NTT東日本は先週、同社グループの総合展示会「Solution Forum2022 ONLINE」を開催した。そのなかの井上福造社長の講演では、同社の非通信事業への取り組みついて説明した。

  • NTT東日本 井上福造社長

 事業領域を広げることが必要不可欠

NTT東日本は、光ネットワークや電話を提供する地域通信事業を担ってきたが、ユーザーニーズの多様化にあわせ、通信機能に、自社および他社の製品やサービスをセットにして提供するソリューション提案を加速。NTT東日本の井上社長は、「ここ数年、通信を使いながら、どんな解決ができるのかを模索してきた」とする。

同社では、営業担当者を「地域社会のコンシェルジュ」と呼び、顧客目線の価値観で、課題抽出や解決策の提案を目指してきたことを示しながら、「コロナ禍以前の地域社会の最大の課題は人手不足への対応であり、これがデジタル化をドライブしていた。当時は、『デジタル化=オンライン』ではなかったが、コロナ禍では非接触という要素が加わり、オンラインが必須となった。事業継続のために、いやおうなしにデジタル化、オンライン化に舵を切った企業が多かったが、しばらくすると従来の非効率さや、デジタルやオンラインの新たな力が見えてきた。最近では、社会全体がこの変化を前向きに捉え、『デジタル×オンライン』を前提に、事業や社会生活を見直す動きが進んでいる。通信はあらゆる事業や社会生活に必要不可欠な部品となってきた。通信だけでは、要望に応えられない。質の良いサービスを、より安く利用してもらうことが、NTT東日本の本業として重要になってきた」と述べた。

  • NTT東日本の地域における立ち位置

現在、非通信を含めたソリューション提供の要望は、半数近くになっており、「人手不足への対処」、「地域産業の活性化」、「魅力ある街づくり」、「地域アセットの有効活用」、「デジタル人材の育成」など多岐に渡っているという。

具体的には、「リモートワークを導入したい」という要望を入口に、「社員の自宅までサポートしてほしい」、「勤怠管理や就業規則の見直したい」というように、要望に広がっていくケースが見られている。

井上社長は、「さまざまな分野にパートナーをつくり、連携してソリューションを提供する、といったように、NTT東日本の事業領域を広げることが必要不可欠であると痛感している」と述べ、地域の期待に応えるためには、NTT東日本自らのDXへの取り組みで培ったノウハウや技術力を生かす「地域のスマート化を実現するDXソリューションの提供」、豊富なマンパワーの活用やグループのケイパビリティを生かした「地域の人手不足を補完するBPO」、保有する豊富なアセットやリソースの活用と地域のリレーションによって実現する「地域のアセット、人材を含めたシェアリングエコノミー」の3つの方向性を打ち出した。

3つの方向性

  • 地域に期待に応えるための事業領域拡大

ひとつめの「地域のスマート化を実現するDXソリューションの提供」は、通信と親和性が高く、NTT東日本の中立的立ち位置を生かして、マルチベンダーおよびマルチキャリア対応で展開。農業やeスポーツ、文化芸術といった分野ごとの専門会社を立ち上げた取り組みなどを通じて、各分野に最適なソリューションを提供するという。

2つめの「地域の人手不足を補完するBPO」では、コールセンターやオフィスマネジメントなどのケイパビリティを最大限活用する。ここでは、新型コロナウイルスのワクチン接種において、会場設営から申し込み受付、接種券の発送、実行管理までをワンストップで実施した例をあげた。

3つめの「地域のアセット、人材を含めたシェアリングエコノミー」においては、従来から通信局舎をデータセンターや店舗として提供してきた経緯に加えて、同社が持つ数万人のマンパワーや社用車、ドローンなども、地域に役立つアセットと位置づけ、地域社会のアセットと組み合わせて、社会課題の解決につなげる姿勢をみせた。

「地域密着は、NTT東日本の大きな強みである。地域の特性にあわせて、分野ごとに多様なソリューションを提供し、構築から運用までをワンストップで任せてもらえる企業になることを目指す」と述べた。

NTT東日本が、ソリューションを提供する上で心掛けていることが2つあるという。

ひとつは、導入のハードルを低くすることである。具体的には、コストを抑え、スピーディに実行できることを重視しているという。もうひとつは、状況の変化に応じて見直していく「成長するソリューション」を提供することだ。まずは試してみることからはじめ、取り組みを進めながら、よりよい方向にブラッシュアップする手法を採用していくことになる。

