居心地よさを追求する人気銭湯「小杉湯」

東京は高円寺にある銭湯「小杉湯」といえば、銭湯好きにはよく知られた存在だ。3代続く歴史もさることながら、単なる入浴の場ではなく交流の場としてさまざまなイベントも開催。現在は、熱い風呂と水風呂を交互に楽しむ「交互浴の聖地」と呼ばれている。

「『コンサートなどを開催していた銭湯でしょう』と言われることが多いのですが、それは大分昔の話。今は日々を大事に、初代が掲げた『綺麗で清潔な風呂を毎日提供する』という基本に徹しています。さらに、2代目からは気持ちよく滞在してもらう場にすることも目指しているので、いかに居心地よくするかの工夫を凝らしています」と語るのは、小杉湯の菅原理之氏だ。

  • 小杉湯 菅原理之氏

高校生から70代までと、年齢層が幅広い従業員の多くは、元利用者だ。コアなファンが自ら運営側へ回るという形で、現在は25名が働いているという。菅原氏自身も銭湯という、私的なビジネスでありながら公衆衛生の担い手として公的な使われ方をする場に心惹かれて、外資系広告代理店という異業種から転職した身だ。

「感覚的な情報」の答え合わせのための「Airレジ」

小杉湯では、以前から心地よい「場」作りの取り組みとして、従業員間での気づきやアイデアを共有したり、週に1度は普段手の回らない部分に注力して、POPの更新や導線の見直しを行ったりしていた。そうした取り組みの一環として、2019年春に導入されたのが「Airレジ」だ。

「年齢層が幅広くITリテラシーの差も大きいことから、情報共有は引き継ぎノートという紙媒体で行ってきました。営業時間が長いため、社員だけでは全体を把握しきれない中、さまざまなスタッフの気づきやアイデアが集まることが大切ですし、社員が引き継ぎノートにコメントを返すことでコミュニケーションの手段にもなっていました。しかし、それはあくまでも感覚的なもので、『今日はとても混んでいた』『今日はこの商品がとても売れた』という報告も主観的なものでした」と菅原氏。

また以前は、番台で小銭を直接やり取りする昔ながらの方式をとっており、レジもないため売上全体の金額は見えても何がどれくらい売れているのかまで把握しきれていなかったという。

「銭湯はビジネスの基盤が弱いので、もっとしっかりさせたいと考えていました。それには、何がどれくらい売れているのかなど、売上の内容を把握する必要があります。Airレジを導入することで、感覚的な情報の答え合わせができることを期待しました」と、菅原氏は振り返る。

混雑や商品の売れ行きを把握・共有できるAirレジの効果

Airレジ導入後、売上内容の把握という効果はすぐに得られたという。「期待どおりのことができていますね。曜日ごとの客数も見えてきたので、対策を考えることも可能になりました」と菅原氏は語る。

飲食物の物販に関しても、漠然と感じていたことの「答え合わせ」に加え、予想と違った細部が見えてくることで次の手につなげることも可能になった。

「例えば現在、熊本のメーカーとコラボした商品を扱っています。クラフトビールや地方限定のアイスといった、普段食べているものよりも少し高額なご褒美感のある商品なのですが、これらが普段から置いているものよりも多く出ていることを確認できました。売上アップを目指す中で、ドリンクやアイスの存在は重要であり、データを分析することで需要に対応できます。また、担当する時間帯で感覚が違っていましたが、数字の情報を全員が共有できるのもAirレジのいいところです」と菅原氏。

現在の入湯料は470円と定められているため、売上増を狙うならば入浴用の雑貨や入浴前後に利用する飲食物の物販を増やすしかない。そのため、具体的な売れ筋商品や売れ行きの把握が必要だったのだが、これがAirレジ導入で達成できたという。

  • Airレジのデータを見ながら、新たな施策を考える

コロナ禍でキャッシュレス対応を決めAirペイを導入

スタッフの創意工夫とAirレジの正確な数字という組み合わせで新たな取り組みを走らせ始めた小杉湯だったが、2020年7月には次の一手として「Airペイ」を導入した。

「これは、新型コロナウイルスへの対応を目的としたものです。銭湯は公衆衛生のための施設ですから、閉めるわけには行きません。自宅に風呂がない人、たまたま風呂が壊れてしまった人、1⼈での⼊浴に不安がある人などのために、営業を続けなければならないのです。そこで、営業を続けるからには対策を講じなければならない中、キャッシュレス対応が必要だと考えました」と、小杉氏は振り返る。

緊急事態宣言中でも従来の4割は客数があったという小杉湯は、利用者に必要とされている。その中で、少しでも接触機会を減らすツールとして導入されたAirペイは、予想外にスムーズな利用を進められたという。

  • 高齢スタッフもAirレジを使いこなす

「番台に座る担当者は若い人が3分の1程度で、残りは60代以上です。高齢スタッフが新しいツールになれるのは大変かと思いましたが、比較的スムーズに使ってもらっています。もちろん、教え方も工夫しています。『〇〇ペイ』が多いので、『こう言われたらここを押す』など、具体的に指示する独自の表を作ったり、かざすだけでいいからとアドバイスしたりしています。お客さまも処理が終わるまで待ってくださるので、問題なく利用できています。高齢スタッフも、今では全然困らないと言っていますね」と小杉氏は語る。