熊本大学とオジックテクノロジーズは5月21日、血液中に含まれるわずかながん細胞を簡便に分離・捕捉することができるマイクロフィルタデバイスを開発したことを共同で発表した。

  • がん検出

    約50億個もの赤血球や白血球などの血球細胞がいる1mLの血液中において、5個しかないCTCを検出できる性能を持ったマイクロフィルタデバイス (出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、熊本大大学院 先端科学研究部 先端工学第三分野の中島雄太准教授、同・大学院 先端科学研究部 生体・生命材料分野の北村裕介助教、同・大学院 生命科学研究部 消化器外科学の馬場秀夫教授、同・岩槻政晃診療講師、オジックテクノロジーズとの研究チームによるもの。詳細は、国際分析化学誌「Talanta」に6月1日付けで掲載されるのに先立ち、オンライン版に掲載された。

がんに罹患した人の血液には、がんの原発巣から剥離したがん細胞(CTC)がわずかに混入していることが知られている。しかし、その量はごくわずかだ。赤血球や白血球などの血球細胞が、血液1mL中に50億個ほど存在するのに対し、CTCは数個~10個程度といわれており、それを分離し、検出するのは困難とされてきた。これまでにもCTCを検出するデバイスは開発されてきたが、高額な装置や試薬が必要という課題があり、実用的ではなかったという。

そこで研究チームは今回、大型の装置を必要とせず、安価かつ簡便にCTCを分離・検出することを目的とした独自のマイクロフィルタデバイスの開発を試みることにしたという。

そして開発されたデバイスは、血液を送液する際の流体力によって動的かつ3次元的に変形する点が特徴。また、標的分子に対して抗体のように特異的かつ強固に結合する「核酸アプタマー」を利用することで、サイズ選択的かつがん細胞のみを捕捉する「アフィニティ」(本来の意味は結合しやすいこと)選択的ながん細胞の分離・検出を実現したという。

今回開発されたマイクロフィルタは、CTCだけでなく、赤血球や白血球などのすべての血球細胞を意図的にまとめて一度“目詰まり”させる点が大きな特徴で、それから血球細胞だけを放出することで、がん細胞だけを残し、検出するという仕組みだという。

  • がん検出

    血液中の微量なCTCを検出する方法のイメージ (出所:共同プレスリリースPDF)

今回開発されたデバイスを用いて、健常者の血液サンプル1mL中に異なる濃度でCTCを混入させて検出能の評価が行われた結果、1mL中に5個しかCTCが混入していない場合でも、検出できることが確認されたとする。

また、マイクロフィルタ上には血球細胞はほとんど残っておらず、98%以上の除去率を達成し、CTCのみをターゲットとした高い選択的検出能を持つことも証明されたほか、今回開発されたデバイスと、既存のがん検出装置との比較評価を実施したところ、既存装置よりも高い精度でがん細胞を検出できることが明らかになったという。

研究チームによると、今回のデバイスは約10億分の1の割合でしか存在しないCTCを検出することにも成功したことから、CTやPETなど、画像検査では検出しきれないがんの早期診断や術後の経過観察、再発のモニタリング、オーダーメイド治療など、がんの診断や治療に対する新しい技術となることが期待されるとしている。そのため、今後は実際のがん患者から提供された血液サンプルを用いることで、実用化や臨床応用を目指した検証を進めていく予定としている。