慶應義塾大学(慶大)と東京自働機械製作所は9月28日、人と対話的に設計可能な「バイラテラルAI」の基盤技術の開発に成功したと発表した。

同成果は、同大理工学部システムデザイン工学科の桂誠一郎 教授、東京自働機械製作所設計開発部先端技術研究課の竹内一生氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、「IEEE Journal of Emerging and Selected Topics in Industrial Electronics」ならびに「IEEJ Journal of Industry Applications」の2誌の学術誌に掲載された。

現在利用が進んでいる一般的なAI技術は、計算過程の物理的意味の解釈が困難であり、生成されたモデルがブラックボックス化されてしまうという課題を抱えている。そのような課題を解決するため、共同研究チームは今回、設計者があらかじめ用意した要素群を用いて最適化を行う手法であり、AIによる演算結果を随時確認しながら対話的にモデルを生成することが可能な「バイラテラルAI」を開発した。

バイラテラルAIでは、以下のような手順でAIモデルが生成される。

1. 設計意図の入力

設計意図として、モデル学習の条件を入力。

  • モデルを表現するために使用する要素群
  • 評価関数
  • 最適化に用いるアルゴリズム

結果として技術者の培った知識・経験・技能を活かすことができる。

2. AIからの回答

設計意図に基づいて、AIが最適な演算結果を導出。これによりAI(コンピュータ)の大規模・高速演算が活かされる

3. 設計意図の再入力・モデルの階層的抽象化

AIの導出した演算結果を解釈し、必要に応じて新たに設計意図を入力。この結果、技術者の「知識・経験・技能」と、AIの「大規模・高速演算力」の相乗効果が生まれる

  • バイラテラルAI

    バイラテラルAIによる対話的設計の模式図 (出所:慶大プレスリリースPDF)

このような技術者とAIの対話的設計、ならびにバイラテラルAIではこの過程を繰り返すことで、階層的に抽象化を行うことが可能だという。この階層的抽象化は、AIによって生成されたモデルの物理的な意味や精度を確認しながら、より複雑で高精度なモデルを生成していける手法であるとのことで、対話した回数が増えるほどモデルの精度が向上することで、必要な精度と簡素性のバランスを確認しながら設計を終えることが可能だとしている。

さらに、生成されたモデルは物理的な意味が明確な数式で表されるため、ノウハウやスキルのデータベースとして蓄積することができるという。そして技術者の暗黙知、経験則や熟練技能などを物理的な意味が明確な数式に基づく形でモデル化することで、利用場面に応じてデータベースの随時更新も可能であり、こうしてデータベース化されたノウハウやスキルは、将来的なロボットや産業機械の作業領域拡大や、人材の育成・訓練などに利活用できるという。

  • バイラテラルAI

    バイラテラルAIは、技術者とAI自身を相互に成長させる (出所:慶大プレスリリースPDF)

また、生成モデルの物理的な意味が明確になることで、技術者の“新たな気づき”を生むことにもつながるという。つまり、技術者が成長しながらAIモデルを設計していくことができるほか、技術者がAIから得た気づきをもとに、AIへ新たな設計意図を入力することもできることから、AIも継続的に成長させることができ、領域を拡大していくことが可能とする。つまり、バイラテラルAIは技術者とAIがともに成長しながら、AIを導入・運用していくという新たなフレームワークを構築することができるものであると研究チームでは説明している。

なお、研究チームは今後、「バイラテラルAI」の製造現場への導入を行い、工場のインテリジェント化・自動化を推進し、ものづくりの持続可能性の向上を目指すとしている。