新型コロナウイルス感染症の影響により、社会や産業のさまざまな局面でこれまでのやり方が変わってきている。ECサイトの台頭により変化を迫られていた百貨店も例外ではない。本稿では、デジタル技術を活用してニューノーマル時代のビジネスにチャレンジするそごう横浜店の取り組みを紹介する。

非接触で足のサイズの計測を可能に

そごう横浜店は、横浜駅東口から徒歩3分という立地にある、地下2階・地上10階と屋上から成る巨大な百貨店で、売り場総面積は約8.5万平方メートルに及ぶ。長く横浜市民に親しまれ、周囲のオフィスや観光客も足を運ぶ。

そのそごう横浜店で、2020年11月より非接触で計測ができるサービスの導入が進んでいる。

最も新しい非接触計測システムが、地下1階の婦人靴のフロア「レッグ&シューズステーション」に設置した「MY SIZE studio」だ。パンプスとカジュアルシューズを探す顧客向けとして導入した。このシステムは装置に乗るだけで2Dデジタル技術を活用して足の幅・長さを計測可能で、自分の足に合う履き心地のパンプスを時短で探せるよう、全日本革靴工業協同組合連合会が開発したサービスの中で利用できる。計測までの時間は15秒ほど。関東の百貨店としては初の常設での導入となる。

  • 約15秒で2Dデジタル技術を活用して足の幅・長さを計測できる装置 撮影:マイナビニュース

    約15秒で2Dデジタル技術を活用して足の幅・長さを計測できる装置

得られた正確なサイズをもとに、サイズ、幅、ヒールの高さの組み合わせが全て異なる80種類の「スケールパンプス(全日本革靴工業協同組合連合会が提供している革靴のサイズ基準となる靴)」から自分のサイズに近いものを履いて、最もピッタリくる「マイサイズ」を見つける。

  • 「レッグ&シューズステーション」には試着可能な靴が80種類用意されている

「マイサイズ」がわかったら、エリアに置いてあるタブレットにそれを入力して、自分の足に合う商品を選択できる。もちろん、色、柄、つま先のデザイン、価格帯などのフィルタリングで絞り込むこともできる。そうやって出てきた商品の中から試したいものを「お気に入り」としてマーク、フロアのスタッフに知らせてその靴のあるコーナーに案内してもらう、という流れだ。

  • タブレットに「マイサイズ」を入力すると、フロアで販売されている靴から自分の足に合うものを検索することができる

導入して1カ月足らず、一日約30人、多い時は50人の利用があるという。以前からシューフィッターのアドバイスを受けられることで人気のフロアだが、シューフィッターが計測器と巻尺を使って正確なサイズを計測し、ピッタリくる靴を探すという作業は1時間かかることもあった。計測部分を非接触かつデジタル化し、一方でその場で商品を触ってみて試すというリアルならではの接客ができる。

また、マイサイズと好みを基準に、効率よくさまざまなブランドから商品を探すことができる点も魅力だ。婦人靴売り場のコアの顧客は20代から50代前半と幅広い。取り扱うブランドも多いが、MY SIZE studioはバークレー、イング、卑弥呼など36ブランド、合計約1万点の商品から選ぶことができる。ブランドや商品についての知識が浅いスタッフを補うという役割も果たしているという。

シューフィッターの石田麻子氏(営業1部 婦人雑貨担当 婦人靴係 販売リーダー)によると、「もともと横浜店はパンプスのシェアが高かったが、効果が出ています」とのこと。「計測から始めるのが本来のステップですが、自分のサイズがわかっているお客様はスケールパンプスを試し履きしてサイズを決め、タブレットでの商品絞り込みを行うことも多いです」と話す。

  • そごう横浜店 営業1部 婦人雑貨担当 婦人靴係 販売リーダー 石田麻子氏

20~30分かかるオーダースーツ採寸が30秒に短縮

紳士服のフロアでは、2020年11月より2種の非接触によるAI採寸システムを導入している。

1つ目の売り場はオーダースーツの「DIFFERENCE」だ。専用のアプリ「D MEASURE」に性別、身長、体重、好みのシルエットなどを入力し、服を着た状態で正面と横の写真を撮影して送信すると、60秒もしないうちに自分のサイズがわかる。

  • 「DIFFERENCE」での採寸の様子。iPadで撮影してもらうだけで、採寸が行える

項目は多岐にわたり、首周り、肩幅、肘丈、胴回りなど細かい採寸データを取得できる。それをDIFFERENCEに送信すると、テイラーが反映されたデータを必要に応じて微調整しながら接客。DIFFERENCEのアプリを使って、顧客の好みのスタイルや素材などを聞き、トレンドなども取り入れながら300種類以上ある生地の中から提案ができる。

D MEASUREは店内に置いているタブレットにインストールされているものを使う場合もあれば、顧客自身が自分の端末にインストールして使うこともできる。

DIFFERENCEがD MEASUREを使った採寸を導入したのは2018年のこと。路面店をはじめ他の店舗で提供しており、11月のそごう横浜店オープンに合わせて利用できるようにした。

リージョナル マネージャーの飯島浩平氏は「テイラーがメジャーを使って採寸すると、初回で20~30分はかかります。この部分を非接触でできるうえ、かかる時間も1分足らずです」と語る。飯島氏によると、スマホアプリを自分の端末にインストールすれば自宅で採寸できるという利便性も好評だという。実際、D MEASUREのユーザーは年代を問わず、多くの人に利用されているそうだ。

  • ディファレンス リージョナル マネージャー 飯島浩平氏

DIFFERENCEでは女性のオーダースーツも扱っており、D MEASUREは2020年11月より女性にも対応した。夫婦で来店するケースもあるそうだ。