メンタルヘルス テクノロジーズ社長・刀禰真之介が語る「心にも『リハビリ』が必要だ」

日本社会は今、「心の不調」と真正面から向き合わざるを得ない時代に入っている。うつ病や適応障害などの精神疾患はもはや一部の人の問題ではない。環境変化の激化、デジタル化による脳への負荷、人間関係の複雑化などを背景に誰もがメンタル不調を抱えうる時代になった。

 一方で、日本は急激な労働力不足に入っていく。私は、この問題を単なる医療問題だとは思っていない。日本社会全体の生産性と競争力に直結する、「人的資本」の問題だと考えている。

 企業は採用にコストをかけ、育成に時間をかける。しかし現実には、責任感が強く、成果を出してきた人材ほど、限界まで自分を追い込み、ある日突然、職場から離脱していく。

 多くの日本企業では、「頑張れる人」に仕事が集まる。そして、真面目な人ほど、「迷惑をかけられない」「自分が倒れるわけにはいかない」と、自分自身を極限まで追い込んでしまう。

 本当に危険なのは、弱い人ではない。むしろ、組織を支えてきた人ほど壊れていく。私はこれまで、多くの働く人たちのメンタルヘルス不調と向き合ってきた。その中で、ずっと強い違和感を持ってきたことがある。

 日本では、「治療」の話はあっても、「回復後」の話があまりにも少ない、ということだ。身体の怪我であれば、リハビリを経て復帰するのは当たり前である。例えばプロ野球選手が肩を壊した場合、医学的に治ったからといって、翌日から完投を求められることはない。段階的に筋力を戻し、感覚を取り戻し、実戦復帰していく。

 しかし、メンタルの領域では、いまだに「休めば戻れる」と考えられている。私は、この考え方そのものが、日本社会の大きな問題だと思っている。

 精神科や心療内科で症状が落ち着いたとしても、集中力、生活リズム、対人感覚、自信などは大きく低下していることが少なくない。それにもかかわらず、復職直後から以前と同じ成果、同じ責任、同じスピードを求められる。結果として何が起きるか。再休職である。私は、これは本人の問題というより、「復帰プロセスを持たない社会側の問題」だと思っている。だからこそ必要なのが、「リワーク」であり、私はこれを「心のリハビリ」だと考えている。

 実際、リワークに通われている方々の中には、大企業、官公庁、専門職など、日本社会の第一線で働いてきた方々も多い。そして、多くの方が、自費で通所しながら、「もう一度働きたい」と社会復帰を目指している。

 それは、単に〝元に戻りたい〟という話ではない。社会のため、会社のため、そして、もう一度、自分自身の人生を取り戻すためである。私は、この姿をもっと社会に知ってほしいと思っている。同時に、私たちが絶対に守らなければならないものがある。

 それは、「自尊心」だ。人は、病んだからといって価値を失うわけではない。一度立ち止まったとしても、その人がこれまで組織や社会を支えてきた事実は消えない。実際、我々の支援先でも、マネージャー登用直前に休職した方が、リワークを経て復職し、その後、再びマネージャーに登用されたケースも出始めている。適切なリハビリと復帰プロセスがあれば、人は再び活躍できる。これは単なる復職支援ではない。人的資本を、もう一度戦力化するということだ。

 私は、本気で日本の常識を変えたいと思っている。スポーツで当たり前の〝リハビリ〟が、なぜ心には存在しないのか。「心にもリハビリが必要だ」という認識を、日本の新しい常識にしていきたい。

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