宇宙空間と地上を結ぶ新たな輸送機として期待され、さまざまな団体が開発を進める「宇宙エレベーター」。その性能を競う大会である「宇宙エレベーター クライマー・ロボティックス競技会(SPEC x ROC)」に連続参加し、直近の2019年クライマー(昇降実験機)部門で最高上昇速度を記録したクライマーに与えられるスピード賞、主催者指定ペイロードを搭載した態で、バッテリー交換をせずに単一ウィンドウ内で累積昇降高度が最大のクライマーに与えられるペイロード賞、そしてロボットを安全に射出できた累積数が最も多いクライマーに与えられる安定輸送賞の3賞を独占したのが、神奈川大学KUSEP(Kanagawa University Space Elevator Project)だ。

研究室での活動とは一線を画す、いわばサークル活動ながら、同団体は世界最速の時速100km(テザーを垂直に昇る条件下)を達成した機体も生み出している。創造性あふれるKUSEPの活動の一端を、メンバーへのインタビューから垣間見る。

  • 今回取材を行った神奈川大学KUSEPの礒端大輔さん(写真左)、居川昇陽さん(写真左から2番目)、吉中智美さん(写真右から2番目)、竹下真司さん(写真右)

    今回取材を行った神奈川大学KUSEPの礒端大輔さん(写真左)、居川昇陽さん(写真左から2番目)、吉中智美さん(写真右から2番目)、竹下真司さん(写真右)

インタビューを行ったKUSEPメンバー

  • 礒端大輔さん(工学部機械工学科4年)
  • 居川昇陽さん(工学部電気電子情報工学科2年)
  • 吉中智美さん(大学院工学研究科工学専攻機械工学領域1年)
  • 竹下真司さん(大学院工学研究科工学専攻機械工学領域1年)

(注:メンバーの学年は取材時のもの)

制約条件なし! 誰でも参加できる宇宙エレベーター開発

--活動拠点である神奈川大学横浜キャンパス6号館118教室では、日ごろのどのような活動をしているのですか?

礒端さん:基本的には、この部屋にある機器を使って機械工作をしています。使うのは切削加工に用いるフライス盤や旋盤、3Dプリンタ、NC加工機などで、パソコンでの設計やプログラム作成もします。宇宙エレベーターに関わる機体のすべてをここでつくっています。

私たちの宇宙エレベータープロジェクトでは、主に「クライマー」と呼ばれる昇降実験機を開発・製作しています。クライマーは、上空へと伸びるベルト状の「テザー」をローラーで挟み、それを回転させることで上昇します。基本原理はどの機体も同じで、上昇スピードに特化した機体と積載能力に力を入れた機体とを、それぞれつくり分けています。目指すのは、宇宙エレベーター協会が企画する「宇宙エレベーターロボティクス競技会(SPEC×ROC)」クライマー部門での連覇と高記録樹立です。

  • 活動拠点にはさまざまな工作機械が設置されている

    活動拠点にはさまざまな工作機械が設置されている

  • 学生自ら部品の加工などを行っているという

    学生自ら部品の加工などを行っているという

--ちなみに、大学の授業とこの活動は別ものだと聞きましたが……

礒端さん:はい。神奈川大学での宇宙エレベーターの研究開発は、もともと機械工学科の江上研究室から始まりました。ただ、研究室だと所属する4年生・大学院生しか関わることができません。そこで、神奈川大学の学生なら学年・学部・専攻を問わず誰でも参加できる場として、このKUSEP(Kanagawa University Space Elevator Project)がスタートしたのです。

吉中さん:1年生から参加できるサークルなので、ずっと継続して活動すれば4年間(大学院博士前期課程なら6年間)、宇宙エレベーターに携わることもできます。

宇宙エレベーターの新規性に魅せられたメンバー

--では、皆さんがKUSEPに参加したきっかけを教えてください。

礒端さん:まず、小学生のときに宇宙系のアニメを見て、漠然と宇宙への興味を持ちました。機械工学+宇宙といえばまずはロケットが思い浮かびますが、大学入学に際していろいろ調べる中で、宇宙エレベーターに新規性を感じ、参加することを決めました。ものづくりのサークルはいくつもありますが、新しいプロジェクトに触れられる機会を得て、なにか希望の光が射した気分になりました。

居川さん:僕自身、昔から趣味で電子工作をしており、宇宙への関心もあったことから、ロケットか宇宙エレベーターの二択だと考えていました。前者はある程度のところまで完成している分野なのに対し、後者は未知の領域がまだまだ多い。そんなことからKUSEPへ参加することを決めました。入学直前に見たKUSEPのTwitterに興味を引かれたことも一因ですね。

吉中さん:私は、入学後に耳に入ってきた「宇宙エレベーター」のことばがキャッチーだったこともあり、ものづくり好きの性格と相まって、一度体験してみようかなと思って参加したのがきっかけです。

竹下さん:もともと宇宙好き×ロボット好きだったので、宇宙エレベーターは自分が好きなものの詰め合わせセットのような存在に感じました。それで迷うことなくここに参加して、学部1年生のときから製作を続けています。

実は進学先を調べているときに、宇宙エレベーターに取り組んでいる研究室が神奈川大学にあることを見つけました。それで大学のオープンキャンパスに行ったところ、学部を問わず1年生からできるこのサークルのことを知りました。言ってしまえば、入学前からKUSEPに参加することを決めていたようなものです。

--このKUSEPには文系の学生も所属しているとか。実際の機体製作よりも後方支援などをメインに受け持つのでしょうか?

礒端さん:KUSEPでは各人がやりたいことをしています。つまり、工学系ではないメンバーも製作に携わってもいいし、ホームページの作成を担当してもいい。今現在も、実際に機体製作を行う文系学生が所属しています。

居川さん:壁をつくらないのがここの特徴です。誰もが自由に参加できるプロジェクトって魅力的ですよね。

吉中さん:現時点では工学部のほかに、経済学部、法学部や人間科学部の学生も参加しています。ちょっと前は理学部の人もいたかな。宇宙エレベーターには未知の分野が多く、幅広い視野が必要です。工学とは違う視点も交えながら、さまざまに意見交換できるのはいい環境だと感じています。

  • メンバー全員が宇宙エレベーターの新規性を魅力に挙げた

    メンバー全員が宇宙エレベーターの新規性を魅力に挙げた