衰退した別荘地の再生は被災者受け入れから

宮城県南部、蔵王連峰の裾野にあるマウンテンリゾート地として知られる蔵王町にあるのが「蔵王山水苑」だ。総面積25万坪という広大な天然温泉付きリゾート分譲地の開発分譲を行い、現在も管理会社として活動しているNコーポレーションは、空き家となった別荘の活用など新たな取り組みを行っている。

過去の好景気時代に全国でさまざまな別荘地開発が行われたが、ブームの収束や景気悪化、世代交代による相続などにより空き家や利用されない建物も増えているという。蔵王山水苑も衰退する別荘地の有効活用に向けた取り組みを、2010年前後から行ってきていた。

「別荘をリタイア後の移住先として利用する方が徐々に増えてきていたので、定住地としてインフラを整備することで住宅地を兼ねる別荘地としてこれから価値を増すのではないかと感じて準備を進めていました。また2010年には、災害時に大規模災害被災者を別荘地で受け入れることを目的として、みやぎ蔵王別荘協議会を設立し、行政とも防災協定を締結し、2011年9月に調印式を行う予定でした」と語るのは、Nコーポレーション 蔵王事務所長の相澤国弘氏だ。

  • Nコーポレーション 蔵王事務所長 相澤国弘氏

この計画のために、当時の別荘オーナーに被災者を受け入れるかどうかのアンケートを実施。準備が進んでいたところで東日本大震災が発生し、実際に被災者を受け入れることになったという。

「受け入れOKというオーナーの建物だけを利用したのですが、多くの被災者が別荘に身を寄せることになりました。また、オーナーが被災して生活拠点を別荘に移したケースも多くありました。今回のコロナ禍でも、同じように生活拠点を移した人が多いです。那須や軽井沢も同じですが、これまで別荘といえば売却が中心だったところ、最近は購入が増えています。避難先として別荘を持ちたい人が増えたのではないでしょうか」と相澤氏は語る。

未利用別荘を福祉や宿泊に活用して立て直し

別荘を持つことは、住居とは別に建物の維持管理コストがかかることを意味する。そのため、「好景気時に購入したが維持できなくなった」「財産を受け継いだ若い世代では維持が難しい」というケースは少なくない。そこで解決策のひとつとして考えられたのが、未利用別荘のレンタルだ。

震災対応が落ち着いた後、蔵王山水苑では複数の事業を並行して立ち上げている。主に福祉事業と宿泊事業だ。福祉事業としては、社会福祉法人のはらから福祉会と連携し、障害者の教育施設でもある福祉事業所「はらから蔵王塾」を苑内に誘致し、同施設では障害者の自立を目指して介護や農業の体験機会を作るとともに、地元農家の後継者不足問題にも役立てている。

宿泊事業は、当初民泊として別荘の貸し出しを開始したが、稼働日を増やすために旅館業登録も行い、さらに国の施策に対応する形で地元農家での農業体験も組み込んだ「農泊」も行っている。

「宿泊施設としての集客は事業のスリム化のため、100%外部のマッチングサイトに頼っています。メンテナンスや人の出入りの管理は管理事務所が持っている機能ですから、それを生かして宿泊事業を行っています。チェックアウト後の清掃は、地域の高齢者や障害者など、フルタイムでは働けないけれど仕事をしたいという人が多くいますので、そのニーズをアルバイトで吸い上げています。福祉施設も含めて、別荘地の中だけで常時150名を超える雇用を生み出しています」と相澤氏。別荘地という、外の人間が利用する施設を地元の利益につなげている。

そして、普段利用しない別荘を宿泊施設として貸し出すことで、オーナーには収入が発生するため、維持コストの埋め合わせができることから手放す人が少なくなるという狙いも達成できているという。また、宿泊用の貸し出しは任意で停止できるため、オーナーが利用したい時にも困らない。しかも、日常的に宿泊利用されているため常にメンテナンスができており、いつでも快適に利用できるという仕組みだ。

インバウンドのキャッシュレスニーズを受け「Airペイ」を導入

事業開始時はインバウンドニーズが高かったことから、マッチングサービスにもインバウンド向けの要望を出していた。別荘地の中に商業施設の開設が認められていないため、コンビニエンスストアなどは管理事務所周辺にまとまっている。管理事務所自体も商店を兼ねた役割を持ち、宿泊客向けのサービスを一手に引き受けている状態だった。その中で目立ったのが、キャッシュレス決済へのニーズだったという。

「個人旅行に慣れた欧米からの宿泊客が多かったのですが、チェックインや買い物時にキャッシュレスを使いたいというニーズが強くありました。そもそも、別荘地としては管理機能が主体で、現金の取り扱いすら必要なかったので、そこから徐々に広げてクレジットカードへのニーズに対応しようと考えた時に、宮城県のキャッシュレス推進事業のオフィシャルパートナーだった「Airペイ」とご縁があって導入しました」と、相澤氏は振り返る。

  • 「Airペイ」の導入により、キャッシュレスと非接触対応を実現

インバウンドニーズへの対応を目的に導入した「Airペイ」だったが、2020年からは突如発生したコロナ禍への対応策としても活用されている。

「「Airペイ」は接触防止の点でも役立っています。検温や聞き取りもしますが、お互い感染の有無はわかりません。接触しないことが事業運営にも役立つので、意義があると思います。お客さまとわれわれの双方の安心のために、今後も非接触決済は普及するでしょう。われわれのスタッフもすぐに「Airペイ」の操作に慣れましたし、問題なく利用できています」と、相澤氏は「Airペイ」がコロナ禍を受けて現在も役立っていることを語った。