことだ。

  • 多量のデータ収集と分析に注力するという

    多量のデータ収集と分析に注力するという

同社が今回開発したディープラーニングモデルは、ピクセル(画素)単位のセマンティックセグメンテーションを実現する、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)アーキテクチャ「SegNet」を使用している。同モデルは画像内の個々のピクセルを分析して、各サンゴ礁の境界を10秒以内に分類可能だ。

  • セグメンテーションの例

    セグメンテーションの例

撮影者がサンゴ礁の写真を撮影するとディープラーニングモデルがそのサンゴ礁の輪郭と健康状態を推定し、GRCメンバーがこれをチェックしてラベルを確認した後にデータがクイーンズランド大学に送信される。

船舶に搭載したデル・テクノロジーズのエッジソリューションが、モバイル ネットワークを通じてディープラーニングモデルにデータを直接アップロードし、リアルタイムに画像がシステムに取り込まれる。これにより、過去のフェーズで1516時間を要していた1万3000枚の画像分析について、同モデルを用いることで同じデータセットを約200時間で分析可能になったのだという。

同社らはこのモデルを用いて、今年中にグレートバリアリーフマリンパークの全長2300キロメートル、約315のサンゴ礁から収集した4万2000枚の調査画像を分析予定だとしている。

  • 画像分析の精度をさらに向上させるとしている

    画像分析の精度をさらに向上させるとしている