米国の宇宙企業「ロケットラボ」は2020年11月20日、打ち上げたロケットの第1段機体を回収する試験に成功した。

同社では、第1段機体を回収、再使用することで、打ち上げ頻度を向上させることを目指しており、今回の成功で実現に一歩近づいた。

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    打ち上げ後、太平洋に着水したエレクトロン・ロケットの第1段機体 (C) Rocket Lab/Peter Beck

エレクトロンの再使用化計画

ロケットラボ(Rocket Lab)は米国の宇宙企業で、小型・超小型衛星を打ち上げることを目的とした超小型ロケット(Micro Launcher)の「エレクトロン(Electron)」を開発、運用している。

エレクトロンはこれまでに16機が打ち上げられ、14機が成功。1号機の試験機のほか、今年7月にも13号機が失敗したものの、8月には早くも打ち上げを再開し、今回を含め3機連続で打ち上げを成功させるなど、高い信頼性をもつ。これにより同社は、小型・超小型衛星の商業打ち上げ市場におけるリーダーとして確固たる地位を築いている。

しかしその一方で、世界中で高まる小型・超小型衛星の打ち上げ需要に対して、ロケットの製造が追いつかないという課題があり、さらに米国を中心に、複数の企業が近い性能のロケットの開発を進めており、競争が激化することが予想されている。

そこで同社は2019年、エレクトロンの1段目機体を回収、再使用できるようにすることで、打ち上げ頻度を高める計画を発表した。ロケットの回収、再使用は、スペースXの「ファルコン9」ロケットがすでに実用化しているが、スペースXは打ち上げコストを低減するために再使用しているのに対し、ロケットラボはあくまで打ち上げ頻度を向上させることを目的とし、打ち上げコストの低減は副次的なものとされている。

また、回収方法も大きく異なり、ファルコン9はロケット・エンジンを逆噴射して着陸するのに対して、エレクトロンは、パラフォイル(翼の形をしたパラシュート)を使って降下し、ヘリコプターを使って空中で捕まえるという方法をとる。

ロケットラボはまず、2019年12月と2020年1月に行ったエレクトロンの打ち上げにおいて、第1段機体に誘導・航法システムや、テレメトリー・システム、コンピューター、そしてスラスターなど、回収に必要なハードウェアやシステムを搭載。実際に打ち上げ後の1段目機体を大気圏に再突入させ、実証試験を行った。さらに今年4月には、ヘリコプターからエレクトロンの第1段機体を模した試験機を投下し、パラフォイルを展開して降下しているところを、別のヘリコプターで捕まえるという試験も行っている。

そして今回、さらに一歩進み、実際の打ち上げを利用して、ヘリコプターで捕獲しないこと以外は、実際に想定している回収とほぼ同じ流れの試験が実施された。

エレクトロンの16号機、ミッション名「Return to Sender(差出人に返送)」は、日本時間2020年11月20日12時20分(現地時間15時20分)、ニュージーランドのマヒア半島にあるロケットラボ所有の発射場から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、離昇から約2分半後、高度約80kmの地点で第1段と第2段を分離。第1段はその後、大気圏への再突入に適した姿勢にするため、スラスターを使って機体を180度反転させた。そして大気圏に再突入し、ある程度降下したところで、機体を安定させつつ抗力で降下速度を落とすためのドローグ・シュートを展開。さらに高度1kmにさしかかったところで、メインのパラシュートを展開した。そして、発射場から数百km離れた太平洋上に着水した。

機体はその後、船で回収され、同社の施設へ運ばれた。今後、検査やデータの分析などが行われる。

なお、着水した機体も海水の洗浄やメンテナンスを行い、問題がなければ再使用することを計画しているという。着水時の速度は秒速約10mほどとされ、ロケットが海水で濡れる以外は、ロケットに大きなダメージが加わることは予想していないとしている。

ただ、あくまで最終的なゴールはヘリコプターによる回収であり、洗浄などをすることなく再使用することを目指している。

今回の成功に際し、ロケットラボの創設者でCEOのPeter Beck氏は「今日、チームが達成したエレクトロンの第1段機体の回収は至難の業でした。多くの努力が必要でしたが、エレクトロンを再使用可能なロケットにするための大きな一歩として、その成果が実を結んだことに興奮しています」とコメントしている。

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    エレクトロン・ロケットの16号機、ミッション名「Return to Sender(差出人に返送)」の打ち上げの様子 (C) Rocket Lab

ノーム・チョンプスキー、宇宙へ

一方、第2段はそのまま宇宙へ向けて飛行し、搭載していた約30機の衛星を所定の軌道に投入した。これにより、ロケットラボが打ち上げた衛星の総数は95機になった。

今回打ち上げられた衛星のなかには、スペース・デブリを除去する技術の試験機「ドラッグレーサー(Dragracer)」2機、海上監視システムの構築を目的とした衛星「BRO (Breizh Reconnaissance Orbiter)」2機、宇宙からのインターネットの実現を目指した衛星「スペースBEE」23機などが含まれている。

また、オークランド大学が開発した、ニュージーランド初となる学生衛星「APSS-1」も搭載。同衛星は地球の上層大気を監視し、電離層の乱れが地震と関連しているかどうかを調べることを目的としている。ロケットラボは、打ち上げを無償で提供することでプロジェクトを後援した。

さらに変わり種のペイロードとして、ビデオゲーム「ハーフライフ2(Half-Life 2)」などに登場するガーデン・ノームの「ノーム・チョンプスキー(Gnome Chompski)」のフィギュアも搭載された。これは「ハーフライフ」などを開発したValveの共同設立者であるゲイブ・ニューウェル(Gabe Newell)氏の発案によるもので、打ち上げ生中継の視聴者数1人につき1ドルを、小児病院に寄付するというキャンペーンのために製作、打ち上げられた。

また、このフィギュアはチタン製で、ロケットラボが将来の宇宙機の部品に使用することを目指した、新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしたとしている。

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    宇宙へ打ち上げられた「ノーム・チョンプスキー」のフィギュア (C) Rocket Lab

参考文献

Rocket Lab Launches 16th Mission, Completes Booster Recovery | Rocket Lab
Rocket Lab | Electron - satellite launch vehicle | Rocket Lab
Rocket Lab Successfully Completes Electron Mid-Air Recovery Test | Rocket Lab