【政界】安倍路線継承へ党内基盤も強化 「強い日本」づくりに邁進する高市首相

首相の高市早苗は5月の大型連休中にベトナムとオーストラリアを訪問した。中国の経済的威圧や中東情勢を踏まえ、サプライチェーンの強靭化やエネルギーの安定供給に向けた連携を確認した。自身が掲げる「強い日本」づくりに向けて邁進する高市だが、物価高対策や衆院選公約に掲げた消費税減税をどう決着させるかがカギになる。自民党内では副総裁の麻生太郎を中心に高市を支える議員グループが発足し、歴代最長の在任期間を誇った元首相・安倍晋三のように長期政権を意識した動きも出始めた。

ハノイにサナエブルー

 日本は大型連休の真っ只中の5月2日、高市はベトナムの首都ハノイで首相のレ・ミン・フンとの会談に臨んだ。身を包んでいたのはロイヤルブルーのスーツ。記念撮影で、高市が赤地に金色の星を描いたベトナム国旗「金星紅旗」の前に立つと青と赤のコントラストが一際、目を引いた。

 最近は「サナエブルー」と呼ばれるが、高市が尊敬する英首相のサッチャーが好んだ色。また、高市が強く意識し、その遺志を継承しようとしている安倍も青や紺のネクタイを多用していた。官邸関係者は「高市首相本人が会談相手や会場を考えて服装を選んでいる」と語る。

 ベトナムは安倍が第2次政権発足後に最初の訪問国として選んだ国だ。南シナ海で中国と領有権を争う一方、米中どちらにも属さない「全方位外交」を展開し、経済分野などでは協力関係を築いている。日本が中国の「力や威圧による一方的な現状変更の試み」に対抗する上では、引き付けておくことが欠かせない。

 高市はフンとの会談で、エネルギーや重要鉱物など経済安全保障分野の連携を新たに進めていくことで一致した。具体的には、世界有数の埋蔵国であるベトナムのレアアースなど重要鉱物に関するサプライチェーンの強靱化で協力する。

 さらに、中東情勢を踏まえ、高市が4月に打ち出した「パワー・アジア(アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ)」の最初の案件として、日本側が金融支援を通じてベトナムの製油所の原油調達を後押しすることも決めた。

 高市は会談後の共同記者発表で、「日本、ベトナム、そしてインド太平洋地域を共に強く豊かにしていくための協力を確認した」とアピールした。ベトナム訪問のもう1つの目玉がベトナム国家大学での外交政策スピーチだった。

 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するものとして、安倍が提唱し、今や欧米や東南アジア諸国連合(ASEAN)などに浸透した日本発の外交方針「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」。高市はスピーチで、そのアップデートを掲げた。

 10年前の2016年、ケニアを訪問した安倍が最初にFOIP構想について語ったことに触れ、「自由、開放性、多様性、包摂性、法の支配に基づく国際秩序を築くため、日本として果たすべき役割を今まで以上に主体的に果たしていく。その覚悟を新たにしています」と主張。

「自律性」と「強靱性」の強化を訴えるとともに、自身がこだわりを持つ経済安保に加え、AI(人工知能)・データ時代の対応などを表明した。会場からは大きな拍手が起こり、高市は満足そうな表情を浮かべた。

準同盟国とも関係深化

 ベトナム訪問を終えた高市は続いて「準同盟国」と位置付けるオーストラリアに飛んだ。4日に行った首相のアルバニージーとの会談では、ベトナム同様、重要鉱物やエネルギーのサプライチェーン強靭化に向けた協力の強化で合意した。オーストラリアは日本にとって液化天然ガス(LNG)や石炭の調達先で、レアアースなどの重要鉱物も豊富に抱える。両首脳は、防衛産業分野の協力や自衛隊とオーストラリア軍による共同訓練の拡充など防衛協力も深化させることを確認した。

 今回の外遊は、高市の台湾有事を巡る国会答弁以降、レアアースの輸出規制などで経済的威圧を強める中国、さらに、ホルムズ海峡封鎖による原油・石油製品などの供給不足に耐えられる体質を日本として作る狙いがあった。同時に、国政選挙で勝利を重ね、国内の圧倒的な支持をバックに積極的な外交を展開した安倍路線の継承を意識した外遊だったことは間違いない。

 外遊でもう1つ、あまり報じられることはなかったが、高市がこだわったことがある。それは相手国の戦没者追悼施設への訪問だ。ベトナムでは英雄烈士慰霊碑に参拝し、オーストラリアでは戦争記念館を訪れ、無名戦士の墓にも献花した。

 高市は昨年10月の首相就任前まで、8月15日の終戦の日などに靖国神社を参拝してきた。だが、就任後は春や秋の例大祭を含め一度も参拝できていない。このため、訪問国での慰霊碑などの参拝は自身の靖国参拝に向けた環境づくりと見る向きがある。安倍は2度目の首相就任から1年にあたる13年12月に靖国神社を参拝しており、高市も意識しているとみられる。

「強い日本をつくるため、絶対に諦めない、そう決意をいたしております」

 高市は昨年10月の首相就任の記者会見で宣言した。

 今年1月に突然の衆院解散に踏み切り、衆院で3分の2を上回る議席を獲得。3月末までの年度内には間に合わなかったものの、26年度当初予算を猛スピードで成立させた。その後は公約に掲げた政策の実行に邁進する。

