開発より大変なスケジュール管理

--学生サークルとして活動していく上で、ものづくりの難しさなどは何かありますか?

礒端さん:宇宙エレベーターは歴史が浅いため、部品ひとつ見ても簡単につくれるものが少ない。自分たちでつくり出す部分が多く、難しさも増します。一方で、競技大会に参加してほかのグループと意見交換しながら技術を積み重ね、課題を解決していく面白さもあります。

吉中さん:自分では無理かなと思っていた案が、例えば工学系ではないメンバーの新鮮な目を通して「いいじゃない」と後押しされて先へ進む、ということもよくあります。あと難しい点としては、技術的なこともそうですが、スケジュール管理には悩まされますね。チームを組んで機体を製作していきますが、一部に遅れが出ただけでチーム全体が大幅に遅れてしまいます。そのため、タイムマネジメントはかなり大変です。

--では、同じマネジメントでも予算の管理はどうですか?

竹下さん:我々の場合、競技大会に参加する機体の設計を簡易的に行うなどして想定費用を割り出し、顧問や技術員へ「今年は◯◯という価値を持つクライマーをつくりますので予算を……」とお願いするところから始まります。予算に関してもかなりの部分を学生主体で活動できる団体だと思います。

  • 学生のものづくりならではの苦労を語る吉中さん

    学生のものづくりならではの苦労を語る吉中さん

好成績を支える企業による学生へのものづくり支援

--予算に関わる話では、機械部品の製造や販売などを行うミスミが公募する「ミスミ『学生ものづくり支援』」を活用したという話を聞いています

礒端さん:その通りですね。2021年度の学生ものづくり支援では、10万円分のミスミの商品を提供していただける特別支援枠に選ばれました。この支援を活用して電流センサなどの提供を受けました。

クライマーの速度性能を向上させるためには電流の細かい管理が必須で、モーターの負荷を解析するには電流の測定が欠かせません。従来は、実際に機体製作を行い、スムーズに上昇しなければ設計し直す、日々そんなことの繰り返しでした。しかし電流センサがあることで、機体の負荷を正確に測定することができるため、より高性能な機体の開発を行うことができます。今や電流センサは不可欠な機器のひとつです。

吉中さん:クライマーを構成する部品などは、基本的に大学から提供される予算でまかなうことができます。ただ、そこから機体をブラッシュアップし性能を向上させるには、プラスαが欲しい。そんなところに支援を活用させていただきました。

こうして支援を頂けるのは、我々としてはすごくありがたいことです。支援される団体のひとつに選ばれてすぐ、「どんな機器を提供してもらおうか」「こんな部品があればいい」といった話で、チームごとに盛り上がったくらいですから。

  • 機体にはものづくり支援を受けたミスミのステッカーを貼っているという

    機体にはものづくり支援を受けたミスミのステッカーを貼っているという

--このような支援がもっと多く受けられたら、製作する機体もより高性能になるのでしょうか?

礒端さん:もう1台つくるとか、違うコンセプトの機体を並行してつくるとか、そんなことが可能になるでしょう。最初にお話しした競技会(SPEC×ROC)では、2019年にクライマー部門に加えて地上作業ロボット(無人汎用運搬車)部門が2019年に新設されました。こちらのロボットにももっと注力できるようになるかもしれません。

吉中さん:現行機の材質は主にアルミです。これをジュラルミン、超ジュラルミン……へとグレードアップして性能向上を図ることも可能になります。ひとつひとつの部品をレベルアップしていけば、いまより軽くて強度を高めた機体もできると思います。

--ちなみに、宇宙エレベーターの競技会では「より速く・より高く」といった性能が求められますが、より難しいのはどちらですか?

吉中さん:難しい質問ですね。現行の競技会では、その多くが限られた高度の中で速さを競いますが、以前は到達高度を競うものが主流で、その場合は降りてくる際のブレーキ性能も重要視されました。摩擦の影響で破損しながら降下してくる機体も少なくなかったようです。

摩擦によるいちばんの問題は熱ですが、この対策は材料よりも技術力にかかってきます。こうなると発電ブレーキを組み込むなど、別のブレーキをつくり出すところから開発をスタートしなくてはなりません。もし予算をかけられて部品のアップグレードが可能ならば、速度向上のほうが結果を出しやすい気がします。

居川さん:自分も速度のほうがやりやすいと思います。機体の自重を軽くするのは、部品を見直すなどすればそれほど難しくないですから。電気電子系の目線でいうと、モーターの性能を高めて速度を上げることも可能だと思います。しかし同時に発火などのリスクも高くなってしまうので、その対策も必要です。

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