2020年度から小学校では、新たな学習指導要領がスタートし、英語やプログラミング教育が開始された。また、政府はGIGAスクール構想によって、一人1台の端末環境を実現すべく、多くの補助金を計上している。

この動きに対しNECは、4月から教育系出版社等の学習コンテンツ事業者と自治体、学校、塾、家庭をつなぐNEC教育クラウド「Open Platform for Education」を提供開始した。

そこで、NECの教育ICT化の取り組みをNEC 第一官公ソリューション事業部 初中等・教育産業マーケット担当 部長 田畑太嗣氏に聞いた。なお、インタビューはWeb会議にて行った。

NECは昨年の11月4日、教育系出版社等の学習コンテンツを提供する事業者と自治体、学校、塾、家庭をつなぐNEC教育クラウド「Open Platform for Education」を2020年4月より提供すると発表した。

  • NEC 第一官公ソリューション事業部 初中等・教育産業マーケット担当 部長 田畑太嗣氏(昨年11月の発表会にて)

今回の学習指導要領の改訂について田畑氏は、「10年に1回の改訂だが、かなり大幅な新しい時代にあった学び方の示唆が含まれている。ポイントは学校での学びと社会とのつながりを強めるためのアクティブラーニングという、生徒が自ら調べ、発表しあう取り組みだ。ただ、この部分は日本の教育現場としては、とっつきにくい。そのため、どうやってこれを実現していくかという点に不安に持っている。また、小学校からプログラミングや英語学習も実施されるが、このあたりは先生の指導経験も少なく、どうやって興味をもってもらい、それを継続していくかが課題とされている」と説明した。

  • 学習指導要領の改訂のポイント

アクティブラーニングに対して同社では、「Open Platform for Education」上で「協働学習支援サービス」を提供する。

「協働学習支援サービス」では、グループでの話し合いの音声をAIで分析し、生徒ごとの発話の状況や量、どういうキーワードが話し合いの中で出てきたのかを先生にフィードバックする。

  • 「協働学習支援サービス」

授業中はタイムラインという画面で、生徒一人ひとりの場所を特定し、発話内容を表示する。ここでは、感情分析も行い、けんかになっている、話が進んでないなどの場合はアラートを表示する。

  • タイムライン

また、感情の分類、感情を一定のアルゴリズムで数値化し、「平静」「喜び」「悲しみ」「怒り」に分類する。そして、子どもたちの感情変化を色で表現し、割合を表示する。気になる生徒については、データから成長度合いをチェックできるという。

  • 感情の変化を色で表現

  • グループ別の学習状況

  • 気になる生徒については、データから成長度合いをチェック

このソリューションは、2018年12月から「未来型教育京都モデル実証事業」として、京都大学 学術情報メディアセンター緒方広明教授と協力しながら実証実験を行っている。この実験では、AIと新しいデータ分析手法を試しているという。

実証実験では、AIを声と感情から数値化できない非認知能力を評価し、子どもたちの“やる気スイッチ”を発見し伸ばす教育に取り組んでいる。

  • 「ラーニングアナリティクス」を取り入れた新しい教育

例えば、予習してきた子は発言も多くなりオピニオンリーダーになるため、他の生徒から褒められ、学習への意欲が向上するという。生徒ごとに得意分野があるため、グループ編成を工夫するといろいろなシナジーが得られるという。

以前は発言する生徒とまったく発言しない生徒がはっきり分かれていたが、この実験を通じて、全員が何かしらの発言を行う傾向が見られたという。

以前はこういった分析をするには、録音した音声をテキスト化する必要があったが、時間的になかなかできなかった。しかし、今回のシステムを利用することで、授業の内容をその日のうちに分析し、改善点を見つけていくことが可能になるという。将来的には、改善点をレコメンドする機能をシステムに組み込んでいくという。

「NECは教育の専門家ではないが、やれることは、非認知能力を声や表情などでデータ化していくことだ。子ともたちの能力を多面的に捉え、先生の教える技術向上を目指していく」(田畑氏)

また、先生の残業を減らすために大阪市教育委員会に校務支援システムを提供して実証実験を行っている。このシステムでは、従来は紙や電話を使用した業務をICTに置き換えることで、どれだけ時間を生み出せるかに取り組んでいという。

大阪の実証実験では、校務における業務効率化だけでなく、教員のICT活用率が格段に向上したという。

また、大阪市教育委員とは、文科省、総務省とともにスマートスクールの実証も行っており、出欠席の状況、こどもの心理状況を天気マーク(アンケートで調査)で表示し、家庭での悩みなどの発見につなげている。ダッシュボードの「児童ボード」では、これら児童生徒に関わる校務および学習系情報を集約・可視化している。

  • 「児童ボード」

なお、京都、大阪での実証実験で利用されているソリューションは、今年度中に一般販売を開始する予定だという

「今後はGIGAスクール構想に対してもこういった技術を使っていきたい」と田畑氏は語る。

そして、GIGAスクール構想に向けては、学習者用端末の提供、通信ネットワーク環境を提供のほか、クラウドへの移行に向けデジタル教材・サービス「Open Platform for Education」の提供を行っている。

  • NECのGIGAスクール構想への取り組み

「デジタル教科書では、現在、4つのビューアのプラットフォームで提供されていますが、NECは4つともに連携して提供していく予定です。デジタル教材はシングルサインオンで利用していくいようにし、将来的には、保護者が選択して購入できようすることを考えています。学校が提供するものと、個人で購入するものはプラットフォームで共存していくことになります」(田畑氏)

  • NEC教育クラウドサービス

GIGAスクール構想は、今回の新型コロナウイルスの影響で前倒しする話も出ているが、田畑氏は、学校側が対応できるかが課題だと話す。

「1人1台はこの2年程度で完備されると思いますが、使い方については段階的になるのではないかと考えています。まずは、授業の中で調べたり、発表しりすることに利用されると思います。ただ、コロナの第2波を想定して、休校になった場合にどう利用していくのかについては検討しておく必要があると思います」(田畑氏)

なお、この部分については、GIGA スクール構想に必要な情報・知見の収集と共有、教育委員会・学校・先生の ICT 活用の相談窓口など設置し支援する「GIGA スクール構想推進委員会」が設立され、IT業界として支援していくことも発表されている。