 防衛装備移転三原則と運用指針を改定し、武器輸出のルールを緩和した。高市は「安全保障環境が厳しさを増す中、パートナー国に防衛装備移転を行うことは、パートナー国の防衛力を向上させ、紛争発生の未然防止に貢献することになり、日本の安全保障の確保につながる」と説明する。

 米国・イスラエルによるイラン攻撃とそれに伴うホルムズ海峡封鎖は、政権にとっては想定外の事態だった。長期化すれば、原油や関連製品の供給は滞り、日本経済は物価上昇と景気後退が同時に起こるスタグフレーションに見舞われる懸念がある。

 今のところ、潤沢な石油備蓄に加え、経済産業省を中心に政府が代替調達などを急いだ甲斐もあって、高市は「原油も石油関連製品も日本全体として必要な量は確保できている」と強調している。

 報道各社の世論調査でも内閣支持率は依然、高い水準を維持しており、ホルムズ危機は政権にとって大きなダメージにはなっていない。

食品消費税1%の奇策

 その意味で、政権の命運を握りそうなのが、高市が衆院選公約に掲げた飲食料品の消費税率ゼロの実現だ。

 2月から政府と与野党が参加する「社会保障国民会議」で検討が進んでいるが、レジシステムの改修に1年程度かかることや財政悪化の懸念などから、与党内にも慎重論が相次ぐ。一方で、2年間限定で飲食料品の消費税率をゼロにする前に、高市が中低所得者対策の本丸と位置付けていた「給付付き税額控除」を早期に導入した方が現実的だとの声も出始めた。

 もっとも、高市は「実現に向けて強い思いを持って取り組む」と語るなど、消費税率ゼロを諦めてはない。ここに来て、急浮上している〝奇策〟が飲食料品の消費税率をゼロではなく、1%にする案だ。ゼロにするにはシステム改修などで1年程度かかるが、1%の場合は数カ月間で完了するとされる。

 政府関係者は「高市首相は衆院選で掲げた公約の実現にこだわっている。問題があっても消費税減税自体を取りやめる可能性は低いだろう。ただ、税率をゼロではなく1%に引き下げた場合でも世論が好意的に受け止めるという確信を持てれば決断するのではないか」と指摘する。

 国民会議は夏までに中間とりまとめを行う予定だ。一定の時間をかけてでも飲食料品の消費税率をゼロにするか、それとも早期の実施を優先して消費税率1%への引き下げにとどめるか、消費税減税は見送って早期に給付付き税額控除を導入するか、高市が最終判断することになる。

 高市はこれまで多くの重要政策について、自身や官房長官の木原稔らごく少数の官邸メンバーと相談して決定してきた。そのことが政策実行にスピード感を与えていた一方、党側との隔たりを生じさせていた。

 典型的だったのが1月の衆院解散だ。政権の後ろ盾である副総裁の麻生太郎や幹事長の鈴木俊一に事前に相談せず、不信感が広がった。ただ、当初予算成立後、高市も麻生ら党幹部や国対メンバーを官邸や公邸に招いて会食するなど、党との意思疎通を積極的に図っている。それに呼応するように党側からも党内基盤の弱い高市を支援する動きが出てきた。

 麻生が発起人に名を連ねた高市を支える議員グループ「国力研究会」は5月7日から、党所属議員を対象に参加の呼びかけを始めた。麻生派で首相に近い参院議員の山田宏や幹事長代行の萩生田光一らが発足準備に携わった。

 略称は「JiB」で、高市が昨年の総裁選で使用したキャッチフレーズ「JAPAN IS BACK」にちなんだ。設立趣意書には「政府与党は一体となって、国民に約束した公約の実現に邁進しなければならない」と記している。

 発起人には、麻生のほか、総裁選で高市と争った外相の茂木敏充、防衛相の小泉進次郎、政調会長の小林鷹之も加わった。ただ、総務相の林芳正は入らなかった。

 自民の閣僚経験者は「メンバー選びは麻生さんの意向が強く反映された。林さんは麻生さんと折り合いの悪い古賀誠元幹事長に近い。そのためにあえて声をかけなかったのではないか」と語る。

 参院議員では参院議員会長の松山政司や総務会長の有村治子が発起人になった一方、参院幹事長の石井準一は入らなかった。石井は参院自民党内で自身のグループを立ち上げたことで、高市が警戒を強めていた。

総裁選で無投票再選

 もちろん、「党内に分断を生む」などしてグループの発足に対して否定的な意見もある。また、「高市一強」のもとで参加を拒否する議員は少ないとみられ、党所属議員の大半が参加する可能性がある。その場合、高市応援団としての結束は弱まるだろう。

 グループとしては、派閥を越えて挙党一致体制を演出することで、来秋の任期満了に伴う総裁選で、高市の「無投票再選」につなげたい思惑がある。そうなれば、少なくとも再来年の参院選までは国政選挙は予定されておらず、高市は約2年間、思う存分、政策の実現に集中できるからだ。

 憲政史上最長という通算8年8カ月の長期政権を築いた安倍は官邸主導の政権運営を行ったが、背後には実質的なオーナーだった党内最大派閥の清和政策研究会に加え、派閥横断型の保守系議員連盟「創生日本」や政策グループ「きさらぎ会」などが存在していた。

 高市が弱点だった党内基盤を固め、長期政権に向けた歩みを進められるか。ここからが正念場になる。(敬称略)

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