これらを実現するために、東京・調布市の研修センターを、さまざまな技術を検証する拠点を「NTT e-City Labo」として整備した。

当初はローカル5Gのオープンラボを設置したが、その後はさまざまな取り組みを追加。今後はスマートシティを体感できるショーケースに進化させる考えだ。

  • 「NTT e-City Labo」

さまざまな機能を地域エッジに拡充

講演のなかでは、NTT e-City Laboのさまざまな取り組みについて、時間を割いて紹介した。

通信ネットワークでは、スマート農業やスマートファクトリー、スマートシティなどにおいて、センサーやカメラなどのIoTから得られる膨大なデータを遅延することなく、セキュアに処理するために、地域単位でエッジコンピューティング拠点を構築していく「REIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area network) 」プロジェクトを紹介。これにより、地域の企業などが高額なコンピューティング機器を共有でき、導入のハードルを大きく下げることができるとした。「さまざまな機能を地域エッジに拡充し、センサーなどの端末までを含めた保守、運用をトータルでサポートしていく」という。

  • 「REIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area network) 」プロジェクト

地域エッジの機能として、映像解析サービスを第1弾として実装。カメラで撮影した映像をAIで解析し、マーケティングに生かすといった活用ができるという。2022年春から提供を開始する予定だ。「映像解析のニーズは高いが、自前で構築すると初期コストが非常に高額であり、保守や運用の手間もかかる。これが導入のハードルになっている。地域エッジにAI機能を実装し、現在使用しているカメラを接続するだけで利用できる手軽なサービスとして提供していく」という。

  • 映像AIサービス

さらに地域エッジには、企業ごとの専用機能の実装、連携などのアプローチを進めていくほか、大学や金融機関などとの連携も進めていくという。すでに清水建設との協業において、建物OSである「DX-Core」を活用し、監視カメラやエレベータ、自動ドア、空調をロボットと連携させた建物の運用、管理を行っている事例を示した。

「通信の遅延やセキュリティといった課題を、地域エッジの特徴である低遅延、高セキュリティによって解決できる」とした。

  • パートナー企業連携

なお、ローカル5G技術については、自動運転の取り組みを新たに開始。現在は、前進、停止、再発進といった動きを遠隔操作で行うだが、将来の遠隔監視による自動走行システムの実現に向けて取り組むという。

また、東京都と東京大学との協定をベースに、東京都のDX推進センターで、ローカル5Gの実証実験を開始していることに触れ、「ローカル5Gは、コストがかかることから大企業での導入が中心だったが、中小企業のDX推進に役立たせることが大きな課題。実証実験では、NTT e-City Laboの5Gコアを共有しており、これが、中小企業が導入する際のコスト負担軽減につながるのではないかと考えている。共同利用の仕組みを発展させることで、2022年春には、ローカル5Gをマネージドサービスとして提供することを予定している」とした。これは、「ギガらく5G」と呼ばれるもので、マネージドローカル5Gサービスとして提供。5Gスタンドアロン環境を、月額30万円程度から導入できるようになるという。ネットワーク設計から電波の免許取得、構築、運用、サポートまでをワンパッケージで提供。専門知識が不要であるほか、用途にあわせて、通信容量の拡大、高速化などのカスタマイズができるメリットもある。「ローカル5Gをマネージドサービスによって、中小企業のDX推進につなげたい」と述べた。

農業分野での取り組み

一方、地域の人手不足解消については、農業分野での取り組みを事例にあげた。NTT東日本では、2019年に食農分野に特化した子会社としてNTTアグリテクノロジーを設立。大規模なハウスエンジニアリングや、農作物の生産ノウハウを蓄積してきた。2021年からは、東京都との連携協定に基づき、NTT e-City Labo内に、実証ハウスを用意し、トマトの栽培を開始。「デジタル技術を活用することで、農業未経験のスタッフでも、週休2日で、おいしいトマトを作れるか」をテーマに実証実験に取り組んでいるところだ。

  • 農業分野での取り組み

「実証実験の成功の鍵は遠隔での営農指導である。立川市の農林総合研究センターと接続し、遠隔指導に取り組んでいる。課題は遠隔でトマトの色がわかるかどうかという課題があったが、色が鮮明に見え、リモートで指導ができる水準であるという評価を得ている」という。

このトマトは、調布市の小学校に、食育の一環として給食の食材に提供。最先端テクノロジーによる農業が行われていることや、地産地消の学びに貢献したという。

また、JA全農との連携により、高知や佐賀と結んだ遠隔指導の実験も開始しているという。

さらに、フードロスの課題解決に向けては、超小型のバイオガスプラントをNTT e-City Labo内に設置。2022年2月から稼働させる予定だ。圃場の廃棄物や社員食堂の食べ残しを活用し、栽培に必要となる電力や肥料の一部を作る取り組みであり、地域の脱炭素化にも貢献できるとしている。この成果は、共同利用型バイオガスプラントとして、地域やコミュニティで利用できるようにしていくという。

