日常生活で、誰もが一度は使ったことがあるサービスと言えば宅配だろう。中でも、クロネコのマークで親しまれるヤマト運輸は、年間約21億個の荷物を取り扱う業界大手の物流企業だ。

そんなヤマトグループは2019年に創業100年を迎え、2020年1月に次の100年に向けた中長期の経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表、2021年1月に中期経営計画「Oneヤマト2023」を策定した。その中の一つで、DXに注力する方針を打ち出しており、クラウドをベースにしたデジタル革新を現在進めているところだ。

3月4日に開催された「TECH+セミナー クラウド移行 Day 2022 Mar.クラウドの効果を最大化する」に、ヤマト運輸 執行役員(DX推進担当) 中林紀彦氏が登壇。同社が取り組むDXの全体像について語った。

経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」

まずはヤマトグループについておさらいしておこう。

ヤマトグループは言わずと知れた業界大手の物流企業である。年間で約21億の荷物を取り扱い、社員数は22万人以上。約57,000台の車両と約3,500の営業拠点を構え、営業収益は約1兆7,000億円にも上る。

もともとデジタルに軸足を置いていた企業ならともかく、物流という多くのフィジカル(物理的)リソースを抱えてビジネスを行ってきたヤマトグループにとって、DXを進めることは決して容易ではないように思える。

しかし、ヤマトグループはスピーディーにデータ・ドリブン経営へ舵を切り、さまざまなデジタル革新を推し進めているという。同社はなぜ、DXを推進できているのか。

  • ヤマト運輸 執行役員(DX推進担当)中林紀彦氏

同社のDXのベースにあるのが、次の100年に向けた中長期の経営構造改革プランとして策定された「YAMATO NEXT100」である。中林氏は策定の目的として「ヤマトが社会インフラの一員としてこれからもさまざまな社会課題に正面から向き合い、お客さま、社会のニーズに応える『新たな物流エコシステム』を創出すること。そして、次の時代も、豊かな社会の実現に持続的な貢献を果たす企業となること」を挙げる。

具体的な基本戦略は「CX(コーポレートトランスフォーメーション)」「DX」「イノベーション」の3つが掲げられているが、中でも今回注目したいのが「DX」だ。中林氏によると、ヤマトグループではDXを推進するために3つの事業構造改革と、3つの基盤構造改革を掲げているという。

具体的に見ていこう。

3つの事業構造改革から生まれた革新的なサービス

3つの事業構造改革では、「宅急便のデジタルトランスフォーメーション」「ECエコシステムの確立」「法人向け物流事業の強化」を掲げている。

宅急便のデジタルトランスフォーメーションとは、データ分析やAIを活用し、宅急便のオペレーション全体を最適化することだ。ロボティクスなどの導入により、宅急便ネットワーク全体の生産性を向上することを目指しているという。

宅急便の本質は「お客さまに荷物を届ける」ことであり、その点は何ら変わるものではないが、裏の仕組みをDXにより革新することで、セールスドライバーが顧客とコミュニケーションをとれる環境を整備できるようになるのだ。

また、現在はECのニーズが飛躍的に高まっていることから、クラウドをベースとしたECエコシステムの確立にも取り組んでいる。

「デジタルを活用した集配ツールのほか、受け取り日時や受け取り場所の変更、再配達依頼などがデジタルで行える仕組みを導入することで、新たな顧客体験を提供し、サプライチェーン全体の最適化を目指しています」(中林氏)

例えば、2020年から提供を開始したEC事業者向け配送商品「EAZY」は、荷物の受け取り方法が対面に加え、自宅の玄関ドア前や宅配ボックス、ガスメーター前、車庫や自転車のかごなど、さまざまな方法から選ぶことができる。荷物が届く直前まで何度でも受け取り方法を変更できるのが、顧客にとっての大きなメリットだ。

他方、荷物の受け取り場所に着目して提供を開始したのが、英国のスタートアップであるDoddle Parcel Servicesと協業してスタートしたEC商品受け取りサービスだ。同サービスでは、購入者は日々の生活で訪れることの多いドラッグストアやスーパーマーケットなどを荷物の受け取り場所に指定できる。また、同社の返品システムとヤマト運輸の配送ネットワークを連携させたEC事業者向け「デジタル返品・発送サービス」も展開するなど、顧客の利便性の向上を図っている。

個人だけでなく、法人向けの物流事業も強化している。例えば、ヘルスケア領域では、他社と連携し、昨今注目を集めるオンライン診療において、医薬品を共同配送するスキームを構築。決済や入金確認、資材の用意、送り状作成などの配送前準備から、受け取り確認や入金管理などの配送後の連絡までヤマトがサポートを行うという。