富士通は2月24日、オンラインで記者会見を開き、5G SA(Stand-Alone)方式対応のソフトウェアで仮想化した基地局(仮想化基地局)を新たに開発し、2022年3月から通信事業者向けに検証用としての提供を開始すると発表した。仮想化基地局は2022年2月28日~3月3日までスペインで開催する「MWC Barcelona 2022」に出展を予定。なお、同製品の技術には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(c1)仮想化基地局制御部の高性能化技術の開発」の成果の一部を活用している。

オープン化が加速する基地局市場

仮想化基地局は、高い通信性能や高キャパシティ、最適な演算リソースの配分を実現する同社の独自技術により、従来の仮想化基地局の課題となっていた低消費電力化と高性能化の両立を実現したという。これにより、高品質かつ安定した通信を提供しつつ、従来の基地局と比較してシステム全体のCO2排出量を50%以上削減することを可能としている。

  • 仮想化基地局を用いたシステム全体のCO2排出削減イメージ

    仮想化基地局を用いたシステム全体のCO2排出削減イメージ

近年、汎用CPUの性能向上や、通信における無線信号の処理や制御技術(テレコム機能)のソフトウェア化などの技術の進化を背景に、汎用サーバで構成され、要件ごとの専用ハードウェアの開発が不要な仮想化基地局の導入に注目が集まっている。

また、O-RAN(Open RAN:相互運用可能でオープンな無線アクセスネットワークの仕様策定を推進する標準化団体「O-RAN ALLIANCE」の仕様のこと)などに代表される無線基地局仕様のオープン化の潮流とともに、柔軟な機器調達と基地局構築コストの削減を通して、携帯電話の利用者のニーズやユースケースに応じた自由度の高い通信サービスの提供が期待されているという。

富士通 執行役員常務 システムプラットフォームビジネス部門副部門長 ネットワークビジネス担当の水野晋吾氏は「近年におけるモバイル基地局市場の状況は、5Gの導入が進むにつれてモバイル通信に期待されるさまざまニーズに柔軟かつ迅速に対応するため、オープン化の動きが加速している。2025年には従来型の基地局市場の中で、20~30%が仮想化を含めたオープンシステムに置き換わると想定している。オープン化に伴うマルチベンダー環境での標準化団体としてO-RAN Allianceが設立され、当社もO-RANに準拠した製品の開発、市場の活性化に取り組んでいる」と話す。

  • 富士通 執行役員常務 システムプラットフォームビジネス部門副部門長 ネットワークビジネス担当の水野晋吾氏

    富士通 執行役員常務 システムプラットフォームビジネス部門副部門長 ネットワークビジネス担当の水野晋吾氏

  • 基地局市場はオープン化が加速しているという

    基地局市場はオープン化が加速しているという

同社のネットワーク技術は、エンド・ツー・エンドで仮想化されたクラウドネイティブ・ネットワークを世界中で利用可能にすることを目指している。O-RAN市場における同社の実績としては、独Deutsche Telekom、米DISH、韓国KT Corporation、NTTドコモ、KDDIなど、グローバルの大手モバイルキャリアが同社のO-RAN製品を評価・採用し、そのほかにもモバイルキャリア8社、エコシステムパートナー7社以上とプロジェクトが進行しているという。

専用機器で構成されないこれまでの仮想化基地局は、従来型の無線基地局と比較して、性能効率が低下する傾向があり、同等の性能を維持するには多くのハードウェア機器を組み込む必要があることから、結果的に消費電力などの環境負荷が高まってしまう課題がある。

さらに、安定性や冗長性においても、従来の仮想化基地局ではキャリアグレードの通信品質を十分に担保できない場合があったと同社は指摘している。

仮想化基地局は5G SAの特徴

今回、同社が提供開始する仮想化基地局は5G SA方式に対応したO-RAN仕様に準拠している。主な特徴としては「高性能、高キャパシティを実現する独自カスタマイズ」「ダイナミックリソースアロケーション技術」「オートセルリプランニング技術」の3点を挙げている。

独自カスタマイズは、ソフトウェアの制御方式を改善することで、高い性能・キャパシティを実現しており、通信速度の高速化を図るとともに通信可能な範囲を2倍から4倍に向上している。

ダイナミックリソースアロケーション技術は、地域や時間帯で変化する基地局の利用状況(通信量)に応じて、運用に必要なサーバの演算リソースを柔軟に変更可能とすることで、余剰なリソースを削減し消費電力を低減する同社独自のダイナミックリソースアロケーション技術を開発。

RANインテリジェント制御部(RIC:無線のリソース管理の最適化やオペレーションの自動化が可能なRANの制御部)、ネットワーク全体のオーケストレーションと管理を行うSMO(Service Management and Orchestration:ネットワーク全体のオーケストレーション、管理機能を統合したフレームワーク)を同技術と連携させることで、携帯電話利用者の移動やアプリケーションの利用状況を推定し、最適なリソース配置を実現している。

オートセルリプランニング技術は、AIで将来の通信量の変動を予測したうえで、独自の量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ」を用い、現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい、多数の基地局の電波が重なる環境下での無線装置(RU)と仮想化基地局(CU/DU)の組み合わせの中から最適な接続先を導き出す問題を高速に解くことで、最適な演算リソースの配分を可能にする技術となる。

ダイナミックリソースアロケーション技術とオートセルリプランニング技術について、富士通 理事 モバイルシステム事業本部長の谷口正樹氏が説明した。

  • 富士通 理事 モバイルシステム事業本部長の谷口正樹氏

    富士通 理事 モバイルシステム事業本部長の谷口正樹氏

ダイナミックリソースアロケーション技術に関しては「例えば、スタートアップではユーザー数が少なく、エリアを全国に展開するという流れがあるため、当初は少ないリソースで複数のセルを割り当て、ユーザーの拡大に応じて市ソースを増やしていくことを可能としている」と述べた。

また、オートセルリプランニング技術について同氏は「従来の技術では基地局単位で無線装置が割り当てられ、ユーザーに応じて消費電力の最適化を行うが、全体最適に課題がある。そこでデジタルアニータを用いることで基地局単位ではなく、複数の基地局を群と捉え、ユーザー数に応じて最適にリソースを割り当てることで、群全体の消費電力を抑える技術だ」と説明する。

  • AIとデジタルアニーラを活用して環境負荷の低減を図る

    AIとデジタルアニーラを活用して環境負荷の低減を図る

これらの技術を用いることで、従来の仮想化基地局の課題解決が可能となり、5G無線ネットワーク全体の最適化と設備、消費電力の削減を実現し、通信事業者の5G無線システムの総CO2排出量削減に貢献するとしている。

今後、2022年3月から通信事業者の検証用として汎用サーバ上で動作するソフトウェアの提供を開始し、フィールド試験を含めた各種検証を支援。また、2022年度中に各通信事業者の商用サービス網での展開に向けて、グローバルに提供開始を予定している。

そして、ソフトウェア機能のアップデートを順次行い、環境負荷低減技術を向上させ、2025年には従来型基地局システムと比較し、総CO2排出量を50%以上削減することを目指す考えだ。