  • 超小型のバイオガスプラント

そのほか、水産業分野では、2022年1月から、岡山理科大学といちいとともに、IoTと水処理技術を活用した陸上養殖の実証実験を福島市で開始。世界初となるベニザケの陸上養殖の事業化に挑んでいる。

  • 陸上養殖の取り組み

スマートストアの取り組み

NTT e-City Laboでは、非接触型のスマートストアにも取り組んでいる。

2021年に本社内に設置した無人店舗は、商品のバーコードをスマホアプリで読み取り、クレジットカードで決済するセルフレジ型であったが、NTT e-City Laboに設置した店舗はウォークスルー型であり、映像をリアルタイムに処理し、AIで判定。商品を手に取って、店を出るだけで決済できるという。

また、AIを活用して、天候や曜日ごとに発注量を予測し、在庫の適正化を実現。消費期限が近づいた弁当やおにぎりは、タイムリーに値下げするとともに、利用者のスマホにも配信。売上げ拡大とフードロスの削減につなげるという。

「社内に売店を持っている企業や、病院、大学などの店舗運営者を対象に、効率化のためのソリューションとして展開したい」という。

  • 地域スマートストア

一方、NTT東日本では、中小企業の相談窓口となっている地方銀行や信用金庫と連携を強化していることについても触れた。ここでは、オンラインセミナーの共同開催、リモートでのコンサルティングなどで連携。信金中央金庫が開発したコミュニケーションツール「しんきんダイレクト」の拡大を支援し、コロナ禍での中小企業支援体制の維持につなげている。「地方銀行、信用金庫とは、お互いに地域に根ざす企業としての連携を深めながら、地域の社会課題解決に向けた取り組みを進めていく」とした。

また、事業をより深く理解したDXによる提案を進めるためには、コンサルティング機能が不可欠だとし、2022年1月31日に新たな子会社として、NTT DXパートナーを設立すると発表した。

加えて、「地域の要望に応えていくために、AIやクラウド、セキュリティなどの先進技術やDXツールの活用など、幅広い分野の知識を持ったDX人材の育成を強化している。また、NTT東日本の社員が、地域のコンシェルジュとして機能するためには、人事交流、研修、副業などを通じて、業界特有のスキルを習得する必要がある。DX人材の不足に困っているお客様に対しては、ICTサポートによって応えてきたが、これからはDX人材の育成で応える必要がある。電話会社だったNTT東日本が、どのようにスキル転換を図ったのかを知りたいという声もある。NTT東日本の人材育成プログラムを地域に提供する準備も進めている」と述べた。

すでに、7つの大学に対して、DX研修プログラムを提供。初心者にもわかりやすい内容だと好評であり、ここでのフィードバックを反映しながら、地域社会向けに人材育成プログラムを提供していくことになる。

サステナブルな地域社会の実現に向けて

最後にサステナブルな地域社会の実現に向けた取り組みについて説明した。

NTT東日本では、業界の枠を超えてさまざまな情報を共有する取り組みを開始しているほか、サービスエリアの開放、支援要員の宿泊施設の確保、IoTセンサーの共同設置などにおいて、あらゆる企業と連携していることを紹介。さらに、NTT東日本では、「オートコール」ソリューションを開発し、AIが読み上げる形で情報を一斉配信。災害時には避難指示を読み上げるなど、高齢者が使い慣れた電話機で情報を受け取れるようにしているという。このソリューションは、普段はカメラやセンサーと連携することで、防災や防犯、見守りにも活用できるという。現在、複数の自治体と実証実験を行っており、早期の社会実装を目指す。

  • 「オートコール」ソリューション

「異常気象といわれていた自然災害が日常化してきた。これからは常に自然災害や事故を想定して、社会全体で早期復旧に向けた準備をする必要がある。地域のレジリエンス向上に貢献したい」と述べた。

NTT東日本では、目指す社会の姿として、地域循環型スマートシティを掲げている。

「昔から、地域経済の基幹産業は農業であった。そして、エネルギーや観光資源、工業技術などの地域にある魅力的なリソースをDXによって生産性を高め、育てていけば、地域循環型スマートシティの形が実現できる。DXを進める上で集積していくデータは、地域の重要な資産として、地域の人たちとの合意を図りながら、地産地消のポリシーで活用していくことが大切である」としながら、「地域の課題解決に向けた取り組みを通じて、持続的な発展が可能な地域循環型社会の実現を目指す。今後も、地域の方々と議論を深めながら、地域ごとに、具体的で実践的な取り組みを進めていきたい」と語る。

  • 地域循環型スマートシティ

NTT東日本が、非通信分野の事業に積極的に取り組むことで、地域に根ざしたソリューションカンパニーとしての役割は、ますます進化することになりそうだ。

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220125-2256457/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220125-2256420/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220125-2255987/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220124-2255923/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220121-2253716/