ITベンダーには丸投げせず「一緒に作る」

前述したように、「おいしくて安い」を実行するため、ムダは徹底的に省いているが、ITにかける予算もそれほど多くないそうだ。だから、「コストがかかる大手ベンダーではなく、パートナーとして、われわれと一緒にシステムをつくってもらえるベンダーにお願いしていますが、丸投げはしていません」と、小河氏は話す。

デジタル化が進んでいるスシローだが、小河氏は「新しいからといって、デジタル技術を導入しているわけではありません。われわれの目的を達成するために、新しいものが役に立つならば活用しようというスタンスです」と説明する。

また、新しい施策に取り組むにあたっては、全国の店舗に5万人いるスタッフが「便利になる」「ラクになる」ことを最優先しているそうだ。「店舗はお客さまに対するインタフェースになります。だからこそ、店舗スタッフの願いはできるだけ叶えたいと考えています」と小河氏。

ただし、以前スタッフの希望に沿って機能を作りこみすぎて、システムが複雑になってしまったことがあったそうだ。だから、「改善はしますが、すべての要望には応えないようにしています。システムが複雑になると、スケーラビリティが損なわれます」と小河氏は話す。

消費者の動きは完全に読み切れるのものではないからこそ、スケーラビリティが重要になってくる。仮に新型コロナウイルスが終息したら、客足の傾向も変わるかもしれず、その時はまた別な施策を打つ必要が出てくるだろう。

アフターコロナを見据えて、先手必勝

小河氏に、コロナ禍で変わったことを聞いてみたところ、「システムの導入が速くなりました」という答えが返ってきた。一般的に、コロナ禍で業績が苦しい企業は設備投資を緩めるかもしれない。だが、FOOD & LIFE COMPANIESでは、CEOの方針の下、アフターコロナを見据えて当初よりも積極的に取り組みを進めているという。小河氏は「計画が遅れることなく進められることで、将来にきいてくるかもしれません」とも語っていた。

また、小河氏は今後の業務改革について「これまではお客さまがいらっしゃる店舗を中心に進めてきましたが、本社業務などバックオフィスについて、AIを活用して洗練された業務にするといった取り組みは行ってきませんでした」と話す。「今後は、バックオフィスの業務をリーンに回していくことが課題となります。そして、今、大きく一歩を踏み出しました」と小河氏。

働き方改革についても店舗を中心にやってきたが、これからは社内全体の働き方も考慮し、店舗以外のデジタル化も進めていくとのことだ。

話を聞き終えて、小河氏は「コロナ禍の取り組みについて聞かせてほしいと言われてお話しするのですが、特別な内容ではないので、いつも申し訳ないと思っています」と話していた。スシローとしては、新型コロナウイルスが登場する前から取り組んでいた「自動化」「省人化」「効率化」を進めるためのさまざまな施策が非接触であり、新型コロナウイルスの感染対策として有効だったということだ。

デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるにあたり、テクノロジーありきではなく、自社の目標を明確にし、それを達成するためにテクノロジーを活用していくことが大切と言われているが、スシローの取り組みはまさにそれを体現していると言える。

自社の戦略にのっとっての施策だからこそ、導入がスピーディーであり、業績にも反映されているのだろう。スシローの今後の挑戦に注目したい。